ベートーヴェン 交響曲第1番 第1楽章

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交響曲第1番1楽章

Adagio molto-Allegro con brio
C dur,4/4拍子→2/2拍子

序奏部ーAdagio(1-12)C dur

序奏部1-和音的提示(1-4)

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・先人の慣例に従って比較的短い序奏が置かれているが、いきなり(C dur)に対してⅣ度調の属7和音が管弦総奏によるフォルテで提示され、直ちにピアノで半音上行してⅣに入ると、同型繰り返しによって(C dur)の属7からⅠの和音が登場するかと見せかけて、今度はⅥに入る。続いてドッペルの和音でクレシェンドして属和音でフォルテに到達すると、属和音上でヴァイオリンだけが旋律を奏で始める序奏の第2部分に入るが、ここまでⅠの和音は一度も登場しない。そして最上声はすべて半音上行になっているが、この半音階上行は第1楽章全体を規定する重要な要素になっている。

序奏部2-旋律的提示(5-10)

・和音的開始を見せた序奏から旋律が派生するとき音楽における時間の流れと事象の変化が結びつき、事前の出来事から新たな場面が設定されているような舞台芸術的な進行が生まれるが、先ほど見たようにその効果は開始の和声選択で非常に高められている。旋律的にも和音的な部分の半音上声が3回上行を指向し、さらに3回目の(fis)では1小節間のためが行われて4小節目の(g)に入ると、旋律的な部分がヴァイオリンによってさらに1度半音上行を確認した後下行指向で開始し、続く旋律的提示部部分では水平に波を打つような旋律線が8小節まで時間をかけてわずかずつ上昇しクライマックスを築くと、10小節目の締めくくりの和音で力強く最高音を打ち付けるという、音楽的論理性と実際の効果が見事に結びついた作りになっている。その途中6小節目で初めてⅠの和音に入るが1転が使用されるため、基本形のⅠが登場するのはわずかに8小節目の頭だけであるが、Ⅰを避けながらⅠを指向する序奏が、続くアレグロ部分の開けっぴろげのⅠ和音による生命力に溢れた第1主題への期待をいやが上にも高めている。

提示部への導入的推移(11-12)

・こんなに分けて解釈する必要は無いが、細かく分けて気が付くこともあると云うので、序奏を分解して3つの部分にしてみました。最後に来て旋律的なパッセージがオクターヴの上行とその後下行という一番大きい動きに到達して、第1主題への導入を見事に果たしている様を見届けてください。

提示部分(13-109)

