ベートーヴェン、交響曲第3番、第2楽章

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第2楽章

Marcia funebre.ー葬送の行進曲(伊)マルチャ・フーネブル
Adagio assaiー非常に緩やかに(伊)アダージョ・アッサイ
c-moll、2/4拍子

概説

・革命期からナポレオン時代にかけ、フランスではキリスト教すら否定して最高存在のための祝祭を敢行したり、古代ローマの凱旋パレードを取り込んだり様々な新しい祝祭がなされたが、その中に葬送用の祭典儀式も含まれており、ゴセックやメユールなど、様々な作曲家が葬送行進曲を作曲している。おそらくベートーヴェンはそれを知って、祝典としての葬送行進曲の作曲を思いついたのだろう。

提示部(1-68)
主題提示部分(1-30)

主要主題A(1-8)c moll

<<<確認のためだけの下手なmp3ー第2主題も一緒に>>>
・主要主題Aを大きく見ると、揺らぎを見せながら3小節目まで(G-C-ES-G)と上昇し(c moll)の和音構成音からなるこの音配列は、第1楽章の第1主題Aに見られる開始素材(動機W)に由来している。ついでに3小節目まで続くⅠの和音や、その後続く葬送伴奏の同音反復に第1楽章の同音反復意味まで見いだすのは、ちょっと行き過ぎだろうか。和声的に大きく3小節Ⅰの和音が続き、更に3小節間Ⅴ系の和音が続き、次の小節でカデンツを踏むと、8小節目でⅠ-Ⅳ-Ⅰの変終止で閉じている。
・主要主題Aは付点16分音符のアウフタクトで開始され、次の4分音符で留め置かれる。付点連符とその後の長い音符での留め置きによる葬送のリズム動機(R3)が以後楽曲を規定するが、楽曲が葬送的なリズムに束縛されがちだったop26のピアノソナタ3楽章の葬送行進曲と比べると(イディオムが違うと言われると困るが)、この葬送行進曲においてベートーヴェンがどれだけ葬送行進曲の特徴となるべきリズムパターンを自分のものとしているかが分かる。メロディーラインは付点の重いリズムに押さえつけられながら上昇を夢みるが、2小節目で付点リズムを使用しないことによってため息のように中断。一息入れて次の小節(G)にまで到達するが、元のリズム動機R3に対して前が短い逆付点に変化、あきらめの方が増さったように下行する。しかし諦められない想いがもう一度付点リズムに乗せ主要主題の最高点(As)にまで到達しスフォルツァンドで感情の高まりを表現するが、その後感情を抑えるようになだらかに下行音型を描く。こうして旋律は感情の揺らぎを見事に表わしているが、その効果は伴奏形にも見ることが出来る。
・伴奏のコントラバスは、拍の部分に合わせて滑り込むような3連音の前打音を伴って拍を開始するのだが、それは丁度実際の行進が開始され本来のテンポに到達する前に行う、踏みだし儀式のよう。初めの2小節は1拍目だけに踏み込んで、3小節目に踏み出した後初めて、弱拍部で滑り込む音が登場。ここで音型を前打音ではない正規の2音の音符に変化するなどして推移し、主題の一番最後の部分で本来の行進のリズムである32分音符の早い3連符に到達する。別の見方をすると、ここでの伴奏リズムは一定リズムを刻む次の木管楽器主題繰り返し提示部分とは異なり、主旋律が3小節目の嘆きの増さった下降の部分で感情の溢れるのに合わせて初めて2拍目にもリズムを打ち、次の4小節目の半終止で一旦リズムが途切れると、その後もう一度旋律が上昇を試み、感情が最高に高まる(As)の音に向けて、伴奏形も2音による上行滑り込み、4音による大きな下行滑り込み、そして最後に3連符による上行の滑り込みと、滑り込みの音数を換え、同時に上行下行を交互に繰り返し、旋律と共に感情の揺れを見事に表現している。こうして見ると、この主要主題の提示は、実際の葬送行進の足の滑り出しであると同時に、直後に続く実際の行進を表わしているような主題繰り返しに対して、幾分感情的な側面から葬送行進を提示しているようにも見える。
・さて、先ほど見たように、冒頭主題は2小節目でにすでにため息のように旋律がとぎれ、再度開始するのだが、このような効果は、第2主題の旋律構成や、さらにフォルテによる楽曲切断などの形で曲全体に渡って及んでいる。楽曲切断とは付点を伴ったフォルテのような強打と、それに続くすべてのパートの休符によって、楽曲とそれまで続いていた情感が切断され、あきらめのような旋律がピアノで提示される効果のことを仮に命名したものだが、この効果は葬送リズム動機R3の中にすでに内包されていると言うことも出来るかもしれない。

