即興

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即興

むかしの思いで幾つも幾つも心の中
浮かんでは消えてまた流れて現れて
何の為にそんな沢山の記憶が今でも
もう気持ちから離れた夢のように
いつまでも残っているのか不愉快で
アルコールを口の中に押し込めば
それっぽっちで感情がぼやけて
さっきの気持ちも遠くに薄れていく
これっぽっちで消えてしまう感情
始めから何の必要性も無いのだから
心の中に生まれてこなければいいのだ
余計な気持ちが胸を不愉快にするとき
アルコールを頼って皆忘れていれば
そうやってまた明日がやってくる

もう少しほんの少し頑張って
それで何が出来るというのだろう
だって本当はまるで同じなのだから
十年後に例えば消えてしまったとしても
今この瞬間に消えてしまったとしても
流れた時間は過ぎた後には無くなって
今も百年後もそのあいだの時間の幅も
みんな消えてなくなってしまえば
最後の時には何もかもが消えてしまえば
それならば始めから何も無かったのだと
生きた時間は存在しなかった時間と
何も変わらなくなるのだということ
そんなやりきれない思いをどうか
このアルコールがやわらげてくれれば
また明日を迎えるだけなのだから

今この瞬間にも時が少し流れて
その小さなな変化を思い出して
何もしていなにのにまた先に進んだ
ただそれだけの下らない一瞬が
たとえ何かをしていたとしても
本当はどちらも等しい価値で
ただ時間が流れたと言う事実に
集約されてしまうだけの事

ふと我に返ればまだ音楽が
忘れられたままのスピーカーから
こんなに大きな音で聞こえ続ける
今、音楽を聞いていたはずなのに
ずっとずっと聞いていたはずなのに
思い出そうとして頭ひねってももう
何一つ思い出せないのだから
きっとみんなそんな風に流れていく
少し前の出来事も
今考えている事も
みんなとてもぼんやり
とてもぼんやりしていて
存在などしているのかどうかさえ
価値などどこにも無いようなものさえ
みんなとてもぼんやり
とてもぼんやりしていて
そんなものを抱えたまま
いつの日かそのぼやけた重荷
降ろすときがやってきて
記憶も思い出もなくなったら
何の為に苦しんだのかなどという
馬鹿馬鹿しい命題も何もかも
消えて、始めからどこにも
そんなものは無かったのだから
意味なんて本当は何一つ
存在している理由は無いのだから

だったら今だって
それが今だって
もっと遠い先だって
何も変わらないのだから
本当は
何一つ
変わるもの
無いのだから

僕はどうしよう
もうすぐ音楽が終わる
待って
まだ僕は
生きていたい
音楽が消えるのは
それは嫌だ
感情が消えるのは
それは嫌だ
なぜ時は流れて
先に進んでいくのだろう
なぜ人は流れて
いつか消えていくのだろう
この沢山の気持ちも
沢山の思いでも
今まで考えてきたことも
みんなみんな無くなって
それが今でも遠い先でも
本当は等しい事象に過ぎなくて
こうして一人不愉快な夜も
でももしも誰かがいたとしても
いつかはきっと同じことで
みんな無くなるだけのことで
それが嫌でアルコールを飲んでも
まだ考えが止まらないまま
それが嫌で音楽をかけても
いつの間にか聞いていたことさえ
忘れてまた考えているのが
嫌でも不愉快でもどうせ何時か
そんな思いも消えてなくなって
何一つ残らないのだから

少しずつ
カーテンの向こう
明るくなり始めて
こんな短い間にも
確かに時が流れて
また、いつか
日が昇る
もうしばらく
ほんの少しの間
明るくならないで
せめて
今流れている
この曲が
終わるまで

P.S.
例えば、こんな詩を書いたすぐ後に
何も無かったようにもっと確りした
穏やかな形の整った詩を
書いて見せるのだけれど
もし、今そうしたら
あなたはそれをどう判断するのか
馬鹿馬鹿しいとは思いませんか?

作成時2002/1/31

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