ユーサーの死

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アーサーの少年時代

 マーリンに連れ出されたアーサーは、エクターの元に預けられた。彼は王宮の財政を任される騎士であり、ユーサーへの忠誠高き男として知られていた。生まれたばかりのアーサーはまるで黄金に輝くよう、エクターの妻(名称?)は少し前に生まれた自らの子供ケイと共に、この美しき幼児を大切に育てた。幼い2人はよく母親からブリトン人の神々の物語を聞かされた。ケルトの民とも言われる自らの神話についてである。(その引用がいくつか続く。)

 しかし王宮では、イグレインが泣きながら懇願するので、ユーサーは1度だけアーサーの元を訪れたことがある。エクターに挨拶を交わし、幼き幼児を妻に抱きかかえさせれば、妻は涙を流しながらアーサーを抱きしめた。エクターと妻が大切にアーサーを育てていることに安心した2人は、城に帰っていった。「自らを後継者であると思わせずに育てるこそ肝要」とのマーリンの意見に従って、この後ユーサーがアーサーの元に訪れることはなかった。しかしイグレインは忘れた頃に密かにアーサーの様子をうかがいに来るのだった。エクター達は王妃と悟られないように知人のように接したので、アーサーはいつしかイグレインのことを、「○○姉さん(後で考える)」と呼ぶようになった。彼女の美しき姿は、未だ10代の娘のようであったからである。

 少年になったアーサーは、ケイと2人で遊んだ。例えば馬に乗って野を駆け、例えば森に入って探検をしたり、動物を狩ったりもした。時には木を剣に見立てて騎士の真似事をするうちに、高じて喧嘩になることもあった。2人が傷だらけで帰るのを見て、母は嘆き、父は大いに笑った。

 やがて少年達を恐怖のどん底にたたき落とす、お勉強のシーズンが到来した。もちろんこれまでも両親から読み書きなどは楽しく教わっていたのだが、ここにきて正式な家庭教師をつけて、勉強のお時間が設けられてしまった。

 アーサー達はいろいろなことを学ばされた。例えばローマ帝国以来の伝統となった文法と修辞法を学ばされた。数学も学ばされたが、これにはケイがのめり込んだ。アーサーは大嫌いな科目であった。アーサーが興味を持ったのは各国の歴史と情勢についてだった。(これについて大陸のゲルマン人の国家などを記述。)

 しかし、基本的に机上の勉強にうんざりしたアーサーは、自分だけさぼって森に向かうことがよくあった。そこでマーリンという不思議な少年に出会い、たちまち友達となった2人は、さらに森の奥に入り、これまで知らなかった森の不思議な精霊や、洞窟の中の不思議の世界を探検した。マーリンとはその後も度々森で遊んだが、それはケイが居ない時に限られていた。ある時、マーリンは空を飛べるかとアーサーに聞いた。そんなことが出来る奴が居るものかと笑うアーサーに対して、マーリンは空高く飛び上がり、目を丸めたアーサーが自分も飛びたいと懇願すると、マーリンは疑いの心なく自然と一体になれば誰にでも出来ると入って、こつを教えてくれた。彼はただ一度だけ空を飛ぶことに成功して、マーリンを共に大はしゃぎしたのだが、その翌日2人で遊んでいるところを訝しがったエクターが見つけ出し、勉強をさぼって何を遣っているかと手を引っ張る。「だって僕は彼と遊びたいんだ」と叫ぶアーサーだったが、「誰もいないではないか。ふざけた真似は止せ」とエクターに諭され、えっと思って振り向くと、そこには誰も居なかった。それいらい森では決してマーリンに会うことはなかった。

 その頃ユーサーの宮廷では、云々。(必要なら記入)

騎士養成学校

 10代に入ったアーサーは、ケイと共に騎士達の子供を集めた学校に通うようになった。長らくローマの先進文化を教授したブリトン人達には、ギリシア人達が開始しローマに受け継がれた教育システムが流入し、ローマが崩壊し駐屯兵が消えた後にも、まだ何人かのラテン語教師とギリシア人の教師が残って教育の火種を保っていた。また剣術や馬術を磨く実践科目にはブリトン人の優秀な教師が居た。ローマ式の教育を受けたユーサー・ペンドラゴンは、教育の火種を絶やさぬため学校を復興し、王宮の近隣には有力な騎士の息子が通う学校が保たれていたのである。この学校はアーサーの時代にも継続されていたが、彼の死後顧みられなくなってしまった。これはまだずっと先の話しである。

 学校でも金髪で均整な顔立ちのアーサーはたちまち注目を浴びた。白い肌は温和しそうなのに、顔は生意気そうだというので、上級の者達から目を付けられたことがある。その内の一人がアーサーをからかって馬鹿にした時は大変だった。激昂して殴りかかり、鼻をへし折り、相手の腕を折って、後でエクターから大いに叱られたものである。しかし上級生の中でも一番屈強のリーダー格の少年を、剣術の時間に皆の前で打ち負かしてからは、誰もが彼に一目おくようになっていった。

 彼はたちまち同級生を束ねるリーダーとなり、実戦競技では率先して最優秀の成績を収め、一方学問においては、あまりに出来不出来が激しいので、教師達を悩ませた。おおよそに彼が得意としたものは、戦術、国際情勢、弁証法などであり、まるで興味を示さなかったのは高等算術、詩文、そして法律だった。アーサーほどの偉大な統治者が法に興味を持たなかったのは不可解かとも思われるが、統治と学校の法律は異なるものらしい。いずれ当時の彼にはまったく興味がなかったのである。そして法律と算術は、むしろケイの方が興味を持って、親のエクターなどは2人の得意・不得意科目の差があまりにも激しいので、2人を足して初めて一人前だと言って溜息をついた。

 授業が終わった後は、よく王宮の城下に広がる町に出かけ、新鮮な都市の息吹きに触れて遊び回った。彼らにとっては町中も、森の中と同じぐらい、好奇心をそそる探検の場所だったようだ。時には授業を抜け出して市場に繰り出した。音楽の授業は最優秀では無かったものの、アーサーは竪琴によって歌を歌うのが大好きで、市中で芸人の技芸や音楽がある時には、実技の授業さえさぼって出かけることがあった。町中にはいろいろな刺激があった。(それについて記述。)

 実技の授業ではアーサーは大抵負けることは無かったが、時に彼を負かす強敵が2人居た。一人は長年一緒にいて彼の癖を知り抜いているケイであり、彼は恐ろしくスタミナが無頓着な人間であった。つまり何というか、1日たっても戦い始めと同じようにいくさが出来るのだった。後には九日九晩水の中で息が出来るとか、九日九晩寝なくてもいくさが出来るという伝説さえ生まれている。さすがのアーサーも戦い初めて数時間仕止めきれないと、その後はケイが勝利する決まりになっていた。しかし実際のところは大抵1時間と立たないうちに、アーサーがケイの剣を打ち落とすことは言うまでもない。

 もう一つ不思議なことはこのケイは相手がアーサーのような剣術の上級者だと、時には恐ろしい集中力を持って互角にも戦えるのだったが、自分の命が危機にさらされていないような授業中の実技では、時にぼうっとして格下の相手に打ち込まれることがよくあった。このうっかりした側面は幸い実際のいくさでは見られず、アーサーは後々までこれを不思議に思ってからかった。

 他にもう一人、時にアーサーを負かすことがあったのが、ガウェインという少年だった。彼はかつてユーサーに反旗を翻したオークニーのロット王の息子だったが、ロットがユーサーに降ったために、この学校に入ることを許されたのだった。ガウェインは実際はロットの初めの妻の息子だったが、後の歴史書では誤って2人目の妻モルゴースの息子だとしている。一見細身のアーサーとは違って、頑丈な筋肉質の体を持つ大男で、非常な怪力の持ち主で、剣や槍の扱いではアーサーには敵わなかったが、投石や取っ組み合いではアーサーより勝っていた。2人は当初互いをライバル視して仲も悪かったが、授業を抜け出した先でばったり鉢合わせをしてからは、非常な仲良しになったのだった。彼は梨と林檎が大好物で、アーサーとケイと3人で市場へ繰り出して、時には屋台の果物をかっぱらって食っていた。恐るべき事に彼らはこれをリンゴ狩りと称していたのである。獣狩りと称して、肉屋の肉を拝借した時は、折り悪く主人に見つかって、その晩から母親が口を利かなくなったので、さすがのアーサーとケイもこれにはショックを受けて、以後このような悪戯は止めにした。

注.ガウェイン

 円卓の騎士としてはもっともアーサーと共に行動する期間が長い騎士の一人。後半ラーンスロットに息子を殺されてますが、ここでは彼をモルゴースの息子とする原作に従わずに行きます。アーサーとガウェインを同じぐらいの年齢と考える方が自然に思えるからです。これはもともとモルゴースとアーサーの近親相姦事件を同じぐらいの年齢で行わせるために、モルゴースの年齢を引き下げたために起きた問題で、アーサーを中心におくと、モルゴースの年齢を引き下げる方が得策だと思えるので、とりあえずこの設定で話しを進めてみましょう。

フランク王国の影

 507年のことである。折しもユーサーの王宮では、海を隔てたブルターニュの地に領土を持つ大陸のブリトン人たちが、最近勢力拡大著しいフランク王国のクロヴィス1世(在位481-511)から度重なる攻撃を受け、諸王の王であるペンドラゴンに、軍の派遣を要請してきたのである。さっそく王宮では会議が開かれたが、ユーサーの片腕であるウルフィアスと、戦略に優れた能力を発揮するブラシャスが激論を闘わせた。この2人には因縁があった。かつてウルフィアスがブラシャスの名をかたり、ブラシャスの主君であったティンタージェル王ゴーロイスを討ち果たしたからである。今日に至るまで双方にわだかまりを持って接していたから、議論の席などではよくぶつかり合うことがあった。この時も、即時の派兵こそ諸王の権威を保つことだと主張するウルフィアスに対して、ブラシャスが、現在の我々をも凌ぐ勢力であるフランクに、国内も完全に掌握しきれていない我々が立ち向かうのは、荒唐無稽の夢物語だと反論を唱え、ウルフィアスは、
「今兵を差し向けなければ、守ることのない形だけの王として、誰も従わなくなるだろう」と声を荒げる。騎士達の間からも、「その通りだ」と賛成の声が上がる。
「では我々が大陸に渡った後、北方のブリトン人が再び反旗を翻したらどうする。また機会を狙い島を奪おうとする、大陸からのサクソン人や、北部のピクト人たちが立ち上がったら、どう対処するというのだ。」とブラシャスが言い返し、これに対しても騎士達の間から、賛成の声が上がる。

