夢見頃、あるいは三十の短歌

(朗読)

夢見頃、あるいは三十の短歌

さくらさくらほろ酔う夢も覚める朝
 散るよ散るよと庭の子の唄

おやすみを夢みる頃に降りしきる
 高き御空にトナカイの鈴

夢なんて思いがけずに駆け抜けた
 校舎時計も僕のアルバム

野焼火の河原を走る煙にも
 精一杯の夢はあります

無限には広がりかねますこの胸を
 この胸として夢よ羽ばたけ

憧れを羽ばたくほどのイカロスを
 夢みごこちと笑う太陽

風は立ち子らは遊びを砂の城
 夢みるくらいにさらさら消えます

風船の夢みて笑うおさな子を
 起こさないでね今の幸せ

蓑虫のゆるき夢さえ包みます
 ゆらりゆらゆれ風のゆりかご

花は散り夢みあの子の靴音も
 忘たみたいな第二病棟

たぶんもう夢のおわりを有明の
 凍れるなみだ風に解かそう

世の中は広くて僕はちっぽけで
 ポケットの夢にぎりしめるよ

都会には馴染めなくってふるさとの
 去りゆく雲も夢の果てまで

誰にだって夢をかなえる鐘の音(ね)を
 そば耳たてます今日も明日(あした)も

夢だなんて幼い頃から脅されて
 囚人みたいな夢を追います

酒ばかり毎日毎日飲みつかれ
 床にグラスも朝に見る夢

雪は降るけがれごころを慰めて
 くすぶる夢を埋めつくして

ぬばたまの御髪を夢に追い覚(ざ)めの
 あふれるなみだ雁の鳴き声

もつれあう最後の糸をぷっつりと
 切られて痛いの夢のちぎりよ

夢なんて信じるものかとなげく夜の
 裏切らないものお金欲しさよ

夢にさえうまく鳴けない鳥だけど
 あたいいつでもあんた見ている

いにしえのなみだも夢も早乙女の
 思いの果てを沈ませの池

ふと笑う仕草わすれてアルバムの
 夢に会います君が遠くて

夢どろぼう指であなたの落書きを
 受けとめたいほど永遠(とわ)のしあわせ

夢にまたさやかに燃えて咲く花の
 去りゆくまえの恋よ目覚めよ

夢にさえ遠のくあなたは教室の
 机のすみのわたしじゃ駄目かな

メールには委ねたくない夢がある
 むすぶ靴紐きみが家(うち)来る

初恋のふるえながらの告白も
 初寝の君も夢の架け橋

咲き誇れ夢みる僕らも初夏の
 いくえを彩るまつり花火よ

せせらぎを染め散りやまぬもみじ葉の
 去りゆく夢を夕月とどめよ

覚書

・作成期間、2009/10/23-31

2010/2/14

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