第1主題提示部分(13-52)C dur

第1主題提示(13-32)
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・第1主題A(13-19)は最後に変化する他は5小節Ⅰの和音が続く上に、第1ヴァイオリンだけが和音構成音を元にした主題を提示するすこぶる簡単なものだが、誰でも書けるかと思ったら大間違いの弦五郎である。まず開始の本来(c-g-c-g)と繰り返すだけの音型は、付点化された(g)の後に一瞬(h)を経過することによって単純な和音構成音音型に対して一瞬属和音が提示されたような、と云うよりは第7音がⅠの7和音とは言えないものの一種付加音的な味付け効果を出し、しかもここでの付点は1小節目全体の付点2分音符の(c)に対する裏拍での(g)という付点リズムをさらに下位に内包することによって階層リズムを形成してリズムパターンを複雑化し、3小節目の8分音符のスタッカート、さらにその後の4分音符スタッカートの部分に対して遜色ない充実したリズムになっている。つまり、付点によるためを持たせた音型を2小節かけて2回提示したものが、3小節目にスタッカートの短い8分音符によって、粘りけのある付点をはずして提示されることによって一気に活力が増し、躍動の力を借りて4小節目に上方に構成音を駆け上がって初めてオクターヴ上の(c)に到達すると、主題内のクライマックスにあわせて管楽器が導入され、しかもこの管楽器部分はヴァイオリンによる和音構成音的部分に対する短いながらも旋律的部分の役割を担って1小節づつ半音上行、短いながら音色とクロマティック進行により(1-4)小節に釣り合うだけの効果を出している。さらにこの管楽器の部分のクロマティック進行中にⅡ調の属7和音に変化すると、弦楽器が第1主題中一番音価の細かい16分音符で下降する特徴的な下降パッセージで次の部分への導入を担っている。このように第1主題をちょっと見ただけでも注目すべき点が満載されている。前に述べた付加的な7音についても3小節目のスタッカート部分で上行する時まで一貫して(h)音が使われ、それと同時にベースの保続的な(C)が強くⅠを指向するため、属和音ぽい部分が割り込んだというよりはⅠの付加7音のような(ただしロマン派のような独立したⅠの7和音のような独特の響きが模索された訳ではもちろんない)味付けとして一貫して使用されているが、もちろんこれは序奏冒頭の半音上行から来ていて、さらに管楽器の半音階上行で強調確認されている。(もちろん作曲は第1主題から翻って序奏が誕生したのかもしれないが。)従って前に開けっぴろげの主和音賛歌と云ったのは間違いで、力強さと躍動感の中にも第1主題はある種の繊細性を忘れちゃいなかったのである。そしてこの第1主題内に現れた付点型の動機(1,2小節)vと8分音符型の動機(3小節)w、4分音符の跳躍上行型(4小節)x、さらに管楽器のクロマティック進行(5,6小節)yと最後の弦楽器の下降パッセージzが楽曲を構成する素材となって第一楽章が形成される。時間があったら今あげた動機にアルファベットを振って楽曲をつぶさに観察したら、ベートーヴェンが第一番に置いてすでにどこから見ても大王だったことがよく分かるはずだ。しかしそんなことをしていたら、限り有りすぎる私の時間が到底追いつかないので、この辺から軽く済ませてみようかと思いつつ先に進む。
・続いてⅡ上で主題Aが同型に繰り返され最後の小節でクロマティック進行で準固有Ⅱの7の3転に到達、第3回目の提示が拡大変形されて属和音上でなされると、動機wの後半にvに見られた付点型が割り込んで大きく上行、第1主題部分内クライマックスを形成し、動機xの反行形による分散和音下降音型を8分音符化して終止的なパッセージとし、フォルテッシモの和音的カデンツで締めくくる。


第2主題への推移(33-52)
・全体として第2主題への推移ではあるが、推移音型の提示と展開、そして次への導入と3つの部分からなる。まず動機vの付点2分音符リズムを使用した推移音型が、主和音分散和音上行の後に第1主題締めくくりの下降パッセージ動機zを加えて提示され、これが始めヴァイオリンで、続いて管楽器で提示されると、まるで第1主題の開始の付点部分とそれに続く8分音符部分の関係のように、37小節から8分音符型に修飾変形された形で始め弦楽器で、ついで管楽器で奏される。続いて推移第2の部分に移り動機wを使用した4小節(41-44)で和音を絶えず変えながら次第にクレシェンド上行すると、推移部分のクライマックスを形成し45小節のフォルテッシモで第1主題群を離れ第2主題への導入を果たす真の終止的音型部分に入り、先ほど誕生した推移音型no 後半同音保続から動機zまでの組み合わせを元に、8分音符による同音反復後下降するパッセージが弦楽器と管楽器で交互に繰り返され第1主題部分を終える。

第2主題B提示部分(53-87)G dur

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・推移最後に登場した音型からすぐさま生み出されたような8小節の第2主題B(53-60)が、まず管楽器を主体にして提示、第1主題に対比させるためにスラーで裏拍の1拍目まで伸ばしてリズム変化を付け、後半さらにシンコペーションによる和音的な応答が加わって合わせて第2主題が形成される。これが管弦の交代により変化を付けて繰り返されると、32分音符の刻みの目に付くフォルテの和音的部分に至り第2主題内クライマックスを形成して76小節目フォルテッシモでカデンツを打つ。ここまでが自立的な第2主題提示になる。続いて短調(g moll)の印象的な主題Bを元にした旋律が、終止部分への推移と主題Bの発展を兼ねた77-87小節を抜けて第2主題B提示部分から離脱。

提示部終止部分(88-109)G dur

・(G dur)の主和音上で主題A冒頭動機vが開始されると終止部分に入り、続いて動機x的な分散和音4分音符の上行下降を織り交ぜながら、100小節目からは終止旋律も登場して提示部を終える。

展開部(110-177)

・ごく簡単に見ることするが、見るべき点がないからではなく時間がないからである。

展開部第1の部分(110-143)

