富子嬢に捧ぐ

(朗読なし)

世の人に似ずあえかに見え給う富子嬢に捧ぐ

作者、越智東風(おちこち)

虚(むな)しき夢幻(むげん)やひかれる君よ
邂逅(かいこう)あふれてたゆたう瞼(まぶた)
我に叶えよ、辛(つら)きこの世を
あまく染めてか熱き口づけ

飛翔(ひしょう)ならずやもがける心
ああ君知れば、嬉しかりけり
休めし翼薫(くん)ずる園(その)の
ああ君あれば、楽しかりけり

されどまた、風は来たりし
されどまた、つむじは起こりし

君にすげなきうねる不実の
恋慕(れんぼ)か不治のせまる嵐か
与えよ我に寄せる高波
こころならずや甘き口づけ

藤の花、垂れ咲きみだれ
ああ君なくば、悲しかりけり
藤の花、たなびく雲の
ああ君去れば、切なかりけり

倦(う)んじて薫(くん)ずる香裏(こうり)に君の
霊か相思の煙のたなびき
おお我、ああ我、辛(から)きこの世に
あまく得てしか熱き口づけ
あまく得てしか熱き口づけ

2007/12/10
2007/12/12さらに

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