俳句 『練習曲第二番 冬春』 朗読

(朗読)

『練習曲第二番 冬春』

湯どうふのひとりごころや燗(かん)の宿

[「寒の入」の方が良いかも知れず。]

橋げたの朽ち木の霜や五円玉

最果の流氷に逢う旅烏

天(あま)のかわら炎を囲む影ばかり

雪や今宵ワルツみたいな悲しみです

またたきは君の鼓動かすばる星

枯づたの怠惰に朽ちて風ばかり

ろうそくのほのおも冬の焦がれ星

かいろひとつ手のひらふたつ散歩道

ささやきの耳もと近くてクリスマス

[「耳もとに聞く」の方を取るか。]

鉄さびのレール廃坑の霜柱

友もなくよろけるこころ冷たさよ

怨みさえこころの糧と堪えしのぶ

枝の朽ちてなおさら願うあなたひとりを……

灰褐色のしぐれともなれ深き酒

手の甲を眺め暮しては寒椿

落ちてからおしゃべりしました寒椿

生きものの証もなくて忍草

シリウスを掴みかけて足の指を打つ

熊の眠りを知らぬそぶりの四十雀

冬ざれを迎えて酒の情けかな

あなたもしょせんかたきと思う枯野原

老い犬の遠音に籠もる雪もよい

ほがらかに染められし髪ゆきの降る

立ち枯れて想いの折れるなにがしか

あの花をあなたにあげたいクリスマス

いた飯にペスカトーレが掘炬燵

なにもかも無くして歩む雪ばかり

むち打たれしかばねとなる寒鴉

十字架も御墓に積もる雪のした

雪はつのる子犬の箱に音もなく

病棟のいのりの果てに降る雪は……

乾ききったサイレンに逢う夜更かな

絶望のすべては雪の静けさよ

葛ねりの甘きを好む雪見酒

ため息の息の細さよすばる星

凍空(いてぞら)にぶっきらぼうな鴉かな

カトレアのくちよりなにか物語

冬となり何ごとも空の青さかな

宿り木を抱えて眠れ冬木立

燃尽きて遠き煙よ枯葎(かれむぐら)

枯尽くす芦辺の音(ね)さえ齢かな

立枯れて日なたになずむ猫じゃらし

山眠る踏みならす子らの笑い声

冬ざれに賛美歌を聞くいろり端(ばた)

雪雲を仰ぐ芝居のひと盛り

嘴(くちばし)を堪(こら)えかねたるやのこり柿

たとえば君のマフラーにすらなれなくて

朝を待つ張り音も果てて蓮の池

山茶花の垣根の宿やひとり旅

ぞつとなる寒の鏡の己かな

食い荒らされてどす黒くなってた霜柱

風花(かざはな)を降らせよ白き月の影

枯れ果てて行く手をこばむ葎(むぐら)かな

お別れのベルふるさとは雪催(ゆきもよい)

ふとしたしぐさで僕らの春を願うのです

去年今年

ちょいと来ていやに長寄る師走客

歳越の鐘音を聞くひとり酒

部屋にまでいのりくださる除夜の鐘

おやすみなさいあなた近くて去年今年(こぞことし)

春には春の生まれたままのはしゃぎ声

ちゅんちゅんちゅん、米を慕ふや雀の子

みなは眠りたれ待つ苑やいのり人

葉桜をよろこびとして犬太る

かわず鳴く水田にこんな月あかり

大好きだよあなたに春のおくりもの

さいころに春をゆだねていのりかな

2011/9/30

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