 意見が割れてしばらく膠着が続いたが、ある日のこと、使者の一行が王宮に入った。イタリア半島を治め、またローマを治め、かつての西ローマ帝国の後を継いだかのような東ゴート王国の王、テオドリック1世(在位493-526)からの使者である。書状にはこのようなことが書いてあった。

 「我が国婚姻を持って近隣の王国と結ぶも、最近のフランク国王クロヴィス1世、婚姻を蔑ろにし、各国に攻め上り、これを亡ぼすことはなはだし。ブリタニアの地、かつてローマ帝国の領土であり、我がイタリア半島とは親しい関係にあり。ここに同盟を結び、共にフランク王国に備えることを望む。」

と記されている。詳しく話を聞くと、双方に貢ぎや婚姻のない同盟であり、フランク王国に使者を立て、両国が同盟を結んだことを伝え、牽制とするとのことだが、一つだけ条件が付けられていた。テオドリックは東ローマ皇帝の信任を得た王であるから、形式上は東ゴート王国を主、ブリトン王国を従として、証書を作りたいというものだった。

 これによって再び激論が闘わされたのは言うまでもない。そこにブルターニュから風雲急を告げる知らせが入ってきた。フランク王国の最大の敵として、クロヴィス1世が恐れていた西ゴート王国を、フランク王国の南方に位置する西ゴート王国を、ヴイエ(トゥールーズ付近)の戦いで討ち破り、広大なアキテーヌの大部分を確保したというのだ。西ゴートの王は戦死。部族は遙かイベリア半島へ逃れたという。しかもフランク王国は東ゴート王国に対して使者を送ったそうだ。何を画策するのかは分からない。しかしもし逆にこの2王国が結びつけば、ブルターニュ地方のブリトン人を守りきれないことは、誰の目にも明らかだった。

 ここにユーサーは決断し。東ゴート王国の同盟国となり、あちらを兄とし、こちらを弟とすることで交渉は成立した。これに合わせて、ユーサーは王宮にあった国家財宝の一部さえ、ローマに差し出したのである。ブリトンの諸王の一部はこれに大いに不満だった。軟弱ものとののしるものもあった。彼らは国際情勢や駆け引きなどは好まない、正義とか屈辱とかで動く非国家的で、部族的な王たちが多かったからである。

 これによってブルターニュ地方へのフランク軍の進出は止められた。しかしこれが遠因となって、再び国内に動乱が起こることになるのだから、政治の世界は難しいものだ。

モルガンの夢

 イグレインとゴーロイスの子供達のうち、長女のモルゴースだけは父の面影を覚えていたため、王宮内にあらぬ波乱を持ち込まないためにも、ユーサーの側近のもとで育てられることになった。残りの2人はまだ幼いため、王宮で育てられることになった。王宮では2人がゴーロイスの子供であることを、例え噂にでも口にしたものは、即時に処刑するとの厳しい布令が出され、また2人の娘のそばには、信頼おける下女達が選抜された。3人の娘を王宮から遠ざけるべきだという意見もあったが、イグレインからアーサーを奪ったうえ、3人の娘達を奪うことはユーサーには出来なかった。いずれいつの日か全てが伝わる日が来るかもしれないが、それまでに愛情を注ぎ精一杯育てよう。ユーサーにはこのような夢見心地の甘いところがあって、それが彼の優れた特質でもあり、同時に欠点でもあった。モルゴースもまた、常に監視の目が光っていたとはいえ、時々姉妹達と逢うことが許され、またイグレインのもとに訪れることが許されたのである。

 イグレインとゴーロイスの末の娘モルガン・ル・フェは、幼き頃から人並み外れて感受性の高い子供だった。このような子供には、しばしば精霊が働きかけて、不思議な力を与えることがあった。幼い彼女はよく恐ろしい夢に悩まされて、イグレインの腕の中で突然泣き出すことがあった。それは決まって、薄暗い森に囲まれた湖の中から、不思議なもやもやとした人のような形が、モルガンの名前を呼びながら、こちらに楽しい世界がある、さあおいでと手招きをしている夢だった。モルガンから夢の話を聞かされたイグレインは不安を感じ、ユーサーの王宮に付属するキリスト教会の神父などに聞いてみるのだが、「夢の神などは存在しません」とか、「信仰が優ればやがて消えます」と言うばかりで、どうにも役に立たない。ブリトン人の間では、この時期まだケルト人の僧侶として一時は王をも凌ぐ力を誇った、ドルイド(Druid)の一族の子孫達が活躍していた。ユーサーもまたブリトンの王として、無頓着にキリスト教とドルイド神官達を身の回りに置いていた。そこでイグレインはドルイド神官のもとに向かい、夢の話しをすると、
「精霊が子供の魂を呼んでいるのだ。しかし善良な精霊か、悪霊か、魂を奪うつもりか、霊力を与えてくれるのか、それは誰にも調べようがない。いずれ、その呼びかけに答えないようにしたほうがよい。」
と説明した。やっぱり頼りになるのは、民族の神官だ。夫はキリスト教を推進しているが、私にはどうもしっくり来ない。だいたい神が貼り付けにされるなんて、それじゃあ頼りないわ。そんな想いを新たにしつつ、イグレインはモルガンに、決して呼びかけに応じないように何度も何度も注意した。モルガンは泣きながら頷いたが、夢の呼びかけにも泣き出さないぐらいの年齢になると、いつしか悪夢は見なくなったのである。

 そんなある日。モルガンは、夜中に眠れずに起きだした時、下女達がこっそり内緒話をしているのを立ち聞きした。彼女たちは、もしばれたら、即首を刎ねられる恐れすらある話しを、密かにしていたのである。すなわち3人の娘達がユーサーの子供ではなく、ゴーロイスと呼ばれる、かつてユーサーの討ち滅ぼした騎士の子供であることを。

 それまで、母が時々ユーサーにうち解けない感情を向けているのを、直感的に知っていたモルガンは気になって仕方がなかった。姉のエレインに相談した時は、大笑いされて有耶無耶になってしまった。母に直接聞いた時には、母は怖い顔をして、そんな馬鹿なことを言うのは、二度と許しませんと叱りつけた。自分自身も、どうしてもユーサーを父と慕うことが素直に出来なかった。どうしてもわだかまりがあった。それがこの話しを聞いて解けたのである。しかし真実を知ったからと言って、彼女に何が出来るだろう。彼女はエレインにも話せず、ただ独りで本当の父親のことについて、父を殺したユーサーについて、あれこれと悩んでいた。

 そんなある日の夜。モルガンは久しぶりにあの夢を見た。もやが現れると、懐かしい声が響き、こちらに向かって手招きをしている。彼女は恐れて逃げようとしたが、彼方の方から、
「父に会いたくはないか。父に会いたくはないか。」
と何度も呼びかけてくるではないか。彼女は硬直した。あるいは、呼んでいるのは、父ではないだろうか。本当の父さんが私に会いたくて、昔から呼びかけているのかも知れない。そんな思いが胸一杯に広がって、どうしても逃れられなくなったのである。そして、ついに彼女は湖に足を踏み込んでしまった。突然恐ろしい腕が湖から沸き上がり、彼女の足を掴んだ。「きゃあ」と叫んだ時にはもう遅かった。すさまじい力で彼女は水の中に引き込まれてしまったのである。

 気が付くと、不思議の国の一室に彼女は横たわっていた。そこで彼女は夢の女王マブに出会った。マブは、戦いの女神メイヴが、人の夢の中に投影された姿である。モルガンは、マブからゴーロイスが亡くなった時の全てを幻影に透写され、すべてを知った。マブは、復讐を誓うなら、お前にすばらしい力を与えると誓った。モルガンはそれに応じ、それ以来夢の中でマブから様々な妖術を学んでいったのである。

 目が覚めると、モルガンは夢の中での出来事をすべて忘れてしまっていた。それどころか女中から聞いたうわさ話まで忘れてしまっていた。マブが全ての記憶を封印したからである。まるで夢の中の世界と、現実の世界には何の繋がりもないように、彼女は相変わらずユーサーの子供として、幼き日々を過ごしていくのだった。この封印は、アーサーの顔を見た時に、解き放たれることになるだろう。

ベイリンとベイラン

 ある時剣術の授業中、剣術を教えるX(後で騎士の名前が入る)が
「本日より新たに加わることになった」
と2人の騎士見習いを紹介した。皆の前に登場した2人は、驚くほどよく似ている。
「兄弟だ。名前は兄がベイリン、弟がベイランだ。」
と紹介された。島の最北部、現在のノーサンバーランドから王都に逃れてきた騎士の子供達だという。かの地は北方の民ピクト人達の住む邪悪な土地だと聞かされていたアーサー達は、このことだけでも好奇心に駆られた。だが何よりもまずその腕っ節を確かめてやらなければ。

