ゆく秋の歌

(朗読)

ゆく秋の歌 (さっちゃんへより)

消せるとはいい訳みたいなえんぴつで
しるす間もなく君が好きです

春雨のたそがれ頃のしずくには
傘まち人のなみだ混じるよ

色のみを違(たが)えておんなじ携帯の
恋もしたいな合わせストラップ

よかったねいいことあったねと耳もとに
ささやく気配も春の潮騒

アレグロは止めますふたりの二楽章
待ちぼうけしてる今日はアダージョ

あんたらのべったりですねと噂され
照れてみたいな宵の待ち人

軒花の火ともし頃をただいまと
声もふくらむ二年目の春

牛飼いの煙も細るねむり火を
夢に託して満天の星

蛍草こぼすなみだのきらめきを
見守るくらいの何のやさしさ

柿若葉キラキラきららめくほどの
点と描けば夏のキャンバス

あれはまだ十五の夏の物語
パラソル待つ駅とおき人影

触れようとしかけ花火のおどろきも
浴衣の君も僕のしあわせ

たとえれば線香花火の悲しみを
宿し影さえ夏の去り歌

アルカンの化学式さえにじませて
追試覚悟の恋のおもみよ

甘くってもういっこだけ伸ばす手の
こころもふとる午後のおやつよ

夕焼けの染め織るものか山紅葉
もらい映して風のとんぼよ

祈りさえなかれなみだの恋心
それな彼ゆえ今日のため息

粉雪のリズムとたわむれ歌う子の
あやし声さえ母のぬくもり

あふれてはこぼれ涙の祈りさえ
あて名忘れて個室プレート

咲きかけをなだめ仕草もつかの間の
戻りの雪にこごえ椿よ

ふきのとう雪解(ゆきげ)の頃を春あらし
吹きの遠くをなんの足音

春はまだ泣きむし色したあの人を
慰めきれない梅のつぼみよ

ららりらら春待児童の校舎より
唄なお高く未来えがけよ

空にほらぽっかり浮かんだ雲ひとつ
そんな日もまた嬉しかったね

肩に手をぽっかり雲のなにげなさ
触れてかしげる君の片頬

よきことのひとつふたつも見つめつつ
よせ波ごとに貝のひめごと

油彩画の下絵のらふの下心
ほどいてみたいなたばね髪の毛

なくしもの見つけ隠して君の手を
あったかいなんてひらかせ指輪よ

銀匙(ぎんさじ)と輝き勝るシャンパンと
友のかどでとたなむけの歌

言葉では伝えきれない愛がある
手を取りあっていこう明日へ

2010/3/13

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