即興的情熱

(朗読ファイル)

即興的情熱

圧倒的即興詩集の
極めつけたる情熱を
午後の日だまりに込めまして
たましいの焼却もこれが定めと
羅列のごとくに燃え盛る
ごうごうごうごう響きあつめて
スケッチいちまい一気呵成に
駆け巡るものは鉛筆か
巷の巡査も呆れ果て
異常なしとて歩み去る
勝手にしやがれアメンボの
水たまりにでも取り入って
君らは胡麻でも擂(す)るがよい

僕はひとりで列挙する
圧倒的即興詩集の
極めつけたる情熱を
わずか日だまりに込めまして
春一日(いちじつ)の長閑ばかりを
せめて怠惰の償いとなすために
駆けっこするよりなお早く
僕のたましい燃え盛る
スケッチかしこもみみず腫れ
漢字もろくさえ記せぬ男の
山河のたくる春風(しゅんぷう)ばかりを
僕は捕らえて書かねばならぬ
己(おの)がいのちを筆記せよ

時空秒針の空しさよ
しばし時を零(ぜろ)にとどめよ
無形にして盛大なるこころへ
さ迷える思想を還元せよ
四百余丈(しひゃくよじょう)の染め物は
透き通る清水に晒されて
長閑にあるのはまことによろしい
よろしき反物を埋(うず)め尽くして
あふれる情熱を列挙せよ

少年の落書きは陳腐ならずや
青年の巧みは表層ならずや
されども老齢(ろうれい)の狡猾はどうあれ
病葉(わくらば)のぐじぐじとした醜さが疼(うず)きだし
侘びと腐敗とはさながら表裏一体の
不快ばかりを起こさせはしないだろうか
されば汝、己(おの)がたましいのありったけを
飾らぬところの率直さと
飾るところの巧みさと
陥ることなく突っ走れ
留まることなき疾風の
後悔などは顧みず
論考するこそ愁いなら
足を留めず踏む土の
appassionataこそ愉快なれ

お日さま目ざして若葉の萌えあがるがごとく
初夏のおしゃべりから蝉ども這い登るがごとく
おたまじゃくしの共食いすらをものとせず
鳴きはらす蛙声(あせい)はみなもを埋め尽くさんがごとし
ありきたり繰り返される雲の一目惚れやら紫陽花ばなや
ありきたり行間を埋め尽くすオノマトペどもの
たとえ疾駆の糧とならずも気に病むこととてなし
すべからく踏み台となして今こそ走り抜け
飛べ、高く、遙かかなたへ
大地を蹴って大空駆け抜けろ

さあさあ愉しく歌いましょう
本当の言葉など今は知らずともよし
ただただ愉快と突っ走れ
お空は真っ青雲さえないぞ
旅客機一つに白跡(しろあと)付いたぞ
それと小鳥が交差したなら
あっと驚くくらいのこころだ
なんとだらけた感性じゃないか
僕はそれを糧として詩を書くぞ

羅列しながらお茶とて飲むぞ
新茶は味より香りの頃が
お値段ばかりも萌えゆる風情か
それでも不景気ものともせずに
飲むべし、書くべし、休(やす)らうべし
三つの「べし」と深くして
お茶菓子くらいのうぐいす餅も
もちもちしててすがすがし
されども今こそ歯医者の後だ
さすがの僕とて我慢はするぞ
窓辺は早くも初夏の気配だ

さあさあ圧倒的即興詩集の
極めつけたる情熱を
わずか日だまりに込めまして
のどか一日(いちじつ)の思いあふれて
今こそ即興詩集をつくろうではありませんか

2009/08/13

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