俳句 『練習曲第四番』 朗読

(朗読1) (朗読2)

『練習曲第四番』

《脱俳化政策》なる記入あり

新年

よりどりの絵の具もなじむ初げしき

「土竜打(もぐらうち)なる言葉在」
叩かれておそれて籠もるもぐらかな

梅ひらくその日ごこちや風来坊(ふうらぼう)

こころ辺の夕べに散りてさえ返る

木造校舎僕らに別れの季節です

あたたかさ春より君を愛します

ひとりひとつ君には春の想いびと

ノートブックあなたふぉるだもさくら色

春まっ盛りより取りみ取りな試着室

ひばり天高くラピュータが苑のたたえ歌

幸せいっぱい青い小鳥よ風ひかる

プレリュードふたりの雨だれまるでメトロノーム

おさなさよ花火は遠く屋根のうえ

釣り人やひょうたん池には四十雀

おどりあかして水面(みなも)に浮かぶさがりばな

トルコマーチパレード夏も真ツ盛

君とメールまつりと海との夢がたり

押しよせて季題を遊ぶ蟻の列

あいさつをしかけ花火のひと盛

デリラとはシリコンバレーが夏の陣

夢に花火を宿す今宵よ誰も彼(か)も

秋どなりなんちゅう恋のあとしまつ

ひと粒ふた粒消されゆきます魂(たま)おくり

つついてみるなすびの馬よあなた何処(いずこ)

放課後のあなたのつくえ茱萸(ぐみ)ふたつ

酔わずともからりと明けて萩の露

みずいろの水草に逢ういわし雲

空に風船は色なき風とたわむれて

折れかけのつばさをつたう流れ星

マゼランの銀河に出くわす岬かな

八重山のほたるの秋やにぬふぁぶし

「中原中也原作」 だあれもいない秋の稲田のこの夜さひと夜

まわり灯籠ネバーエンディングな物語

燃えかすのちろちろ残る彼岸かな

おなかいっぱい星降る夜のシンフォニア

あんちくしょうめあたいのからだを居待月

あんたがたさどこからともなく秋の風

仲秋の名月見てます犬っころ

はぐれてもう愛を忘れた渡り鳥

釣り糸をたらすや銀河三千尺(パロディー)

もんぶらんたぶらかされてよかふぇの秋

信じてたものさえ遠くながれ星

唄を尽くして十六夜月(いざようつき)や野辺の秋

長き夜のまくらとろけて君の頬

生きたさをこらえてなんのすがり虫

秋の orchestra ねむれる森の symphony

僕の歌を投げ売りしました冬どなり

そして僕らに終わりの鐘が暮の秋

そして咲くこともなくいのち散りにけり

耳を打つこころの欠(かけ)や初しぐれ

風に祈りを……触れて冷たき御影石

生きもののいのちを遊ぶかまいたち

しぐれかけてあなたにはもう逢えなくて

シャンパンのにがわらいするような冬至です

merryChristmas 耳もとにささやいてみたい……けど

行き交うものは振り向きもせず冬の駅

いのる手の十字を奪う寒鴉

オーロラのかなたにひそむセイレーン

あなたさえしあわせでしたら冬蛍

厳寒のオーロラを愛すシベリウス

遠きひとのあかし春待のイヤリング

ケータイ

メールいっぱいの春をあなたに贈りもの

春色のケータイとしてストラップ

絶えがちのメール秋の日のエピソード

写メ見てはため息つきますながれ星

指で打つ恋の予感よ七分咲

雪もよいメールにあなたを待つばかり

返信のあなた欲しさよ夏休み

写メールのあなたつかの間の花盛

ピエロみたいだね君へのメールも夜長です

テレパシーケータイかざせば星ひとつ

無季

塗り込めて根もとの腐るおんなかな

あんたらを憎んでも憎んでもなお一人かな

きゃんきゃんと撲たれ子犬のしっぽかな

「自虐の心在て」 ぬくもりに触れてみたいな人柱

坊や

生まれ日の寒の小枝よ小鳥たち

おしっこを東風(こち)に目がけて坊やかな

この子には花のさかりを込めしかな

指先いっぱい春のしぐさの輪を描く

さるにてもこころ清らか花祭

満足な声も知らずに花祭

どこまでも瞳の奥の坊やかな

ことだまのちろつく春や夜に泣く

やわらかくにぎる坊やよ紙風船

くるまれてねむるよ坊や春がすみ

遊びつかれて坊やのつむる花日和

坊やかわいさにたんぽぽ踏まれる靴の跡

がらす窓のすみれ坊やのにらめっこ

[朗読に「がらす戸」とあるが、現代調に「がらす窓」に改変]

清らかなこころ若草の伸び盛り

そよ風吹けばねむる坊やの物語

初幟(はつのぼり)つかまりよろける坊やかな

星合をかなしくつかむ坊やかな

しかられてにじんで見えます初ぼたる

ゆびさき咥えてうちわと遊ぶ坊やかな

まあるい月をつかみたくって坊やの手

こおろぎとしのぎを削る夜泣きかな

カシオペアにMの字描く子のなみだ

もみじみたいもみじをつまむ坊やです

秋砂(しゅうさ)風をはらみ夜泣きを守る唄さみし

「坊やなお立てず」 歩き癖つけてた小春日和かな

懸命なクレヨンよごせば雪模様

テーブルのもく目に地図を見る子かな

七不思議

春かがみ手招きしてますおんなの子

短夜のピアノひともなく指ばかり

夕焼ににっこりほほえむ壁人形

廊下のかなたに血まみれを見る終戦日

あの物置より満月を見るとそのひとは……

白き腕に足を引かれて冬の池

雪の降る夜は真っ赤なプールの首浮かぶ

銀河鉄道

ちろちろと天(あま)の川辺の星燃ゆる

カンパネルラケンタウル祭の窓あかり

カノープス四次元方向の羅針盤

夢は銀河を巡るまつりの灯はともる

時の歪みのかなたに揺らぐかげぼうし

銀河にひときわ燃え立つような道標(みちしるべ)

時空針ゆがみの果に燃える雲

ジョバンニの汽車りんどうの花盛

このひとを守り抜きます誓星(ちかいぼし)

鉱質の句 四句

霊泉にあやしき月のゆらぎかな

廃屋(はいおく)の鬼火の舞やまいご道

鉱物の匂い欲しさよ神無月(かみなづき)

三葉虫のいのり儚(はかな)くこぞの雪

2011/10/23

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