短歌 『etude 4』 朗読

(朗読)

『 etude 4 』

2011年

かさねしつ学びの苑のふるさとを
別れ日としてむすぶ靴紐

透かしみるワインレッドの月あかり
かざして耳を澄ませればなみだ

待ち人を待ち尽くす雨の夕暮に
はかなくも散る花のゆくえよ

[あるいは「バラの名前よ」か]

不意に手を握りしめますベルの音に
消されたくない想いつのらせ

菜の花のかすみ日和に掴まえて
たとえば君の頬にくちづけ

どんなにもどんなにどんなにこらえても
こらえきれないわたし砕ける

僕らには清新の風を奴らには
まがいものした断罪の火を

あの店のあの子の束ね髪の毛を
ぐいぐいしたいな僕の初恋

立ち枯れの枯れ野にすさぶ老い犬を
あざ笑います冬の将軍

白亜紀の砂岩にひそむほたる火の
結晶さえも銀河鉄道

五線紙にひと筆書した雨粒の
降り止みません眠くなるまで

たったひとつ分からないものあの人の
ほほえみみたいなひとみ水晶

卑怯とはわたくしを指す言葉です
穢れ穢れて生きてゆくのです

踏む砂の静寂(しじま)の夜の冷たさに
君は怯える僕の言葉を……

さくらさくらワルツ月影のシルエット
もつれる二人なんのくちづけ

[これは上の句で俳句として完成してるなり]

病む雁の波間に朽ちて歌ばかり
かすかに残るそれもやがては……

服は裂け穢され尽くした人形を
埋めゆきます雪の静けさ

駆け出そうと仕掛け損ねのロボットを
見捨てて歩む腕の一本

たんぽぽのあの花ざかり懐かしく
語り合います里の友だち

たんぽぽの懐かしかりしあの頃を
語り合います里の友だち

たんぽぽの懐かしかりし花ざかり
語り合います里の友だち

暮れなずむ火ともし頃のともし火を
灯すともなく照らす月影

塗りたくり群れ集います誘蛾燈
死ぬまで踊れソドムの末裔

誰もみな行き交う窓を見る人の
願いはかなくいちょう散ります

きみ色のスナップ一枚コスモスの
頷くみたいな風に揺れてた

あし癖も寝癖にしたって酔いどれの
落書よりかなんぼかマシかも

指にまた針をつついてまぎらかす
哀しみ色したいのちだけれど……

エピローグ知らずに眠るおさな子の
メルヘンみたいな夢の続きよ

かの空を眺め続けるもどかしさ
夢に見ますか軒のつばめ子

カンパネルラひとのいのちのともし火を
運びゆきます銀河鉄道

残り火のくすぶりながらもうごめいた
しわくちゃだらけの枯葉一枚

あなた色の思いなくしてモノクロの
寂しさばかりつのるクリスマス

こらえてもこらえてもこらえてもこらえても
こらえきれないあなた大好き

まあなんでしょう立派なお花の色とりどり
チルシスとアマントは月のした影

ひとりよがり?
ははん、それがどうした
お前らの
信任なんか
知ったことかよ

人の世の波の絶え間に置き去られ
干からびてゆくわたし貝殻

お飾りを着こなすほどのデフォルメを
競い合います宵の見世だな

わたくしのわたくしらしさのプロフィール
波に削られ砂と消えゆく

いつまでも音楽だけがゆらゆらと
火を灯します闇のファントム

ぽつりぽつり消されゆきますともし火を
あなたに寄り添いほほえめばなみだ

ぽつりぽつり消されゆきますともし火を
あなたに寄り添い眺めせし間に

たとえば僕が僕でなくなるその朝に
相も変わらず小鳥らの声

タロットのほほえみに似たきざしさえ
宛てなく述べる冗談みたいだ

ねえアリョーシャ、あなたの一番の宝もの
それは指輪ではなく、魔法でもなくって……

ごめんねもう答えられない僕だけど
生きているのです未練がましく

ひとしきりつのれる雨のやどりして
何を待ちます傘の忘れもの

時のかなたにふたりの愛のいとなみを
持ち逃げしたいな今を捨て去り

あたいあんたのお飾りじゃないって刃向かって
ぶら下がってたやっぱあんたに

疲れはてさ迷う蟹のすじ跡を
更地にもどす朝のさざ波

千年の悟りもせずに享楽の
演繹すれば我も消される

遠く遠く苦しんでいるような君がいて
今でもこころに語りかけるのはなぜ?

もう誰も信任しませんただ君の
声が聞きたいそして沈黙

いきるためにすべてのものを
規律にせよと父は言います
何も知らない子供みたいに
すべてを打ち壊したいと
今は、願うばかりです……

世の中のすべてのものがわたくしを
縛りつけますつばさが重いよ

思いばかりまどろっこしてくもがいても
いつもと同じ朝は来るのです

もう誰に笑われたってかまわない
あなたのもとへ駆けてゆきます

愛だけがひとのこころのともし火を
静かに灯す……今はそれだけ……

           (おわり)

2011/11/23

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