断片的回想

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断片的回想

真っ黒な見えなきはずの手招きを
夢にほほえむピエロなるかな

助けてと床に転がるいもむしを
吐き気をもって神も背(そむ)けし

祈りがぽきり折れる刹那の無声映画を
眺めてこころうしなう案山子よ

あーおい、あーおい、空なのです
くーろい、くーろい、なみだなのです

なにもかもすべてばかりが空しさで
埋めつくされてたこころなるかな

朝になってこんなに黒いかたまりを
こころに浮かべて何の歌かな

みんなどうだってよきことを
しごく大切そうに暖めながら
歩いていくのが僕たちの
精いっぱいの生きざまで
それを端から眺めよなどと
硝子の向こうから眺めよなどと
恐ろしい指令を出したのは誰ですか

僕はあの日以来もう二度と
笑ったことさえありません
端から眺める君たちの
空しさばかりを踏みしめて
踏みしみながらに朽ちていく
真理もあらずに朽ちていく

それな哀しき動物の
端から眺めの恐ろしさ
震える指の一歩ごと
こころも亡んでゆくばかり
それでもなおかつパンドラの
希望にわずかにすがりつき
惨め惨めにしがみつき
お助けくださいと叫んでた
あの日あの時あの僕の
まだまだ幸せと今は知るのみ

ねえ、本当だよ、僕は本当に
会ったことがある、本当の
黒曜石みたいななめらかの
のっぺらぼうにふり向かれて
走り逃げたらかなたには
帰宅途中の人々の
穏やかそうな笑い声
慌てて声を駈け寄れば
ふり向きぎわをたましいの
途切れるごとき硬直と
どれもこれもがのっぺらの
顔なきものの姿して
黒曜石のなめらかな
そこびかりしておりました

鏡が落ちてる
青年はそれを拾い上げて
覗いたまんまに固まって
氷のすがたになりました
それはあんまり恐ろしき
こころを写した鏡でしたから
青年はそれに堪えきれず
抱え込んでいた奥底の
絶望のせつなに凍結を
成し遂げたには違いません
憐れな青年をもうだれも
人だとは思わなくなりましたとさ

眠れない悲しみが遠くを遠くを
吹雪くみたいな夜でした
けれども眠ったら恐ろしい
悪夢の腕がにょきにょきと
触れて遊ぶみたいな感覚と
追い掛けてくる恐怖とで
どうしたらいい僕はまた
闇を恐れてだらだらと
駄文ばかりを記しても
さりとて変わることもなし
夜明けに酒こそ近くなり
近ごろ震える指先の
末期のすがたとのみぞ知るべし

絶望の扉のはての絶望を
喜劇役者のわたし息づく

虚言一徹貫き通した諍いの
友をなくして眩しき満月

おやすみなさいねえ今日はまた眠ります
ずっと起きることはやはり無理なのです
Good luck to you.

2009/9/28

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