短歌めざして

(朗読ファイル)

短歌めざして

大分ペースも落ちまして
筆走り得ぬ哀しみよ
早くも九〇分を過まして
十(とお)ともいたらぬ哀しみよ

数さえこなすは和歌ならば
さぞかし早きことかしら
むかし偉大な戯れ言ありて
一日句数の勝負さえ
いのちを張った者どもの
歴史時代すら懐かしき
さてこそ僕も少しだけ
習いもしようか今こそは

さらさらさら返してみたいな砂時計
こころのリズムも戻るかしらと

自転車の押したら泣いてたまた押して
されど明日はよき日なるかも

ベランダの朝を告げますつがい鳥
部屋にひとりの僕をかまうな

また真似だ、真似のしぐさと口調とで
歌いやがるなレディーメイドよ

蹴る石のなめらかにしてみなもには
ふたつみっつの輪っかばかりを

ひとりひとりひとりひとつの貝殻を
見つけてみたいな春のあしおと

本ばかり読んでみたとて報われぬ
水に入らねば水を知り得ず

天の川有限無限の煌めきも
こころの中を易く流れき

春雨の名残の湖(うみ)のかたほとり
石を投げ込むあの子この子よ

窓ガラスにごり残してつゆ明けの
いま夕空に…………………

……………………………………………
……………………………………

……ああ
しょせん夢には勝てぬのか
気づけば机にうつぶすばかりを

花粉より逃れし薬に眠らされ
くしゃみもせずて小一時間かな

かくして短歌の野望もついえ
はたして「いま夕空に」のうしろには
どんな言葉を入れたかったものやら
例えばシャレて「七色の虹」?
もっと実直な「虹の架橋」?
忘れあたまはぼんやりしたまま
ようやく起こした瞼はだるい
もはや詩を継ぐ勇気も出ないし
ふさぎ込んでた小さき部屋の
檻の動物じゃあやりきれないや

気分を変えるは空の下
一番手っ取り早いなら
僕はしばらくファイルを閉じて
散策しようと思うのだ
いやいや、皆さん待ちたまえ
まだまだ諦めたわけじゃあない
夜になったら出直して
歌の続きもいたしましょう
だからそれまで、わずかのあいだ
あばよ皆さんお元気で

2009/08/16

[上層へ] [Topへ]