苦しいようって

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苦しいようって

毎日毎日苦しいようって
時々あなたは指先噛むのでした
ありきたりがどんどん安っぽくなったら
商店街のがらくたも踊り出しましょう
あんまり切磋琢磨したがらくたでしたなら
安っぽくなったありきたりの人形が
追い回したることのみをいのちみたいに
娯楽ばかりをあさり尽くした浜辺には
あなたを苦しめるばかりの人形が
ぎっしりと並んでおりました

人形は拡声器を自慢しましょう
うなずくことなき拡声器を自慢しましょう
受け手も求めず己(おの)がことばかりを
騒音よろしくがなり立てるものですから
葦原に震えおののくくらいの
優しい歌をさえ忘れたよしきりの
自慢話はもはやつんざくばかり
逃れようとするか弱き良心を見つけては
追い回してたり突っついて
怒鳴り散らしてみせました

良心よなにほどかよしきりの
がなり立ての快楽に必要なるか
餌あらばこそ餌を食うがこそ幸福の
己(おの)がさえずりに聞き惚れしばかりの
我らにこそはふさわしき
優しきものやせ衰えるを憐れみて
空腹をわずか堪えるほどの施しさえも
己(おの)が快楽を堪えるくらいなら
娯楽の心にはまるでそぐわぬものぞ
無意味なことなどせぬぞかし

そうして人は遺伝でなければこそ尊いものを
手渡しに守り抜いたせかっくの小さな欠片を
それが永遠(とわ)に未完であるという
自我の肥大を妨げるがゆえくらいの
小さき理由で消し去ったのであります
されど未完である欠片の隙間には
伝統やら文化やらではなくてもっと素朴な
僕らの優しさとかありきたりの良心とか
踊らされないくらいの逞しさまで
ぎっしり詰まっていたものですから
がらくたを磨き上げた娯楽の鳥どもの
人のひとたるゆえはもうどこにもなくて
ただ己(おの)が正統性ばかりをがなりたてる
立派な最新型の拡声器をばかり追い求め
そのスペックなどを探求しているありさまで
その己(おの)が歯車にどんどんすり減らされて
なんだか不愉快な気持ちも時々起こるのでしたが
どうしてもそれをきれいに組み立て直すことが
まるで出来ないのでありました

だから毎日毎日苦しいようって
時々あなたは指先噛むのでした
ありきたりがどんどん安っぽくなったら
商店街のがらくたも踊り出しましょう
あんまり切磋琢磨したがらくたでしたなら
安っぽくなったありきたりの人形が
追い回したることのみをいのちみたいに
娯楽ばかりをあさり尽くした浜辺には
あなたを苦しめるばかりの人形が
ぎっしりと並んでおりました

僕らどうしましょうか
たった二人でとぼとぼと
砂浜をどこまで歩きましょうか
僕らとていのちは大切で
明日の幸せを夢見るくらいが
人のいのちの精一杯で
だから僕たちどこへ向かったらよいでしょうか
海はこんなに水平線へだだっ広く
そのかなたには見知らぬ世界が
広がっていると思えた頃にはまだ舟を
漕ぎ出す勇気も得られたのでしょうが・・・

太陽を目ざす鳥一羽の勇気でさえも
それな太陽を知らずの愚かさよりのみ
生まれたくらいのものであるならば
情けなくも哀しくも感じられるのですが
それはそれ、僕らはやっぱりこの海の向こうに
何か豊かなものがあるとはとても思われず
それでもとぼとぼ歩かなければならないのであるならば

だから毎日毎日苦しいようって
時々あなたは指先噛むのでした
もし僕がその手を握りしめてなお
たった二人だけの小さな別の世界を
こころの中にでも打ち立てるくらいの
ほんの小さな勇気を持てたなら・・・
そんなことを海に向かって時々は
囁くこともあったのですけれども

今はもう黄昏です
ただあなたの幸せを
遠く祈るくらいが精一杯
あなたより駄目な僕がそっと
寄り添ったからとて何ほどの
あなたの幸せに寄与するでもなく
余計に苦しめるばかりなのですから
そう思えばもう何もできず
僕は静かに眠るのです
おやすみなさいあなたへ
僕はあなたのために何かをしたかった
それにも関わらず僕が何かをしたら
あなたはもっと苦しくなって
毎日毎日苦しいようって
なみだを流すに違いないのだから

2009/6/30

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