祈りさこさえて

(朗読ファイル)

祈りさこさえて

祈りさこさえて
祈りさこさえて見た花は
たんぽぽの横、紅梅の下
はなびら悲しく病んでいて
ひっそり咲いてはおりました
祈りさこさえて見たとても
花の名前は知りません

無数のいのちの咲くときは
春の種撒く神々の
わずかばかりの濃淡と
いたらぬいのちも生まれます
花を知らずに消えるもの
伸びゆく葉っぱを枯らすもの
茎がただれて悲しみの
水垂れしながら朽ちてゆく
そんな種だってあるのです

けれどもそれまた幾百の
あるいはもっと沢山の
発芽もいたらぬ土塊(つちくれ)の
この世を知らぬ種よりは
なお幸せとばかりに君たちは
奇妙な意見を押しつける

それは花畑管財人たる僕らの
はたから眺めた感慨に過ぎず
何十あろうか葉の病んだ
何十あろうか根の朽ちた
また何十あろうか虫にたかられ
やがて茎から崩しゆく
それな草木の嘆きは今日も
大地にこだまするばかりです

けれども、そんな花の嘆きさえ
いっぱいの笑いの渦にのまれては
埋没して、神々にはまるで伝わらないのです
いいや、あるいはもっと酷い
間引(まび)くことなく見捨てられ
それが神々の総体的愛情という
やさしさと氷上のつめたさの
表裏一体の姿なのです

祈りさこさえて
祈りさこさえて見た花は
たんぽぽの横、紅梅の下
はなびら悲しく病んでいて
ひっそり咲いてはおりました
祈りさこさえて見たとても
花の名前は知りません

ああ、だから朽ちかけの花びらよ
あなたは、あなた自身の心でもって
あなたのいのちを信じることでしか
救われの道などありっこないのです
僕たちせめてありきたりの自身に感謝して
おのおののその精一杯の息づくありさまを
たちまち何かと比較するでもなく
ただ日だまりが暖かいばかりのありがたみでもって
感謝と翌日を迎え生きること
それ以外には救いの道など
ありえようはずはないのであります

2009/08/13

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