2012年の和歌

(朗読なし)

注意

 このコンテンツは、詩のコーナーの「Xの座標」へと編纂された、その以前の状態をとどめているに過ぎません。

2012年の和歌

「梁塵秘抄」

永久(とわ)のみことのりを
  夢みてうたうあの人を
    あざわらいます
  わがよ春びと

「幼なじみとわかれるときに」

そっぽむいた あなたの髪は はつ風に
  吹かれながらも 夢を追いかけ

「二年目の盆に」

お供えの
  餅はきなこを さわらびの
 鈴のねに聞く あの人の風

「ふられたばかりのその人は、
   傘もなくってなみだです。
  ふられたばかりのかなしみで、
    どしゃぶりのなかを駆け出せば、
   なんだかなおさらみじめです。
     部屋にもどってぐしゃぐしゃの、
       服を着替えてねむります。
    あしたの朝まで泣いたなら、
      いつしか梅雨も晴れるでしょうか」

どしゃぶりに うちまかされた あじさいの
   なみだも晴れて うつす色彩

「バルドラの野原にさそりが一匹
   いたちに追われて清水の井戸の
  底にぽちゃりと落ちました。
    さそりはいのちを思います。
   たくさんの殺したいのちと、
     殺されたいのちが混ざり合って、
       ただみずからの罪深さが、
     思いおこされて果てました」

水に落ちて、改心しました虫けらの
  いのちをついばむものさえもなく

「真っ白な少女がありました。
   色素が足りないのでありました。
  他にも大切なものが足りなくて、
    空に召されるのだと、
     お医者さまが言っておりました」

病床の
  白百合花は ひとの香に
 染まることなき
   まぼろしの花

「『ジョヴァンニ、ラッコの上着が来るよ』
   ザネリもみんなも、カンパネルラまでもはしゃぎして、
     まつりのなかへ消えてしまいましたから、
   もう賑やかな街なみから逃げ出すみたいに、
      ジョヴァンニはなにか懸命に走るのでした」

漆黒の 河辺にかゞる ともし火と
  まつりもはてゝ いざよう月夜と

「情と結ばれない、
   意を説明したような落書きを、
     どんな歌手も歌おうとは思いません。
  ただあなた方だけが、
    それを詩だと言い張るようです。
      ただ数に押し込めただけの駄散文を……」

にせものだよ あんたのことだよ
  砂浜に ガラス玉した
    歌人とかいう

「葉月のつごもりの日」

ふたりの指 線香花火の はかなさは
 きらめきみたいな 夏の終わり日

「夕やけ小やけに日は暮れて
   夕やけ小やけの歌がする
  振り向いたら僕の影ぼうしがずっと
     ひとすじに伸びているばかりでした。」

さみしくて
   夕焼け小焼け 風唄(かざうた)に
 くちずさみます
     きみの名前を……

「どんなに変えようとしても、
   わたしはこの部屋から逃れられなかった。
  未来をみちびく希望もなくして、て
    ただ、いじけていたんだ……」

飲みかけの
   ワイングラス くだけては
  真っ赤な指で ひろうかなしみ

「回想と現実」

けれどもはや、僕らのきらめく季節さえ
   まぼろしみたいな、今はただ秋……

「ただ学生服を着こなして、
   いつしかスーツを着こなして、
  おなじしぐさの、おなじ価値観の、
    あなたがたが、僕はこわかったんだ。
   だけど……」

きり/”\す
  がなり声した 蟻どもの
    声に怯えて 歌う哀しみ……

「恋するピエロの歌」

あなた欲しさに
  さまよい歩く 月の夜の
 浜のピエロを おぼれさせてよ

「ウィーン郊外」

ホイリゲに
  シュランメルして
 ほろ酔いの
   四重奏さえ いつの人かも

「どんなに耳をすませても
   ただしんしんとする雪の静けさばかり
  もうみの虫のうた声は、
    二度と聞こえてはこないのでした」

みの虫の 風にあおられ 朽ちました
  唄声もなく 降りつのる雪

「警句」

にくしみを
  殺す勇気も なくしては
 愛することさえ 誰も出来ずに……

「声のかぼそる夜更けには、
   わたしの希望もくじけてしまうの」

あたいはきっと 不死鳥なんだと 思うけど
  なぐさめしてよ いまはそれだけ

後書

 2012年の落書から、
   和歌を抜き出して変えました。
  それからちょっと詞書を、
    加えておもしろくしてみます。
   ただそれだけのことでした。

2015/10/26 掲載
2015/11/04 詞書下書

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