(110-121)D dur→G dur→c moll
→主題Aの動機wと第2主題後半のシンコペーション和音のペアが調性を変えながら繰り返される。

(122-135)c moll→f moll→B dur→Es dur
→主題Aの動機xとその後のクロマティック動機yを主に使用して、後半には動機xの逆行型が同時に使用され発展を遂げる。

(136-143)Es dur
→調性が一端(Es dur)に落ち着き、主題Aの最後の動機zを元に生み出された第2主題へ向かう推移動機とその反行形を使用して展開部第1の締めくくり的にフォルテに達すると、続いて展開部第2の部分が開始される。

展開部第2の部分(144-177)

(144-159)Es dur→f moll→g moll→a moll
→動機vとその断片である付点音型、さらに直前から引き続いて8分音符のリズムを使用したパッセージを使用して、次第に和音交代密度を上げて(a moll)に到達。

(160-177)a moll→C dur
→(a moll)の属和音上でフォルテッシモの弦楽器ユニゾン音階上行パッセージが楽章内で一番悲劇的な部分を駆け上り、管楽器のユニゾン的総奏がそれに答える。この部分は動機的由来はあるものの、展開部内の新しい主題的な傾向が強く見られる。正しくは展開部に入って動機同士が新たな絡み合いと展開を繰り返す間に、その中から新たな理念が生み出され最後にいたって主題のように具現化されたような感じだ。これがもう一度繰り返されると、音価を短くし密度を高めここまでで展開部のクライマックスを形成、(a moll)の属和音で管楽器が引き延ばされると、そのまま管楽器だけのユニゾンによって(f→d→h→g)とビックリするぐらい単純に(C dur)の属7の和音を奏で、直接再現部に到達する。この展開部における展開部主題的なものの具現化は第2番でも模索され、有名な第3番の中間主題といわれる長い独立した部分に繋がっていくことになるが、その由来はすでに第1番に存在した訳だ。さてこの展開部は、第1楽章全体が短く、さらに後の英雄などの例が有るため、先人の交響曲のように展開部が短く発展が不十分だと思われることもあるが、実際はこの展開部はすでにベートーヴェンらしい十全な発展を遂げた展開部になっていて、動機展開により音楽事象を変化させ聞くものの情感を見事にコントロール下におく作劇法は第1番ですでに完成されているので、初期のピアノソナタなどの例のような意味で展開部が短いわけではない。ただしその書法は後の作品に比べるとずっと単純かもしれないが、それが逆に新鮮なみずみずしさとなって楽曲を生かしているように思える。

再現部(178-259)

第1主題再現部分(178-205)

・素朴で粗野な極悪非道のフォルテッシモによるユニゾン的第1主題再現で見事勝利を収めてしまった希有な例だが、後の作品ではこういう再現部主題をユニゾンで開始するようなやり方は消えて無くなる。(ただし大胆なユニゾンの使用という意味では後も使用される)しかも主題とその後の推移は大幅に圧縮されていて、2回目のⅡ度上での主題繰り返しの最後から推移の第1部分に移行し、管楽器が和声的に推移する下で、動機zが何度も繰り返されると、転調密度を上げる。和声をまとめないで反復進行のまま書き表すと(F dur→G dur→a moll→B dur→C dur→d moll→F dur→C dur)となり、(C dur)に至ると198から推移第2の部分さらに、202から第3の部分に至り第2主題に移るが、この推移の3つの部分は、それぞれすべて提示部と異なる音型で表されている。

第2主題再現部分(206-240)C dur

・再現は(C dur)でなされ、大体提示部と同様。

再現部終止部分(241-259)C dur

・再現は(C dur)でなされ、大体提示部と同様。

コーダ(260-298)

 (f moll)の属7和音上で管楽器が下降音型を奏でる中に弦楽器が第1主題の冒頭を使用して変化を付けた旋律で導入され、第1主題の再現風な常套手段でコーダにはいると、この旋律が(d moll)で、続いて(C dur)で行われ、スタッカートによる和音総奏に到達しコーダ前半を終える。続いて278小節から以下はすべて主和音で、第1主題のv,w,xを使用した旋律を3回繰り返すと、動機xを元にした上行下降パッセージに至って一度も属和音に至ることなく曲を終える。

2005/03/15
2005/03/21改訂

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