俳句 『即興曲第一番』 朗読

(朗読)

『即興曲第一番』

僕らのこころの枯野に浮かぶ黄泉の月

ただ小鳥を愛した僕のこころの枯野かな

そしてひとりしぐれの宵の部屋とたわむれ

ひとりごともこの頃つまらなく思うのです

子守歌のとだえてもとだえても遠き春

穢されて踏まれゆく雪のかなしみは……

ぽつりぽつりと雪は降りますクリスマス

あの人のおもかげ色したクリスマス

ほらきみの鼓動に触れてみます雪の宵

雪の降る夜はお腹いっぱい眠くなる

例えばこんなすてきな夢をはる隣

あなたの背中に春と書きます薬指

やわらかくあなたの春を愛したい

ぷらくてぃす春はおけいこのぼうやです

あなたでなければ満たされないもの冴え返る

あなたひとりさくらの苑のなにもかも

ぼうっとして風うけたねゆき柳

とおくまでのねむり夜汽車よ春がすみ

例えばきみのほほえみみたいなすみれ草

あの日逆さまの鉄棒から見たねおぼろ月

塀につまづきおぼろ月夜……なのに猫の妻

秒針にまどろむ猫の物語

いくつもの嘘はあなたのやさしさ花だより

鳥にさらわれて羽の舞い散る蝶はいずこへ

あの人のおもかげ色してはる絵の具

ふで先のみどり葉にしてさわやかさ

う花染めてかあさ焼け鳥らのあそび顔

道あかりのした葉にまどろむあおがえる

瀬を深み葉かげも風のほたるかな

夜光虫のあこがれ満たせよ夏の星

校舎からプール見てたね夏の月

うちわ提灯金魚ぼんぼんあんず飴

汽笛遠くてケンタウル祭のてんきりん

サザンクロス、どおんと黒き闇ばかり

雲をはらう舟歌さえも星いのりかも

まち一つ埋み残して夏銀河

おみなえしより離れゆくものかいわし雲

どんなにどんなに憎んでも憎みきれない秋の蠅かも

いちょう並木わかれのふたり……なのにおなじ風

落ち穂ひろい古きアルバムの向こう側

去りゆくものは指すり抜けて砂の秋

あなたと夜這星まどろめばまぼろしの物語

くろがねの雲の裂け目よりふっと流れ星

さようなら雁に手を振るひとり部屋

ひと筆書きにして秋の終わりの散りゆくものを

鐘の音とおくこんな夕べの枯尾花

夢の跡に手を振りましょう初しぐれ

大好きであなた大好きで……でも……冬隣

シュランメルン、いく時代かの奏で唄

時の終わりの染め頻(しき)るような夕べかな

2011/9/5

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