 さっそく剣技を見極めようと、ガウェインが立ち上がり、「待て待て」とアーサーやケイを初め、数人が名乗りを上げた。師範の裁量により、ケイとベイリンが、ガウェインとベイランが闘うことになった。たちまち新人を罵るヤジが飛び交う。騎士養成場でも上位に入る2人を相手にして、果たしていつまで剣を交わせるか、そんな賭け事さえする奴らもいた。しかし誰も兄弟に賭ける者がいない、剣を構えるベイリンの勇姿を見てはっと思ったアーサーは、
「よし、俺があの兄の方に張ってやる」
と慌てて飛び入りで参加して、賭けた人数分のコインを投げた。賭場は大いに盛り上がり、「わあっ」と歓声が上がる。師範の騎士は頭を抱える。たちまち2組の試合が開始した。

 模擬の木剣で、頭部への打撲が禁止されているとはいえ、当時の試合は生易しいものではない。場合によっては、骨を折る。内臓も破裂する。そのまま不具の生涯を送ることだってある。激高して暴走を始めた場合のために、背後には生徒達が飛び出す準備さえしている恐ろしいものだ。双方剣を構えるなかに、ベイリンがまだ一本の剣を腰に掛けているので、
「なんだありゃ」
「落とした時の用心じゃねえのか」
「用心、用心、立派なことよ」
と馬鹿にする者もあった。

 しかし剣は激しく唸りをあげ、最初の何太刀かを振り合わせれば、兄弟の剣の巧みに誰もが気付き、やがて場内は息を潜めて、その試合に引きずり込まれた。ベイランとガウェインはほぼ互角に剣を交わし合い、しばし息をつかせぬ妙技を繰り広げたが、ベイリンとケイの試合は、ケイが何太刀か切り込みベイリンの剣を打ち付けると、3度目の剣を激しく打ち払ったベイリンが、跳び下がってもう一本の剣を抜き放ったのには驚いた。片手に一本ずつの剣を持って、ベイリンは楽しそうに笑っている。ここに来てから初めての笑顔を見せやった。

 これにはアーサーも驚いた。剣というものは、両手で持って初めて全力を預け、素早く切り返すことが出来るものだ。太刀の数が二倍になったからといって、それをコントロールする人間の精神まで二倍になるものではない。腕力まで二倍になるものではない。よほどのきめ細かい巧みさを持ち、しかも怪力でなければ、見てくれだけで何の役にも立たない技だ。あえて二刀構えて笑うのは、強敵を知らない田舎ものか、それとも・・・・。

 その答えはすぐに出た。ふざけやがってと切り込むケイの剣を、見事にあしらうその巧みは、二本の剣が共に舞い踊るほど美しく、華麗で、まるで音楽でも奏でるかのよう。軽いリズムを付けてケイの剣を吹き飛ばすと、もう一本の剣がケイののど元に突きつけられたのである。
「それまで」
と騎士が判定を下した。軽く剣を振り回して伸びをしてみせる、きざなベイリンの姿が憎たらしい。しかしアーサーはそれどころではなかった。
「おりゃあ。」
と叫んで、人数分のコインをかっさらうと、世紀の大勝負に大勝利を収め、遠くで見ていたベイリンが何事かと思うぐらい、あっちの方で盛り上がっていやがる。これだから品のない奴らは嫌なのだ。ベイリンは心底がっかりしてしまった。それがアーサーの第一印象であったから、彼は後々までそのことを想い出しては、一人で含み笑いをしたものである。

 その頃ガウェインとベイランの試合は、今だ互角に渡り合っていたが、次第にその力の差が明らかになってきた。すなわちガウェインの繰り出す木剣の数が増え、ベイランが次第に後に下がると、ガウェインがとどめとばかりに剣を振り下ろす。その瞬間、剣をいきなりガウェインの顔面に投げ込んだベイランが、同時に体を横に振りその剣を交わすと、激しく蹴り上げてガウェインの剣を手元から吹き飛ばしたのである。おのれ怪しい術を使うやつめ。2人はついに素手で取っ組み合いを始めたが、しかしこれはガウェインこそ望むものだった。すなわち優れた怪力でついにベイランを組み伏せると、その顔面にこぶしを突きつけて、どうだとすごんで見せたのである。ここで師範が勝負有りの裁定を下し、ガウェインの勝利が確定した。もちろん弟の方には賭けていなかったアーサーの勝利も確定したのである。

 その後ピクト人達の話しを持ち出した時、ベイリンとベイランが腹を立ててアーサー達と取っ組み合いになったこと、そして次の剣試合ではアーサーとベイリンが勝負をし、前に二刀流の妙技を見ていたことによって、なんとかアーサーがベイリンを打ち負かしたことなどを経て、この2人の騎士達もまた、アーサー達と次第に親しくなっていったのだった。とうとう彼らは、騎士学校の5人組みを自分達で名乗り始め、時には森に狩猟に出かけたり、盗賊の出るという村で、盗賊狩りにさえ行うようになったのである。今に思えば、アーサーにとって最も幸せな日々であったのかも知れない。そんなある日、アーサーは宿命の出会いを果たすのだが、これはまた次回にしましょう。

運命の出会い

 ブリトン人の血と共に、ローマ貴族の遠い血を引くユーサーは、ギリシア人教育者を迎えての修辞や論理の授業と、騎士を養成するための実技を兼ねた学校を作り、短い時代ではあったが、文芸と武芸の統一が模索された。かといって帝国華やかなりし頃のように、ラテン語とギリシア語を公用語として自国の言葉以外に丁寧に教え込むような教育者おらず、またギリシア語など必要とするものなど誰も居なかった。したがって数学でも歴史でもブリトン人達の言葉で教え、正しいラテン語を使用した授業は、せいぜい詩学のときぐらいのものだった。自由7科と呼ばれるような、正しいカリキュラムが組まれていたかどうか、相当怪しいものである。しかしその詩学の授業で、今日はあのホメーロスの「イーリアス」の出だしを教師が教えてくれたのだった。

 英雄物語の大好きなアーサーは、たちまちこれに引き込まれた。小さい頃聞いたケルトの神話のク・ホリンのことなどすっかり忘れ、自分をアキレウスだと思い込んで、空想に耽っていたが、どうしても続きが気になるので、思い立って教師の所まで出かけることにした。もちろん相手の都合などは知ったことではない、ほとんど飛び出すようにして家を出た。

 教師の邸宅は何故か入り口に兵士達が構えている。無視して入ろうとしたら、さっそく肩を掴まれた。何をしやがると騒いでいると、何事かと出てきた教師が、どうしたのだと訊ねる。実はイーリオスの続きが聞きたいのだと叫ぶので、掴まえた兵士達も思わず笑ってしまった。教師が私の生徒に間違いないと言うので、アーサーはそのまま中に通されたのである。

 部屋に入ると、一人の乙女が腰を下ろしている。アーサーがこれまで見たことの無いような、綺麗な服装を飾って、町の女達とはまったく違う色の白い、ほっそりとした優しい笑顔が、柔らかくうつむいてアーサーに挨拶をした。アーサーは驚いて、ぽかんとして、突っ立っている。自分では気付いていないが、彼も実際は大した男前だったから、窓からの日を受けて輝く金髪の髪から覗く、キョトンと不思議そうな瞳を見付けた彼女も、同じようにどきりとしてちょっと静寂。そこに教師が入り込んできた。
「彼女は、ユーサー王の娘、モルゴース王女ですよ。」
と紹介するが、ついでにモルゴースにアーサーのことも紹介してくれた。しかしユーサー王など知ったことではないアーサーは、ああそうですがぐらいで、へりくだることを知らない。まあいつものことだ。モルゴースは、ちょうど別の講義を受けていたのだが、
「私もホメーロスが聞きたいわ」
と言う。そこでイーリアスの講義を行うことになった。講義というと少し語弊がある。実際はほとんど好奇心任せのアーサーに粗筋を紹介しているようなものだった。アーサーはもう娘さんのことも忘れて、瞳を輝かせて、物語にのめり込んでいる。モルゴースは羨ましくてたまらない。こんな自分の好奇心と情熱に任せて、好きなように生きてみたい。話しを聞いているうちに2人も大分うち解けて、気楽に話しをするようになっていった。やがて教師が、
「ちょっと休憩して、何か飲み物でも用意しましょう。」
と出て行ってしまうと、モルゴースは軽く溜息をついた。
アーサーが、「どうしたのか」と聞く。
「私は毎日、兵士達に護衛されて、堅苦しい毎日を繰り返すのが嫌なの。あなたが羨ましい。私も町の中に出てみたい。自由になって遊び回りたい。」
と訴えるので、
「それなら館を抜け出してこい。僕が案内してやるから。」
と安請け合いしてしまった。
まさか抜け出してくるとは思っていない。
「抜け出すなんて無理だわ。」
「そうかな。遣ってみなくちゃ分からないさ。」
とさも自分なら抜け出しそうな口の聞きようだ。
モルゴースは、
貴方に何が分かるのよと叫びそうになって、
見詰めた時に、やっぱりきょっとんとした瞳で、
まるで悪意も屈託もないので、思わず黙ってしまった。
「もし抜け出せたら、
王城の前の路を真っ直ぐ歩けば、
やがて騎士養成学校がある。
休日でなければ、僕はそこに居るから。」
といって笑っている。モルゴースが頷いた時に教師がカップを持って戻ってきた。こうして2人は運命の出会いを果たし、モルゴースは館に戻ると、抜け出すための算段で頭が一杯になった。私は幸い王宮から出されて、警備も2人の妹に比べればずっと手薄。やって出来ないことはないのかもしれない。そう思うと、ベットに入っても、眠れなかった。そして抜け出したら、あのキョトンとした瞳が、と想い出すと急に一人で赤くなったりしていた。アーサーもまた、イーリアスのこと、そして今日逢った可愛い女性について、頭の中で行ったり来たりして、ベットの中で眼がさえ渡り、どったんばったんと暴れていたのである。

