「ビアガーデンの夜空を仰ぐの歌」

(朗読ファイル)

ビアガーデンの夜空を仰ぐの歌

 「乾杯!」と、夜空に浮かぶ提灯の、灯しともせば笑い声。運ぶ給仕の奔走と、グラス打ちかう喧騒は、真夏の夜の奇想曲(カプリッチョ)。踊れや歌え泡たちよ、たち昇るよう舞い踊れ。集えや騒げ客たちよ、仕事も忘れてうち騒げ。

 今こそ黄金(こがね)のビールの向こう、駈け昇りゆく火の玉が、どおんとはじけて始まれば、赤や黄色や橙(オレンジ)や、碧(あお)や翠(みどり)に花ひらく。空一杯に広まった、せつないのちよどんと散れ。

 「きれい」とささやく姉さんと、「酒だ」と呼んだおじさんが、顔を見合わせ笑い出す。愚痴をなくしたネクタイも、学び忘れた学生も、見上げる顔を染めつくし、酔いにまかせておしゃべりだ。

 空のかなたは星たちの、微(かす)かな光きらめいて、羽ばたくような白鳥も、流れる水を浴びるのか。夏の三角指さして、何座でしょうと尋ねると、幼顔した娘さん、「あれは酒座」と答えてた。

 その三角の真ん中に、火の玉ひょいと飛び込んで、ぱっとはじけてまん丸の、笑顔ひとつと開く時、提灯揺らした夏風に、かすかな秋の声がする。はっと思って見上げれば、またひとしきり空を染め、今こそさかりと輪を描き、夏の花火は咲き誇る。

 冷やしたグラスを握りしめ、ひとり眺めた黄金色。楽しさはじけて沸きのぼる、苦み溶かしたビールなら、淋しさくらいは胸に秘め、喉を潤す歓びを、与えてくれるジョッキから、鳴り響くよう飲み干した。つかの間を生きる僕たちの、今宵一夜のよろこびよ。

[私のつたない俳句]
白鳥の
 馳せわたります
  大花火

 ビール色した
  花火をとかして
   提灯おどるよ

[同席の友人の返句]
  みちたりて
 財布も肝も
夏の果

[別の学生の答えて言うには]  しあわせは
  かろき酔(ゑ)ひたる
 花火かな

[隣のおじさんの飛び入りするには]
腹痛をかえり見もせず飲み干して
 みじか夜に聞くうなり声かも

[私のひとりつぶやいてみるには]
  名残とは暑さばかりのこの頃を
 ひやかすみたいだね宵のビヤガーデン

[さっきの幼顔の娘さんは]
この胸のさかずき満たせ天の川
  乙姫(おとひめ)たちの宴いずこへ

        2008/5/3

2011/10/13

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