主要主題A繰り返し(9-16)c moll

・続けて、木管群による主題提示部分に入り、弦の主題提示に対して1オクターヴ上でオーボエが主題Aを開始、それに対して弦楽器は規則正しい3連符による伴奏を行い、足の重い付点に特徴付けられる主旋律に対して、足を踏み出させるように急き立てるような効果を出している。主題Aに対して伴奏形がパターン化して安定したのは、木管に合わせた実際の行進が具現化し、心象的な先ほどの主題A提示とペアを組んでいるようでもあり、また、動き出した行進が木管と共に本来の足並みに乗ったようにも思われる。

副主題B提示部分(17-30)Es dur

・主題Aの繰り返し部分後半で(Es dur)に入ると、変終止で主題提示を締め括り、弦楽器が副主題Bを開始する。この副主題は前半部分が主要主題Aの2小節目終わりの音から6小節目の(As)に向かう上行部分あたりまでをベースに派生して、さらに副主題後半部分には主要主題Aのその後の下降部分の精神が込められているように思える。さらに特に20-22小節あたりには第1楽章の第1主題Aのクロマティックの意味合いが込められているようにも見えるが、副主題Bの冒頭の下降音型自体にも、すこしばかり第1主題の動機Xへの指向性が見られるのかもしれない。


副主題B(17-22)
・さて、上昇を夢みては静かに下降する憧れのような旋律が(だんだん楽曲解析じゃなくなってきたなこりゃ)短調の主要主題Aに呼応するかのように提示される。この副主題Bの部分では、行進曲のリズムは破棄され、行進を行う者達の心の内面、つまり死者への悲しみを押さえ懐かしむような感情の側面から、葬送を表わすかのようだ。副主題開始の最小動機(B-Es-D-C-B)は、副主題2小節目すでに途切れ、細かい上昇パッセージで変化が付けられた後、副主題3小節目でもう一度提示される。しかし副主題4小節目の半音階進行によって早くも(Es dur)の調性とそれが表わす感情の属性は崩れさり、その弱拍部では鋭い付点とともにフォルテで和音が留め置かれ前半の動機の憧れのような懐かしさを打ち切る。このフォルテによる楽曲を切断するような効果は、始めに楽曲切断と命名したもので、曲全体を通じて使用されている。次の副主題5小節目は強拍が完全に休符になり弱拍から開始されるが、直前の感情属性が打ちのめされ、嘆くような旋律がピアノで悲しく提示される。このヴァイオリンの部分には完全に第1主題Aの動機Xが現われることからも、この副主題Bの部分はやはり、クロマティックの意味合いとして第1楽章第1主題Aの精神が込められているようだ。そして半音進行で(F#)に入った旋律は副主題6小節目後半には付点8分音符を使用し副主題Bの最高点(C)がスフォルツァンドで呻くように跳躍し、力を失っては副主題Bを締め括る。この部分はドッペルドミナント9の2転下方変位で、和音自体も憧れが絶たれ嘆きに変るかのよう。こうして、たった6小節の中に細かな事象の変化が次々に起こり、それは聴く者にとって感情の揺らぎとして把握される。この恐ろしいまでの計算と、それを感じさせない自然さは、まさにベートーヴェンの特徴で、どこを掘ってもお宝発見に繋がるはずだ。ただし、実際はここで辿り着いたドッペルからⅤの保続音上の部分に繋がるため、わざわざ副主題Bだけを分離して考えなくても構わない。ここでは一応分けておこう。

終止句(23-30)
・副主題Bの後半から管楽器が効果音として入ってくるが、それと同時に楽曲は上昇を夢みた淡い憧れのような感情から、うちひしがれた下降強度の高い嘆きの勝った後半部分(先ほどの21小節から)に入る。そして、保続属和音の部分に到達すると、副主題Bで4音下降しては上昇を夢みた副主題は、6度も下降する終止旋律に取って代わられ、同時にティンパニーがリズムを刻み始めると、主題Aの行進曲への橋渡しを開始。しかし主題Aに回帰する直前、最期の(27-29)でそのリズムが一度途切れると、チェロだけがソロ風のカデンツを奏で、諦めきれずに呻くようなフレーズを演奏する。