不思議の森の中で

 下女を味方に付けたモルゴースはついに屋敷を脱出した。変装して歩く町中は、市民の活気に溢れて新鮮な歓びに満ちている。ついに騎士学校の門で待ちわびると、アーサーは「本当に出てきたのか」と大いに驚いた。今日も5人そろって、町に繰り出そうと思っていたところだったのだ。さっそくモルゴースを皆に紹介したアーサーは、彼女を町に連れ出したのである。モルゴースもがらの悪そうな少年たちに恐れを抱きながら、アーサーの無邪気な瞳を善人と信じ、彼らに付いていった。特にガウェインの姿は初めはおっかなくてしょうがなかったらしい。しかしこの日以来、彼女はごくたまに館を抜け出して、彼らと遊び回り、市井の生活に接し、楽師の技を楽しんだり、その内アーサーに合わせて、一緒に歌ったりしながら、次第にうち解けていった。

 しかし王都の警備はそう甘くはない。モルゴースが館を抜け出している事はじき明らかになり、特に遊び相手がアーサーだと知れると大問題になった。まさか異父兄弟で引かれ逢うとは、ユーサーもイグレインも思っても見なかったからである。さっそく警備が厳重になり、モルゴースは厳しく叱責され、館から出ることは難しくなってしまった。

 この時期、ユーサー王にとっては、東ゴートとの同盟以来不満を高まらせつつある、北方ブリトン人の王達の動きも心配であり、これにモルゴースやアーサーの事まで考えていたのでは、心がもたない。北方でかなりの勢力を誇るロト王と婚姻関係を結び、反乱のおさえとするために、モルゴースを嫁に出したらどうかと思い始めた。ロト王はすでに前の妻との間に、ガウェイン、アグラヴェイン、ガレス、ガヘリスの子供たちをもうけていたが、先だって妻を亡くして、今は悲しみにくれていると聞く。率直に言えば政略結婚だが、悪い話しではない。年齢だってまだ40代に入るか入らないか、夫としてはむしろ安定した歳の開きではないか。ユーサーはイグレインにも話したが、妻も胸騒ぎを感じていたところだったから、アーサーの側にあるよりはとこれに賛成した。もちろん本人の同意など無用。それが当時の高位の娘の結婚の姿であった。

 そんな事はまるで知らず、モルゴースはもう一度何としても館を抜け出そうと、懸命に作戦を練っていた。アーサーの誕生日に、お祝いをする約束をしていたからである。これはアーサーの仲間達も知らない、2人だけの約束だった。そして彼女は、大分時間に遅れたけれども、ついに館を抜け出して、待ち合わせの場所に走ったのである。

 アーサーは待っていた。館を抜け出したのが発覚して、モルゴースは外に出られないと聞いていたが、それでも彼は待っていた。もしかしたら、今日は抜け出してくるかも知れない。そんな気がしてならないのである。時間を過ぎても帰れなかった。これはアーサーにとっては珍しいことである。何事をも割り切ることを好む彼が、割り切れない思いに悩まされ、ぐずぐずと待ち続けるとは。そこに彼女が息を切らせて走ってくる。スラリと折れそうな細い体を揺らしてくる。そばにせまって顔を合わせた途端に、何だか可笑しくなって、二人で笑い出した。

 アーサーは、「森に行ったことがあるか」と聞く。「森の中に?」とモルゴースが返す。「誰も居ない森に行こう。僕が紹介してやる。」と手を取ると、二人で町の向こうに歩き出した。少し行くと馬が止めてある。わざわざ用意しておいたのだ。びくびくして馬に乗れないモルゴースを助けて、自分の背中に座らせると、勢いよく走り出した。風を切る逞しい腕の下から、モルゴースの抱え込む腕は柔らかく、2人は共に胸を高鳴らせ、森に向かって駆け抜ける。

 アーサーは森の神秘を彼女に教えてまわった。森の奥に分け入ると、突然その姿が変わるのだ。不思議な見たこともない動物や、薄暗いところを瞬くように飛ぶ精霊や、風に吹かれて黄金の粉をまき散らす大木が現れてくる。普段隠れて人に見せない、もう一つの姿が隠されている。アーサーはそれをよく知っているのだった。モルゴースはただ驚きながら辺りを見回した。するとアーサーは、「子供の頃一度だけ空を飛んだんだ」と無邪気に語りかける。モルゴースもこの不思議の森の中では、そんなこともあるのかしらと思って、「今でも飛べるかしら」と聞いてみる。「そうだなあ」と考えたアーサーだったが、試しに何度も飛び上がってみたけれど、もうそれは無理だった。「駄目だった」と笑いながら、小さな水辺を抜ける板を横切ると、小さな草で覆われた小屋のようなものが見えてくる。遙かむかし子供の頃、不思議な友達に連れられて森で遊んだ時に、小さな草の家を作って、そこを砦として遊んでいたのだったが、まさかそれが枯れもせず、崩れもせず、そのままの姿で残っているとは夢のようだ。やっぱり森は不思議だ。そう思ったアーサーは、モルゴースを小屋の中に案内して、子供の頃の思い出を夢中で話し始めたのだった。そしてそのまま二人の距離は次第に近くなり、二人はその日、初めて抱き合ったのであった。二人共に初めての経験であったから、小屋を包む草花たちも、あまりの初々しさに瞳を閉じるほどだったという。

 安らかな眠りから覚めてみると、外の明るさも大気の香りも、小屋に入る直前とまるで変わらない。アーサーは、「どうしてか分からないけど、不思議の森の中にいると、どんなに遊んでも眠っても、ちっとも外の時間が流れていないんだ」と、幼き頃の友達の口調を真似して教えてやった。「本当にそうなら、ずっとこうしていたい。」モルゴースはアーサーを覗き込んだ。二人はまた口づけを交わし、優しく肩を寄せ合った。

 どのぐらい一緒に過ごしただろうか。二人は何度も肌を寄せ合い、疲れ果てては夢の中をさ迷うように、互いの温もりに寄り添っていた。ようやく外に出ると、アーサーはその小屋に向かって、「また二人で来るのだから、それまで壊れては駄目だ」と命令する。モルゴースがくすくす笑いながら、「お願いします」と小屋にお辞儀をすると、小さな葉っぱは寄り添って、すれたようにさらさらと鳴り合わせた。こうして二人は町に戻ると、時間は森を往復した分だけしかたっていなかったのである。

 2人は館を抜け出せた場合の連絡方法を決めると、出会った場所で握り合った手をそっと離し、静かに別れたのである。幸いモルゴースが抜け出したことは、誰にも知られずに済んだ。しかしそれでも、モルゴースはもう二度と館を抜け出すことは出来なかったのである。あの幸せな一時が、二人にとって二度と帰らないことを、二人は間もなく知ることになった。

遠ざかる馬車

 翌日のことである。モルゴースは王宮に呼び出され、ユーサーとイグレインにロト王と結婚すべきことを告げられた。もちろん結婚などしたくないと断ったが、彼女の意志など政略結婚にとって何の役に立とうか。
父からは
「もはや決まったことだ」
と冷たく言われ、
頼みの母も
「お前は妹たちと違って知っているはずです。本来なら殺されていたかもしれない私たちが、王のもとで幸せな生活を送り、お前もずいぶん贅沢な生活をさせて貰いました。その上わがままを言うのは、母は許しません。」
といつもの優しさはどこに行ったのか、鋭い口調で言いはなった。

 モルゴースは顔を真っ青にして館に戻ると、三日三晩泣き続けたが、彼女は内省的な良識を持つ温和しい女性だった。こっそり館を抜け出して戻るぐらいの勇気は持っていたが、自分の生まれ育ったしがらみを棄て、自由の空に羽ばたくような責任のない生き方は、彼女には出来なかったのである。

 その三日目の夜遅く。彼女が泣き疲れたまどろみの中で横たわっていると、窓の外でこんと叩く音がした。音は小さく、それでも何度も窓を揺さぶり、ふっと目が覚めた彼女は、驚いて暗がりの中で外を見詰めた。恐る恐る近づいてみると、小さな声で「モルゴース、モルゴース」と呼ぶ声がする。間違いない。アーサーの声だ。

 モルゴースは夢中になって窓を開けた。どうやってこの三階まで上がって来たのか、アーサーの影がそこに立ちつくしていたのである。彼女は発作でも起こしたようにアーサーに抱きつくと、そのまま声を潜めて泣きだした。(この時の詳細は何時か記す時があるだろう。)アーサーは自らと共に逃げだし、二人だけで生きて行こうといきり立ち、モルゴースがそれに対して、人は沢山の繋がる糸の中に生きていて、その繋がりのお蔭で生かされている。それをすべて切って棄てるような生き方は間違っている、と自分を説得するように答え、
「大切に育てて下さった両親を見捨て、私を連れて逃げ出したら、あなたの家族がどんな目に合うのか、その責任まで背負えるの。私は嫌です。私が館を逃れ、私を今まで育ててくれたこの家の人達が、この先どのような罰を受けるのかと思うと、あなたと共に逃れても、決して幸せにはなれない。」
と言えば、さすがのアーサーも言葉に詰まってしまった。

 それでも若い彼は何もかも無くしても、二人でいれば幸せは見つかるのだと信じ、随分子供みたいにモルゴースの肩を揺すったのだけれど、最後には彼女に諭されてなだめられるように、彼女を奪い去る猛き心を抑え、最後の口づけを交わすと、まだ日の昇らぬ館を抜け出したのであった。アーサーの影が消えるやいなや、モルゴースの張りつめていた心の糸は切れるように、崩れ落ちて嗚咽が止まらなかった。

 その一週間後のことである。モルゴースは改めて王宮に入り、迎えの使者と共に豪華な送迎の馬車に乗せられて、多くの兵に護られながら城門を出た。先頭からは金管奏者達が、威勢の良いファンファーレを何度も繰り返す。城下には多くの市民達が、美しい王妃の晴れ舞台を見届けようとして、右に左にひしめきながら、馬車の過ぎるのを見送っていた。

