俳句 『練習曲第一番 夏秋』 朗読

(朗読)

『練習曲第一番 夏秋』

始めに

 練習曲第一番、第二番には、2010年のうち9月以降の句を 四季に分類して掲載する。この時期は、小説への情熱も尽き、露伴の朗読をする他、全般に低調である。代わりに落書としての詩歌、句作の増加が見られるが、もとより酔いどれの戯れに過ぎず、それを改変してまとめたものがこれである。

雨を待つあなたにあげたいアンブレラ

[別バージョン
夢に逢うあなたにあげたいアンブレラ]

たたずめば卯波に遠き舟の影

吾が腕の庭木に朽ちてさつきかな

もつれてはほどけぬマユの後始末

岩礁を卯月の泡の白光(しろびかり)

氷響ひびの硝子(がらす)の酒がたり

よそゆきの浴衣着て逢う花火の夜

[パロディーの句]

祭火の遠き太鼓や影法師

逢いたさを夢に合歓(ねむ)りの花ひらく

こうばしく麦のみ先るみのりかな

気まゝなら唄ふしぐさも蟻の列

山渡る星に近づく気配かな

君のなみだを知ってか知らずかアルビレオ

新盆(にいぼん)の風につめたきものの影

秋ですね祈る者なきこの浜辺

忘られのサンダル貝のおくりもの

母さん母さんお団子しませう月夜です

父の背に眺めの釣りも友の鮎

[「鮎の友釣り」は、縄張りにおとりの鮎を泳がして捕まえる鮎釣りの方法で、夏の季語でもある]

名を刻む祖母の御墓やおみなへし

初秋の風に寄り添う別れ際

青々とただ青々と竹の春

宵に撞く鐘のあいまや虫の声

ほおづきのほお染め色してはぐれ雲

まだら猫秋の川辺の石つたう

[関係ないが、黒斑と茶斑の両親から生まれ得る三毛猫は、遺伝子の関係上ほとんどがメスなのだそうだ。これは「まだら猫」の前に「三毛猫」が上五に載っていた証でもある。]

なんとなく眺めています秋桜

薄雲を透かしてあかる月宴(つきうたげ)

名月や墓に向き添(そ)う銀の文字

おのずから飲み頃となるにごり酒

[虚子の句のパロディー。]

ただ秋の差し込む湯気や窓の月

十五夜に魅せられて酔う珊瑚の子

あの人を慕う夜長の銀河かな

秋空を仰ぎみるような君のこと

分水嶺に秋を迎えて鵙(もず)の声

ほたる草ともすともなくなみだかな

レグルスを音なく消える流れ星

きみの肌青みがかれば十六夜月(いざようつき)

わたくしの眠る日にもふっと流れ星

あしびきの山辺に染まる案山子(かがし)かな

恋しくて悲しくて泣くいとどかな

さんま高うして秋づけば大根おろしかな

今はたださらばと鳴くか雁の群

誰の血を吸ってかますます赤き空

肌さへもくすみして秋やすらかさ

焚き火宵をめぐりはしゃぎまわったのはいつの日か

あんたのためにまた編む小春日和だわ

アンテナも真っ赤に染まるからすかな

いちどくらい声聞きたくて……そっと秋のベル

ごめんねママ小春日和に嫁がせて

誰も泳ぎ切れなくなった海に落ちてた忘れ物

浜波や猫あしあとも冬じたく

抜けるような空運動会の筒の音

とんぼうは窓辺おり紙の鶴の先

あなたの幸せわたしの幸せ……いつかきっと秋の風

なく虫をしかるいとどの母心

秋刀魚揚げて今朝の湊(みなと)のはやし声

今を逃れてゆくあてさえも冬隣

遠吠の刈田の犬や汽車のあと

散りしきる銀杏に沈む入り日かな

色なくて風吹きませりもみの木に

十字架を飾りに遊ぶ夜長かな

枝豆を向かいの客のさわがしさ

きびすさえ返そうとしてからすうり

きゃしゃなのを守ってみせたい秋桜

逢いたくて逢いたくて逢いたくて秋のあなたよ

2011/9/30

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