訣別の歌

(朗読ファイル)

訣別の歌

さようなら、叫ぼうと僕はしたけれど
何が別れの形相(けいそう)だか分からない
浮かぶそばからびらびら破いて
酔ってるばかりが酒飲みなのです

たとえば君は立ち上がる
二度とはお会いしたくないという
まことにそれはごもっともであり
僕には止めるすべとてないや

さようなら、手を振りかざそうと僕はしたけれど
何が正統の仕草だか分からない
愛しさばかりが降りしきる今宵も
留まるくらいが酒飲みなのです

たとえば僕はさらけ出す
偽りなきひたむきな情熱でもって
まことにそれは僕のすべてであり
さればこそ留めるすべとてないや

さようなら、夕べの呑み仲間
さようなら、友と信じた者よ
憎しみつのって君は戻らぬを
ひとり眺めるくらいがいまは酒飲みなのです

たとえば僕らは手を分かつ
からくり時計の作用みたいにして
過去の思い出がいっぺんに黒ずんだとて
そいつを阻止するすべなどないや

さようなら、さようなら、もうお会いしません
夕月も僕を見てびっくりしているくらいです
さながら僕はガラスのひぐらしみたいにして
カナカナ鳴いてでもいるのでしょうが

だからもう、さようなら、さようなら
溢れ出る人並みは町を掻き分け掻き分け
僕の独立独歩を奪い去ろうとするでしょう
逃れるための代償はちょっぴり口惜(くちお)しく
けれどもよろしい、僕はもううしろへは退かぬ
永遠(とわ)のひとりぼっちともなりましょう

さようなら、さようなら、もうお別れです
さようなら、さようなら、もうお会いしません
叫ぼうとしたけどさみしさひとしきり
あふれるグラスも満たされれば泣けてくる
それでもねえ、僕は負けたりしないや
残された四人席をばひとりで占領し
酔ってるばかりが酒飲みなのです

2009/07/03
2009/07/06改訂

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