 花嫁の馬車の前にはユーサーとイグレインの馬車が、後ろにはエレインとモルガンを乗せた馬車が並び、その横を兵達が行進する。そこに一人の青年が乱入してきた。モルゴースの馬車に駆け寄ろうとすれば、兵達が剣を抜きだして「止まれ、何者だ!」と叫ぶ。アーサーだった。

 騒ぎを聞き背後に目を向けたユーサーは驚いた。自分と同じ髪の色の若者が、若き自分の姿のような青年が、王宮の護衛兵に立ち向かおうとしていたからである。一目でアーサーと分かったユーサーは、自分でも疑うばかりの大きな声を張り上げた。
「そいつを斬ってはならん!」
王の言葉に服従を誓う兵どもは、ただちに剣を納めた。ただモルゴースの乗る馬車を固めて、アーサーを近づけまいとする。その時、騒ぎの原因を知って馬車の扉を開いたモルゴースが、半ば体を乗り出して、アーサーに悲しく手を振った。アーサーも強く手を振り返した。車輪が回るように、二人の距離はたちまち遠く離れる。やがてアーサーは立ちつくし、モルゴースは馬車の中に泣き崩れたのであった。

 ユーサーの横に座るイグレインは、久しぶりに息子の姿を見て動揺した。こんなことなら、兄弟でも構わない、いっそ二人を結びつけて、もう戦争とか、政略とか関係のない世界で、幸せに暮らして貰いたいという思いが胸を掠めたのである。しかし彼女はもう少女ではなかった。長い間のユーサーの妃としての生活が、より大きなものを護るために、個人の幸せを犠牲にすることを十分理解していたのである。だから彼女は、そんな思いは胸の中にそっとしまって、ただ夫に向かって、
「これでよかったのです」
とだけ言った。若き日の自分を思い出していたユーサーもまた、
「そうだ」
と一言呟いただけだった。

覚醒(かくせい)

(前に挿入→2人の別れの前に、やはりモルゴースが好きだったガウェインあたりとアーサーの間で「しょうもな学生物語り」が勃発するとか)

 その夜、騎士予備学校の5人組みはひどく荒れた。我々のマドンナたるモルゴースを政権の道具にするなんて、許せないとベイランが叫べば、ケイがそうだそうだとカップをからにする。5人ともそれぞれ不愉快で、半分は一人でいたいような心境だったが、もう半分は王女と共に町を歩いた同士で、固まりあっていたいような気持ちもして、勝手に持ち出したワインとカップによって、たいして飲めもしない酒を飲み回して、誰もいない平野の真ん中で、半分に欠けた月を見上げていたのである。

その内、気障で皮肉屋のベイリンが、
「よりによってガウェインの親父のベットの中か。
義理の母親だってさ。羨ましいものだ。」
と言ったものだから、自分の親父に対し葛藤するまとまらない気持ちが、不意に激昂する弾丸のように飛び上がり、ガウェインはなんだか分からない、激しい怒りに襲われて、
「なんだとベイリン!」
と叫ぶと、いきなり殴りかかった。殴られたベイリンは、黙って一発返せば、ガウェインはそのままベイリンに体当たりして、2人共に草原に倒れ込みながら、殴り合いを始めたのである。
「いい加減にしろ」
2人を止めに入ったケイだったが、流れ玉のように肘を顔に当てられると、やはり苛々する気持ちを抑えきれなくなって、この乱闘に加わった。やりきれない思いで酒を飲んでいたベイランも、これを見てケイの横っ面を思いっきり殴りつけ、ケイは殴られ様にベイランの脇腹にケリを打ち込んだ。一言も口を利かずに、ぼんやり遠くを見詰めていたアーサーも、押さえきれない感情を殴り合いで納めようとして、これに加われば、もう誰も彼もお構いなしの乱闘を、5人の体が動かなくなるまで続け、ほとんど同時に草むらに倒れ込んだのである。仰向けになって、剣で割れたような月を眺めれば、ちょうど月を浮かべて流れるように、豊かな天の川が、水平線の方に向かって流れていた。
「権力が欲しい」
アーサーは、ただそう言った。そうしてもうその後は、誰も声を継ぐ者はなく、激しく痛む体を草むらに預けて、いつまでも空を見上げていたのである。雲一つ無い大空は、満天の星々で覆われ、まるで本当に天の川が流れているように、ゆっくりゆっくり天球が回っていくだけであった。


 その頃、王宮ではもっと恐ろしい事態が、密かに進行していたのである。送り出しの馬車の中で、モルガン・ル・フェは確かにアーサーを見た。馬車の揺れる音と兵士達の騒々しい騒ぎに顔を向けたモルガンは、走り寄るアーサーの姿を見たのである。激しい頭痛に襲われて、それでも姉の見送りだけは何とか済ませた。しかし王宮に帰り、倒れ込むようにベットに潜り込むと、その夜、彼女は一晩中夢と現の間をさ迷い、夢の女王マブと出会った。
「おめでとう。ついにお前の願いを叶える時が来たよ。」
彼女は手に持った不思議なグラスをモルガンに差し出すと、透明なガラスを打ち合わせて、乾杯をした。モルガンはそれを与えられるままに飲み干す。
「私の力が欲しくなったら、夢の中で願い出ればいい。
私はいつでもお前の味方だからね。」
楽しげに、されど不気味な嘲笑を含んだ笑顔で、からからと笑うと、頷くモルガンの前から、マブ女王は去っていったのである。

 翌日、彼女は夢の中のことを忘れなかった。今までのすべての夢の記憶が呼び起こされ、彼女の記憶が一つになったのである。あまり急激な心の変化に、肉体が対応できず、顔が怪しく崩れかけて見えたが、それもしばらくの間、彼女の心が落ち着くのに合わせて、表面上はいつもと変わらない、美しい少女へと戻っていった。
 しかし心の中には、激しい憎しみが、自ら統しきれない憎悪が、マグマのように燃え上がっていた。ともかくユーサーが憎い。自らの父を手に掛け、母を奪ったあの男が。そしてマブの告げるところ、父の生前よりユーサーに思いを抱いたという母も憎い。そして、二人の子供、あの生意気そうなアーサーの姿。モルガンはさらにマブから、父の殺害とアーサーの誕生に関わっていた黒幕、マーリンという男の話を聞かされていた。そのすべてが私の敵。まずは直接父を殺したユーサーの命を奪うために、自分がこれまで培った能力を解放するするのだ。この時モルガンの顔に、人狩りを楽しむ魔物のような笑顔が、一瞬浮かんで、見詰める鏡の中に消えていった。

愛のかたち

 モルガンは初めての術を、身の回りの世話をする女中に掛けてみた。彼女ほどのまやかしの巧みでも、その第一歩は指先が震えたという。世界各国の魔女見習いの諸君も、このことを励みに精進して欲しい。しかしさすがマブが目を掛けただけはある。ただ一度で服装を整える女中を眠らせてしまったのは、まさに彼女の特質すべき点で、おおよそモルガンは、まやかしに関しては習得のために失敗を繰り返すことは無かった。まるで生まれた時から使えるように、望みの術が風の流れのように自然に成就されるのであった。しばらくはその女中を使って、様々な技を試みていたモルガンだったが、ついに彼女の心を奪うことに成功すると、自らの術に自信を深め、いよいよ行動に移ったのである。その行動が復讐であったのか、それとも愛情の歪んだ表出だったのかは、今日になっても分からない。

 ユーサーが一人で就寝を待つある日、こんこんとドアを叩く音がした。誰だと尋ねると娘のモルガンである。中に入った彼女は、「暖かい飲み物を持って来ました」といって、手に持ったカップをユーサーに手渡しながら、「実は、お父様に相談が会って来たの」と甘ったれた声を出した。ユーサーが「これはありがとう。何の相談かな」と尋ねると、実は好きな人が居るのだという。ユーサーは一口含んだカップにむせ込みながら、「これは大分酒が入っているね」とモルガンを見詰める。モルガンは心の中で、「他のものも入っているのよ」と呟いたが、口では「でも美味しいでしょう。お母さまから作り方を教わったの」と言った。
「そうかな。こんな味は初めてだが。随分甘いんだね。」
「でも酸味もきいているのよ。」
「うん。なかなか旨い。それでモルガン、恋の悩みと言ったね。」
とユーサーは優しく尋ねた。
「私、実は好きな人が出来てしまったのです。」
と訴えるように父親を見詰める瞳には、心なしか吸い込まれるような潤んだ涙が溜まっているように見える。乙女の煩(わずら)いか、困ったものだ。ユーサーは内心微笑みながら、「それはいったい誰だい」と質問を続けた。カップからは柑橘系の湯気が立ち上る。その甘い香りを楽しんで、3口目を飲み込んだ時、ユーサーは意識が揺らめくような目眩をちょっと感じた。しかし娘に気を取られていた彼は、最後にはカップを飲み干して、「怒らないから、誰だか言ってごらん」と優しく娘に声を掛けた。このような穏やかな会話の中に、復讐と狂気の稲妻が宿るとは、誰が想像しようか。

 モルガンは煌々と灯る部屋の灯火の幾つかを消して、少し暗く揺らめいた部屋の中で、ユーサーの前に立つ。娘は何を始めるつもりか、ユーサーの心の中に小さな不安が灯る。彼女は「怒らないで下さい」と念を押した。眼には涙が一杯に溜まっている。ユーサーは自分の娘が、美しい少女から大人に変わりかけの女らしさを放つのを見て、はっとして怪しい想いに捕らわれた。驚いて振り払うように、「もちろん怒ったりはしない」と語調を強くする。先ほどのカップの中に、モルガンが調合した淫薬が入っていたことを、ユーサーは知るよしもない。モルガンはいきなり自分の服を脱ぎ始めた。そのつもりで薄く着てきたドレスは、するりと肩から流れ落ちる。怪しい瞳でユーサーの方をじっと見詰めたまま、くびれた曲線を揺れる灯火が強調する。ユーサーは驚いて、「何をするのだ」と娘を止めようとしたが、慌てて近寄って上半身が露わとなった娘の手に触れた時、彼女はいきなりユーサーに抱きついたのである。「お父様、お父様、私、私が好きなのは」といって、恐ろしいほどの力でユーサーの胸にしがみつく。10代半ばの柔らかい男を知らない肢体(したい)が肌に触れ、甘い香りが髪の毛から立ち上る。ユーサーは必死に肩を掴んで彼女を遠ざけようとしたが、母親に似た美しいモルガン、イグレインを初めて抱いた時のあの感覚が呼び起こされ、彼は半分はしがみつく娘に任せるように、仮初(かりそ)めの抵抗をしているだけのように思われた。でなければどうしてユーサーほどの騎士が、モルガンを引き離すことが出来ないものか。そして耳元で「お父様」と求める彼女の声を聞いた時、ユーサーの男は押さえることが出来なくなった。一度走り出したら、男の情熱は成就するまで止まらないものである。その日モルガンとユーサーは、初めて抱き合ったのであった。

