呑んだ、呑んだ、呑んじゃった

(朗読ファイル)

呑んだ、呑んだ、呑んじゃった

呑んだ、呑んだ、呑んじゃった
久しく訪れなかった痛快の清水どもが
僕のこころを讃え踊らせる一刹那
そは祭もたけなわ頃の突拍子もない
囃子太鼓の打ち間違いくらいの喜びであって
あああいつらも頑張っていやがる、俺さえもきっと
そんなオプティミストの情熱をさえ
早くも帯びて来るのでありました

呑んだ、呑んだ、呑んじゃった
呑んじゃったときたら覚悟を定め
アラーやらマホメットなどはいざ知らず
イザナギやスサノヲの語録の奥底に
はたして禁酒の文字などあったものだか
デュオニュソースばかりを見習いたまえだ
贈り物さえオリンポス住まいの神々にあっては
ネクタルやらなにやらで満たされはしなかったかと
浮かべて陽気にひとしきりはしゃぎ出す
そんな久しぶりの酒なのですから

後宮からの誘拐じみた足取りで
オスミンみたいにヨイドレテみたい
誰しもそんな思いをひっそりと
抱いて天真爛漫の音楽をばかり
聞いてみたりはするのですが
はたしてそれはワインだったかビールだったか
それともモーツァルトだったかハイドンだったか
水割りだったかロックだったか
てんでのご時世我らにゃ分かりゃあしませんと
投げ出す匙をさえひるがえして酒をば注ぎ入れ
それじゃあどなたも、異存はあるまい
さっそく一杯吟味しようではありませんか

ぷふぁあ、これまた妙なる調べよ
雑味のまるでないというに複雑な
嬰児(えいじ)の知り得ぬ壮麗の喉越しか
水の味さえ新たに知らしめす
これはもう、まったくたまったものでは
まことに堪えきれたものではありません
第一皆さんよくよく考えてみるがいい
どだい日本の湿気もときめく夏とやらの
ほとほとやりきれぬ倦怠のきわのほどを
僕らこの一杯ためにこそあるとは信じ
茹だるような熱気に感謝の言葉すら
ひとつふたつと掛けたりはしないだろうか
こんなだらけた感慨に耽りながら
ああ、僕はまた一杯いただくのであります

呑んだ、呑んだ、呑んじゃった
とうとう久しぶりに呑んじゃった
どれほどの久しさっていやあ
わずか数日という人様もあるけれど
それは酒飲みどもの干からびごころを知らぬ
浅学無知(せんがくむち)の蒙昧(もうまい)に他ならず
幾日(いくにち)の離ればなれを互いに素知らぬふりして
なおもこころ留められたる酒と僕とばかり
もつれて解けることなき一縷の望みのほどを
ああ、誰か解き明かしてはくれんかな

2009/08/16

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