即興詩集の辞

(朗読ファイル)

『即興詩集』

《昼の歌》

即興詩集の辞

麻酔の針がちくりと刺して
頬にも麻痺が及ぶ頃
重々したくちびるの暇つぶしか
あるいは失われし情熱の夕暮残照か
はたまた日々の気まぐれに過ぎぬのか
たまたまつけたるWindows
textfileのひとつも開き
羅列で満たす欲求が
激しく起こる午後ならば
気力のままに詩作をばかり
いくつ残すか今日のうち
駆け出したいほどのpassionが
マグマみたいにくすぶって
湯沸かし蒸気の熱気さえ
二度とはあらぬそのこころ
しっかと掴んでそのままに
keyboardばかりを叩くのだ
あるいは狐の嫁入りか
化かされた心持ちもするけれど
メビウスじみたる羅列の先に
待ってるものは何だろう

あるいは局所も麻酔ばかりを
リドカインだかキシロカインだか
成分ばかりがみなぎるちからと
突っつく絵柄じゃお子様の
紙芝居にすらならねども
感覚なくしたくちびるばかり
非常事態を宣言し
異常に怯えた深層の
crisisさえ高まって
せっぱ詰まったマグマなら
それならそれで有り難し
千載一遇の好機です

どうせ一日かかっても
二三の歌さえ詠めなくて
すぐあきらめる僕だから
これならいけるか一気呵成
怒濤の怠惰を列挙して
例えば詩作の四(し)の五(ご)のを
碌でもねえのも織り交ぜて
導火線にも火花よ走れ
今こそけじめは噴火のきわを
弾ける前に宣言せよ

窓は西日だお空は雲の
白き流れかそれでも晴れだ
風は聞こえぬ立て切り部屋の
窓辺の机に腰をば降ろし
keyboardなら指の配置も
pistol鳴るのを待っている
startlineはこの場所を
今こそゆこうどこまでも

どっくんどっくん心臓の
打ちかうリズムを確かめて
metronomeも軽やかに
どっくんどっくん繰り返し
いのちの限りを尽くそうと
走り出したる火花かな
火薬溜まりはこころうち
午後の日ざしよりなお熱く
燃え盛るような大舞台
謹聴謹聴拝借を
皆様どうかお静かに
しばしお付き合い願います

2009/08/12

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