 はたしてモルガンの心の底にあったのは、真の復讐心なのか、それとも顕在化しない魂の欲求なのか。かつてイグレインがユーサーを求めたように、同じ男を求めただけだったのか。その絡み合うような複雑な精神状態は、さすがの夢の女王マブを持ってしても、ただ不可解という結論しか出せなかった。これを錯綜していると取ることも出来る。しかし私はむしろ、モルガンは非情に魅力的な魔女なのだと解釈しておきたい。


 一度モルガンを手に染めたユーサーは、罪を犯した共犯の意識も手伝って、そしてその未熟で柔らかく、そのくせ妖艶な不思議な彼女の魅力に取り憑かれて、その後も度々密かに夜を共にしたのである。その度にモルガンは例の酒の入ったホットドリンクを持って、静かに扉を叩くのだった。不思議なことに彼女が父親の部屋に度々入る姿は、決して誰からも知られることがなかった。彼女にはそうすることが出来たのである。
 彼女はもう淫薬をカップに入れる必要はなかった。ユーサーの心は完全に自分の術中にあった。そして彼女は少しずつ、淫薬よりももっと恐ろしい薬を調合して、その中に数滴混ぜてはユーサーに与え続けた。まるでペットに餌を与えるように。そしてベットの中では、心の底からユーサーのことを求めて抱き合った。この極限まで辿り着いた憎悪と愛情の融合を、彼女も懸命に味わっているようであった。彼女は何時もひたむきで真剣であった。これは例のマブ女王が彼女を評して言った言葉である。しかし彼女の復讐はまだ、始まったばかりだったのだ。

破局(カタストロフ)

 やがてユーサーが自分の体調に異変を感じ始めた頃、モルガンはついに次の手を打った。うまく母親をユーサーの部屋に呼び出し、父親との密室の扉の鍵を、こっそり外しておいたのである。燃えさかるユーサーが本能をむき出しにモルガンに襲いかかる。その時突然扉が開き、はっとしたユーサーが硬直して見上げた瞬間。イグレインは、ユーサーが自分の娘と交わる姿をハッキリと見た。裸になったモルガンと、獣のようなユーサーの姿を。イグレインは驚愕したように後ずさりする。モルガンはユーサーに甘えたまま母を見詰めて、妖艶の笑みを浮かべた。ほとんど悪魔じみている。我が父ゴーロイスを棄て、この男になびいた報いを受けるがいい。モルガンはそう思ったつもりだが、顕在化しない胸の奥で、自分の母に勝ってユーサーを手に入れた歓びが、湧き起こっているのには気が付かなかった。
 イグレインは声も上げなかった。よろめくように扉から後ずさりしながら、自分の鼓動が冷たい血液を体中に送り、手足が痺れるのを感じた。かつて我を奪い去ったのは、それが私だったから。この私だけを愛する一途さに、戸惑いわだかまる心を愛情に変え、彼に心をたずさえて従ってきた。それが、他の女でもよかったのだ。ただ本能に任せて、女をあさっているだけだった。部屋に帰ったイグレインを、恐ろしい嫉妬と怒りが襲った。自らの娘をむさぼるあの男に対する、全ての愛情が憎しみに代わり、またその心の奥底には、自らの娘に対する激しい嫉妬が、具現化されない溶岩となって、熱くうごめいていたに違いない。次の朝イグレインは王宮を後にし、以後ユーサーが死ぬ直前まで、国王の前には姿を現さなかった。そしてその日、ユーサーは初めての発作を起こして、目眩を起こして王座の前に倒れ込んだのであった。この時、居並ぶ重臣達の動揺といったら、ただごとではなかった。


 数日後ようやく目を覚ますしたユーサーだったが、今となってはただモルガンが恐ろしい。ユーサーは口実を作って、慌てて彼女を遠ざけようとした。すなわち反旗を翻すおそれのある強大なユーリエンス王のもとに、彼女を嫁がせる話を取りまとめたのである。モルガンは素直に応じた。すでにユーサーには十分な薬も与え、母親に対する復讐もすんだ。まさか自分の母親を殺すつもりはない。死ぬのはこいつ。かわいいこいつ。モルガンは城を出る一週間前、再びユーサー王の寝室に現れて、抱かれる腕の中で、そんなことを考えながら甘えていた。この男は完全に私のもの。体調に異変があって、それでも私を求めて、自らの寿命を縮めている。かわいいわ、かわいい私のペット。そしてモルガンはその日、最後の薬をアーサーに与えたのだが、それは自らの口からユーサーに口移すという、常軌を逸した遣り方によってであった。彼女はまた考えた。これでもうユーサーも終わり。ここに残る理由もない。ユーリエンス王がペットに相応しければ可愛がってやるし、そうでなければ、そう、どうとでも出来る。次の標的は、憎い息子のアーサーとかいう若者か、それともマーリンとかいう妖術使いか。そんなことを取りとめもなく考えながら、彼女の胸は激しく高鳴るのであった。
 モルガンが城を去ると、ユーサーは糸が切れたように、ベットに寝込んでしまった。沢山の医者が動員され、占い師やキリスト教の司祭が訪れたが、どうしても回復する気配がない。そしてこの噂が、ブリトン人達に広まった時、ついにユーサーに反旗を翻すブリトンの王達が、一斉に反乱を企てたのであった。

マーリン再び

 この戦においてアーサー達騎士見習いは初めて参戦することが認められた。正確には少しでも戦闘員の確保が優先されたのだったが、これを聞いた時のアーサー達の学校での会話などは何時か記すこともあるだろう。


 病のウーサーが戦場に立たないこともあって、モルゴースの嫁いだロット王と、モルガンの嫁いだユーリエンス王の軍が味方に回らなかったら、国王軍が破れていただろうと言われるほど反乱軍の勢力は強大だった。[この反乱勢力について、またアーサー達の活躍などについての詳細はここでは割愛させて貰おう。]
 劣勢に立たされたユーサーは、ブラシャスの助言により、海を渡った大陸に領土を持つブリトン人の王、バン王とその弟ボールスに援軍を要請した。使者は勝利の暁にはユーサー王の娘エレイン(エレーン)をバン王に嫁がせたいとの交渉を行った。国王の娘という切り札はさすがに大きく、バン王は領土を弟のボールスに任せると、自ら騎士達を引き連れて、海を渡った。フランク王国ではすでにクローヴィスなく、その領土は息子達によって分割統治されていた。彼らが互いに内部抗争を繰り広げている今なら、さしあたっての脅威はなさそうだ。そう踏んでの出兵だった。
 バン王の活躍もあって、王城すら危ういと思われた戦線は再び押し戻され、一進一退の攻防が続いた。騎士見習いの中にアーサー達5人のみなぎる活躍が伝わった時、父親であるユーサーは内心大いに喝采を送ったが、もちろん大局を変えるはずもなく、こうなると常に侵略を試みるサクソン人達に付け入る隙を与えることが恐ろしい。ブリトン人達が互いに争うなど願ってもいない好機ではないか。


 しかしユーサーの体調は相変わらず優れず、戦場には立たず王座の上から指揮を執り続けていた。そこに王に会いたいという者がいるとの連絡が入った。ユーサーは男か女かも聞く前から、もしや妻が戻ってくれたのかと早合点して心躍らせたが、違っていた。それはあの懐かしいマーリンだったのである。青年の騎士の恰好をしていたが、ユーサーにはすぐに分かった。ひと目その青年を見るなり、ユーサーの瞳は勝利の神を得たかのように輝き、病がたちどころに癒えたかと思わせる程だったという。ユーサーはさっそく、彼にいくさを勝せて欲しいと願い出た。
「ユーサーよ。地上の争いは私の知るところではない。だが私はかつてお前から一人の子供を預かった。アーサーという名前の子だ。お前とイグレインの子だ。彼はこの国を治める定めを受け、私に預けられた。お前はそれを覚えているか。」
「もちろんだ。アーサーは私のただ一人の息子だ。私が亡くなった後には、アーサーこそが後継者だ。」
「よろしい。ユーサーよ。私がこうして現れたのはほかでもない。お前は私の与えた愛の結晶を守り通さなかった。その結晶を近親の愛欲で汚した。だからお前はまもなく命を失う。私はそのことを告げるために、ここにやってきたのだ。」
 こう言われると、微かな死の予感さえ今は覚えていたユーサーでさえ顔が真っ青になった。何と無礼な。臣下の騎士達が怒りのあまり立ち上がり、また剣に手を掛けるのを、ユーサーは静かに諭し、
「私はまもなく死ぬというのか。」
と尋ねた。黒髪の青年の姿となったマーリンの表情は、大理石のごとく動かない。
「それはお前が決めることだ。ここに絶大な精神力を糧に霊力を発揮す る聖なる剣がある。」


 マーリンが自らの鞘から滑らかに引き抜いた剣先は、小さな太陽が鋼に宿り光放つように照り輝き、あまりのまぶしさにユーサーも臣下達も、一瞬目を細めるほどだった。マーリンが軽く剣を振るうと、たちまちすさまじいつむじ風が暴れ、打たれた臣下達は叫び声を上げて顔をしかめた。マーリンの横に控えていた兵士などは、風に吹き飛ばされて床を転げる始末だった。人々の間から、驚きの声が上がる。マーリンはその輝く剣を掲(かか)げ、ユーサーの前に差し出した。まるで儀式でも遂行しているように見える。
「この剣を振るいお前が自ら先頭に立って戦場を駆ける時、勝利の女神はお前を賛えるだろう。さもなくば、こう着状態は決して崩されないだろう。しかしその病弱の肉体でこの剣を振るえば、必ずお前の精神は衰弱し、肉体共々に朽ち果てるだろう。どちらを選ぶかはお前自身が決めることだ。」
 ユーサーは鼓動のように輝き自らを虜にするその剣を見詰めて、しばらく黙っていた。その輝きは、まるで自分の心臓に逢わせて、脈を打っているように見えた。ユーサーの胸の奥から、かつての不屈の精神が、若い頃には人一倍強かったはずの正義が引き出されるのを感じた。
「私はブリトン人の王だ、国王として生き、国王として死ぬのだ。マーリンよこの剣の名を教えよ。」
「エクスカリバー。」


 ユーサーはマーリンの差し出したエクスカリバーを握りしめた。その瞬間、激しい身震いとともに、恐ろしいほどの勇気が、激しい情熱が、何物にも怯まない不屈の闘志が、体中に湧き起こるのを知った。王の表情に赤みが差し、病はその場で癒えてしまったような錯覚に捕らわれた。
「エクスカリバーにかけて誓う。これより私は自ら出陣し、先頭に立って敵を討ち滅ぼす。」
その叫びに呼応するように光放つエクスカリバーの目映い輝きに、押された臣下達が歓喜の叫びで呼応し、王城を後にする国王にしたがったのである。近隣に控えていたウルフィアスでさえも、この国王の意志を止めることは出来なかった。彼もまた、国王には国王らしく生きて欲しかったからである。

エクスカリバー

 その日、国王自らの出陣に騎士達の士気は大いに高まった。ブラシャスの進言により、早くから国王出陣の知らせが敵陣に流され、雌雄を決する好機に反乱軍も全面決戦を決意。広大な平野に両軍が対峙(たいじ)したのである。反乱軍は恐らく、悟られるのをものともせず、一気に国王をめがけて全軍を集中して来るだろう。ユーサーさえ倒せば、国王軍の瓦解(がかい)は疑いない。これに対してユーサーは、左右に広がった味方を中央に戻さず、正面により敵軍を受け止め、中心にくびきのように雪崩れ込む敵を、左右から囲い込むようにする作戦を取った。国王をあえて危険にさらす策であるが、時々不思議な輝きを放つエクスカリバーの存在が、側近であるウルフィアスやブラシャスにさえも、あえて反論する勇気を奪い去ってしまったようだ。そのかわりブラシャスは、自分の軍を最左翼に置き、自然に囲い込む策を一歩進めて、進んで敵の側面に一点集中のくさびを打ち込む作戦を立案し、国王の了承を得た。


 両翼を伸ばした両軍の睨み合いは、太陽が夜明けと正午の中間付近にまで昇った頃、反乱軍の突撃の合図によって打ち破られた。はたして反乱軍は両翼を縮めつつ急速に前進し、全体がユーサーただ一人をめがけて突進してくるようだった。反乱軍が諸王の連合であり、どの王が亡くなってもユーサーを倒すいくさが継続されるのに対して、ユーサー軍はすべての兵がユーサーを護りつつ勝利しなければならないことを考えれば、これは常道の策であり、かつ効果的なはずだ。多少の策などあっても、そのまま踏み倒してくれる。そんな勢いで敵は中央に殺到したのである。しかもユーサーは病を抱えての出陣と聞く。これほどの好機はまたとないはずであった。

 

 まず敵の先頭を押さえたのはウルフィアスの軍である。ユーサー軍にあっても国王の側近として、王を支え続けてきたその武勇は、ペンドラゴンの軍隊にあっても1位2位を争う勇者であった。そのウルフィアスが、国王の前に城壁のごとく敵の前進を阻み、名だたるブリトンの王達を一手に引き受けて、剣を振るって盾を掲げ、槍をかわして、刺し返す様は、さながら狼の群れに襲われた気高き獅子が、自らのプライドにかけて、怯(ひる)まずに牙を研ぎ澄ますよう。そのようにウルフィアスは怒濤(どとう)の進軍をせき止めて、味方の兵を叱咤(しった)し、ついには諸王の一人を討ち取った。

 しかし、いかなるウルフィアスと言えども軍神ではない。自らの肉体も精力も人間としての限界があるならば、堰(せき)をめがけて押し出してくる激流には、ついには強固な壁さえも打ち崩される。こうしてついにウルフィアスの軍が決壊するかと思われたその時、反乱軍のめざすその先から、突然激しい光の帯が天上に向けて一本立ち上った。ユーサーがエクスカリバーを高く掲げたのだ。


 目映い光にあっと驚いた敵軍が一瞬怯んだ時、ユーサーは自らが先頭に立って配下を連れて突撃した。王の勇姿に鼓舞され、また王を護ろうとして、配下の騎士達は獅子奮闘、敵の進軍をさえ押し返すほどだ。しかし国王の姿を目の前にした敵の、獲物を狩るような闘争心もまた、国王軍を破壊するほどだった。つまりは双方とも稲妻のような激戦が、国王を挟んで展開されたのであった。ユーサーはいきなり最前の諸王の一人に向かって、エクスカリバーを握りしめて斬り掛かる。次の瞬間、その王の首は王を護ろうとした10人の兵士の首諸共に打ち落とされた。ユーサーにめがけてたちまち兵達が殺到する。しかし、ユーサーがエクスカリバーを振り戻すと、鋭い風が剣先のように敵兵をめがけ、すぱっと肉を切り裂いてすさまじい血液が飛び上がった。血を浴びた国王が恐ろしい形相で立っている。降りかかる火の粉を玩(もてあそ)ぶように、エクスカリバーは踊りながら、次々に兵士や騎士達をなぎ倒す。これに勇気を回復したウルフィアスの掛け声とともに、たちまち味方の兵達が殺到して大混戦になった。そしてこの時である、さっと国王の周りに飛び出したのは、まだ騎士見習いのアーサー達であったのだ。

 実はアーサーと、ケイ、ガウェイン、ベイリン、ベイランの5人は、見習いの悲しさで後方に置かれていた。何とかこの戦闘で功績を挙げたいものだ。そう思って戦乱の中、国王を捜していたのである。ちょうど天上に伸びる光の筋が見えたので、大急ぎで駆けつけてきたのだった。
「誰か!」
 ユーサーがまだ少年とも思える味方を訝(いぶか)しく思い、怒鳴りつけようとして顔を見れば、なんと我が息子がすさまじい形相で敵を睨み付けているではないか。たちまち敵兵どもが若き5人をあざ笑うようにして、どけとばかりに剣を振るった。しかし、まだ青年にも達して居なかったが、それは獅子の子供達であった。軍神の子供達であった。たちまちそれぞれに剣を返し、盾をかざし、槍を奪っては突き刺して、次々に屍の山を築くその姿は、真ん中に妖剣を掲げた軍神を控えて、それに付き従う5匹の軍狼(ぐんろう)のようであった。ユーサーはアーサーの剣さばきを見えて大いに喜んだ。さすが我が息子。見事な武勇ではないか。

 ユーサーは彼らに向かって、
「お前達だけで我が援護を全うできるか」
と聞けば、アーサーが息を切らしながら、
「お任せ下さい」
と叫び返す。
「ではついてこい」
と国王は喝(か)っするやいなや、敵軍を指揮する諸王の一人めがけて突進した。5人の軍狼達が慌てて付き従う。やがて軍狼どもは敵の兵士をなぎ倒しながら路を開き、さらに敵王を護る兵どもを蹴散らす蹴散らす。その間に馬上の敵王と剣を交えたユーサーが、エクスカリバーを振り下ろせば、ただの一太刀で人も馬もまっぷたつになってしまった。さすがのアーサー達もこれには驚いた。これは剣の力なのか、それとも国王の武勇なのか、この時のユーサーはほとんど軍神マースの降臨した姿に見えたという。


 このように敵の諸王や重臣の騎士達を狙って、5匹の狼に護られた軍神が、乱戦入り乱れた兵達の中を、まるで小舟が渡る時のように、兵共をなぎ倒しながら殺戮して移動する様は、蟻の群れに紛れ込んだカブトムシが、蟻の存在を知らずにのそのそと歩き回るよう。それほど異質な様相で、敵の指令系統がずたずたに打ち倒されていったのである。やがて国王を狙っていたはずの敵軍に変化が生じた。兵士達が恐怖を感じ始めたのである。ユーサーを討つべき筈の兵達が、ユーサーから逃れるように右往左往し始めた時、ついに敵の進軍が完全に止まってしまった。

 この一刹那。機を見て策を成就することにかけては、的を外したことのないブラシャスが、敵の側面に鋭い一撃をもってくさびを打ち込んだ。敵が大いに混乱して、背後の方で「敵だ敵だ」と声がするのを、ユーサーもアーサー達も聞くことが出来た。そこでウルフィアスが再び「敵を討ち果たせ」と叫び返す頃には、両翼から回り込んだ味方が敵軍をすっぽりと取り囲む姿になってしまった。反乱軍にとっては地獄絵図のような殲滅戦(せんめつせん)が始まったのである。

後継者

 こうして国王軍は勝利した。そのまま聖堂で勝利の祈りを捧げたユーサーは、祭壇の前の床を敷き詰める巨大な岩盤にエクスカリバーを振り下ろした。たちまち怪しい赤い光が放たれる。エクスカリバーの剣先は、まるでその岩をマグマのように溶かし込むように、音も立てずに岩に吸い込まれ、二三度鈍い赤い色を蛍のように瞬かせながら、光を失って床に刺し込まれた。ユーサーはマーリンに云われたとおりに、
「この剣を引き抜きし者こそ、
私の後ブリトン諸王を治める王となるであろう」
と、勝利に沸く騎士達に高らかに宣言したのである。ローマの下に長らく治まったとはいえ、ブリトン人達にはまだ部族的意識の方がはるかに強かったので、世襲という意識は十分に育っていなかった。たとえユーサーに絶対的に正統性を主張できる息子があったとしても、争いなくペンドラゴンの名を継ぐことが出来るかどうか。恐らくは反対派との間に、再び戦乱が開かれるのではないだろうか。かのフランク王国のクローヴィスでさえ、亡くなった後に一つの王国を保つことが出来なかったではないか。国王軍を勝利に導いた聖なる剣の試練は、もしそれがただ一人の男にしか抜けないとあれば、強い正統性を与えることになるだろう。騎士達は戦勝に沸き立ち、来たる日の剣(つるぎ)の試練に対しても歓声を上げているように思われた。聖堂内は歓喜に包まれたのであった。そこには特別功績があった者として、特別に参加を許されたアーサー達5人の姿もあり、彼らは肩を抱き合ってはしゃぎ回っていた。

 しかし次の瞬間、すべての力をエクスカリバーに捧げたユーサーは、剣を放した途端に軍神の栄光の全てを失い、死神の降臨と共に顔色を真っ青にしてその場に倒れ込んだ。国王はすっかり体力を回復したと思いこんだ臣下達の心を、全てを氷らせるような風が吹き抜けたのである。


 マーリンの調合した薬によって、しばらく余命を保ったユーサーは、まず病床から最後の娘エレインを、バン王の元に送り出した。
「私には息子がある。
渡した死んだ後、国王になる男だ。
どうかよろしく頼む。」
アーサーを後継者として指名する旨は、すでに重臣達に遺言として伝えられていた。バン王は国王にひざまずき、彼の息子に対しても、永遠の忠誠を誓ったのである。二人はほどなく帰国した。ユーサーの病状は心配だったが、バン王の不在に対してフランクの軍隊に動きがあったとの連絡があったからだ。バン王とエレインの間には、やがてラーンスロットという息子が生まれ、アーサーと大きく関わることになるだろう。

 

 国王の使者が、王城を去ったイグレインと、アーサーの元に送られたのは、それから間もなくのことだった。複雑な思いで国王の勝利を聞いたイグレインに、ユーサーの最後が近いことが知らされる。心の中に芽生えた憎しみの炎は消せなかったが、それでも長年の情愛の全てを灰にすることは出来ず、彼女は支度を整えて王城に向かった。初めてユーサーと会った時のことが甦る。ティンタージェル城でゴーロイスに変じて、自らを拐かしたあの日のことが想い出され、イグレインはその思い出に浸ろうとした。しかしその美しいはずの記憶は、たちまち裸のまま微笑む掛けるモルガンの姿で破られた。汚らしい。あの二人が憎い。それでも、ユーサーが亡くなったら、私にはもう夫は居なくなってしまう。例え憎しみだけの夫だとしても。イグレインは複雑な葛藤を抱えたまま、それでも生きている内にユーサーに会おうと王城に急いでいた。
 そして同じ頃、一人の青年の運命を変えるための使者が、エクターの家に向けて、アーサーに国王の意向を伝えるために、馬を走らせているのだった。

ユーサーの死 (その二、下書版終了)

 イグレインが扉をくぐると、栄光を極め我が身をさえも奪ったユーサーの姿はどこにもなかった。顔を蒼白に、首だけ持ち上げた弱き姿と会った時、イグレインの憎しみの炎は刹那に凍りつき、別れ行く人への愛情が、深く沸き上がるのを感じた。女の感情は不思議なものである、馬車の中では復讐の一瞥(いちべつ)で葬り去ろうかとさえした憎悪が、咄嗟(とっさ)に火勢(かせい)を増すこともあれば、鎮火することもある。推察するところ、二人の息子であるアーサーが、やがて寝室に訪れるという事実が、夫に対する愛情へと心を傾けさせたのかも知れなかった。
 妻は歩み寄る。夫はその瞳を弱く見詰め返す。最後に出来ることは、ただ許しを請うことであった。しかし女は答えない。許すことは出来ない、愛情への冒涜は決して・・・心の奥の方で何かがうずく。女はただ夫の眼を覗いていた。ユーサーはそこに悲憎(ひぞう)を封じた冷たい結晶を見付け、我が心をしばし凍らせる。
 実の息子であることを知らされたアーサーが、胸を葛藤に染めながら部屋に入ったのは、ちょうどこの時のことであった。すべてを話すほどユーサーの時は残されていない。ユーサーはただ、
「我が息子よ」
とアーサーを呼びかけた。アーサーは黙って国王の前に跪(ひざまず)く。母の心にぱっとあかりが灯る。母は黙ってアーサーの肩に手を掛け、彼を立ち上がらせた。ユーサーの言葉を聞かせるためである。
「我が息子アーサーよ」
その声は、枝から朽ちかけの病葉(わくらば)のようにかすれている。これはと思ったアーサーは、ただ
「はい」
と真剣に答え返した。
「お前にペンドラゴンの称号を託す。
国を治める王となり、ブリトンを束ね、外敵を退けよ。
それが、我の唯一の願いだ。よいな。」
アーサーははっとして国王の顔を見詰める。父はただ、
「よいな」
と枯れかけの声を絞り出す。母がアーサーの肩に手を掛ける。死ぬ前に答えてやれと催促する。アーサーは自分でも驚くほど冷静な声で、
「私にその資質があり、諸王の承認を得るならば、
私は生涯を賭(と)して国を守りましょう」
と答えた。ユーサーの瞳が一瞬輝いたように思われた。
「後のことはマーリンに。」
と視線を移して手を伸ばすので、妻は思わずその手を握りしめ、
「あなた」
と愛情の籠もった叫びを上げる。目に涙が溜まっている。それは刹那に見せた許しの言葉のようにも思われた。ユーサーの手から力が抜け落ち、瞼が永久(とわ)に輝きを塞ぐと、イグレインはわあと夫に抱きついて激しく泣きだした。アーサーはそれを黙って見ていた。


 こうして国王が亡くなると、たちまち諸王が次期国王を巡って策動を開始した。国王の遺言と重臣であるウルフィアス、およびブラシャスの証言により、アーサーが正式の後継者であることが明らかにされたが、血統の正統性を疑い、さらに世襲など認めまいとする諸王たちは、アーサーの即位を認めずほかの遣り方で、もっと直接的な実力を行使して、国王の座を奪い取ろうと考えていた。しかしこの時、皆の前に立ったマーリンが宣言する。
「ユーサーが勝利の式典で剣を突き刺し、抜いたものを国王にと言ったのを忘れたか。これこそ正統の遺言である。エクスカリバーを抜いたものを王とせよ。そして剣の選んだ王にすべての者が従うと、ここで全員が宣誓するのだ。」
 エクスカリバーの不思議な妖力に魅せられ、己(おのれ)の力量を買いかぶった諸王たちは、歓呼(かんこ)を持ってこれに賛同した。すなわち剣の儀式を行うことが定められたのである。


 この剣の儀式においてアーサーがただ一人剣を抜き、ブリトン人の諸王の王となったこと。しかし反旗を翻す一部のブリトンの王たちといくさとなり、それを平定したこと。さらに再びモルゴースと再開し、その時二人の間にモードレットと呼ばれる息子が宿ること。アーサーが正式の妻としてグウィネヴィアを迎え入れたが、やがてバン王のもとに嫁いだエレインが生んだ息子、ラーンスロットが現れて、グウィネヴィアと愛し合うようになること。サクソン人達の侵略や、大陸への遠征のこと。そして聖なる盃の話などは、次の物語りで語ることにしよう。
(終わり)

その後の覚書

エクスカリバーを岩に刺し
抜いたものに与えると
しかし誰も抜けず
ユーサーの遺言のところにマーリン
「剣を抜いたものに王をと宣言するがいい。さすれば、息子のアーサーが王位を得るだろう」
宣言して亡くなる
王選出の為に剣を抜くことが公布される
イグレインはユーサーの意志を継いで、アーサーをこの儀式に参加させるようにと
皆試みるが、誰一人として成功せず
その頃、学校でも剣の話しで持ちきりだった
やがてエクターに連れられてケイとアーサーが
ちょうど、馬上剣試合があって皆そちらに
アーサー一人で歩いていると、誰も居ない岩に剣が
呼んでいるようで手を触れると、吸い付くように抜けてしまった
訝しがって惚けていると
ケイが、お前が抜いたのかと
何だか分からない、勝手に抜けたのだと
これはすばらしい剣だ、ちょっと見せてみろ、日にかざしてみよう
と出て行ってしまう
アーサーは何だかぼんやり岩を見ていた
ケイが表に出て、あまりのすばらしい剣に歓喜していると
エクターが驚いて近付いて、
「どうしたのだその剣は、まさかお前」
と聞かれて、ついうっかり
「私が、私が抜いたのです」
と叫んでしまったのである。さすが父親、一目で嘘と分かり、
「主に誓って偽り亡きことを申せ」
と云えば、ちょうど後からアーサーが出てきた
「実は、アーサーが」
「ほんまか」「ほんまやねん」
「貴方が王だ!」
王の証しとしての再確認が母も出席する皆の前で行われ、
さらに母親、及びウルフィアス、ブラシャスが王の子であることを証言
認めるものは王となし、刃向かうものは台を蹴って立ち去る
一波乱あることは確実である
母親との再会シーン
王となった後
アーサーとモルゴース再開、結ばれ体内に子が宿る(モードレット)

2007/06/30メルマガより
  2007/11/19メルマガまで

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