主題発展部分

主要主題A’(31-36)f moll→c moll

・弦だけによる主題Aが開始されるが、出だしをⅣの和音に対する属7の和音を使用することによって、一番最初の主題提示に対して4度上で主題を開始。音域を上げると同時に響きに変化を付けている。さらに2小節目に、ナポリのⅡ(1転ではなく基本形。もちろんⅣ調で括ってしまえばⅥの和音だけど。)が現われ、主和音であるⅠの短3和音の半音上に登場する不意を突くような長3和音の持つ、独特の割り切れないような、幾分奇妙で不思議な響きが暗い神秘性を持って、死の不可解さを表わしているかのようだ。(これは、シューベルトが好んで使ったナポリのⅡの用法。ついでに書き加えておくと、芸大和声の3巻P205によると、この短調のナポリの2度自体が上方変位第5音を持つⅣの和音に他ならないとある。それで考えてもⅣ調で括ってⅥにするよりは、ナポリのⅡの方が相応しいだろう。)しかし、この主題A回帰は4小節目のフォルテでいきなり切断され、その後のドッペルドミナント9の2転下方変位で開始される2小節のピアノによる終止で完全に途切れてしまう。始めに2回提示され耳が慣れていた主要主題Aが続くという期待、そして最期までその葬送的メロディーに浸っていたいという欲求を切断し、思いを断ち切られたような効果を出すと同時に、当然ながら純粋に楽曲を発展させ、主題圧縮の効果も持たせている。次ぎにもう一度現われる主題Aの回帰も、この切断された主題になっている事から、各主題の完全提示部分は30小節までの主題提示A-A-Bで、その後の(主題A'-B-A'-終止)がその発展した部分であることが分る。しかし同時に主題提示A-A-BーA'で、最後に主要主題が切断され、打ちのめされた想いがピアノで提示される36小節の頭までが楽曲上一つのまとまりのようにも捕らえることが出来ることから、この主要主題A'の部分には2重の意味が持たされ、意味の置き換えがなされているように思える。

副主題B回帰(37-50)Es dur

・主題Aの冒頭提示では弦による提示の後に、1オクターヴ上の木管による主題Aが続いたが、同じ遣り方で、副主題Bが1オクターヴ上の木管(オーボエ)にで繰り返される。弦による伴奏は、副主題Bの初めの提示部分とは異なり3連符による行進のリズムを保ったままだ。終止句の途中で初めて、フルートが加わり、2楽章の楽器がすべて出そろう。最期の呻きのパッセージでは行進のリズムが途切れるが、チェロで行われていたカデンツ風のパッセージはクラリネットとファゴットが担い、悲壮感を増している。ついでに加えると楽器のソロカデンツ、あるいはソロ風カデンツには、ここに見られる例のように、行進リズムが一度終了して再度開始したのではなく、実際は連続的に続いている行進リズムの間に、別次元の事象が割り込んだような(心象的な)印象を持たせることが出来る。この遣り方は、第5の1楽章再現部のオーボエカデンツにも見られたが、覚えておいて損はない。

主要主題A'回帰(51-55)f moll→c moll

・オーボエで主題Aが回帰するが、またしてもⅣの属和音で入ることによって前回主題が回帰した位置より、更に1オクターヴ上に到達、ついに主題はA提示部で一番高い位置に辿り着く。そして初めてすべての楽器の総奏による主題A提示でクライマックスが築かれるが、主題は前回と同様、4小節目のクレッシェンド後のフォルテに切断され、その後ピアノで終止、葬送的悲愴に満ちた主題Aの属性すら断ち切られてしまう。

終止(56-68)

・ヴァイオリンが(c moll)の和音構成音を元に、高い音からの下行で開始して反転して上行する旋律を奏で終止部分に入る。主要主題Aも副主題Bも下から上行する音で開始していたため、この部分の旋律はとても印象的に聞こえる。そして、副主題Bの提示が行進の伴奏無しで内面の感情を表わしたのと同じように、行進のリズムが途切れて開始されるが、その旋律はハーフディミニッシュ和音Ⅱの7によって楽曲切断され、直ちに行進のリズムが再開される。

中間部C(69-104)C dur

・中間部分は実際の葬送行進での音楽が、丁度嘗ての栄光の日々を回想する部分に差し掛かったように、長調に転じる。

中間部主題C提示(69-79)C dur

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・マジョーレすなわち長調部分に入ると、主題Aを形作る背景にあった和音上行(g-c-es-g)とその後(c)に音階で下るパッセージを元に、その背景が前面に現われた(c-e-g)3音と、その後の下降パッセージに基づく3連符の下降パッセージからなる中間部主題C(69-71冒頭)がオーボエで提示される。その間弦楽器はベースとヴィオラがなだらかな順次上行フレーズを交互に繰り返すが、この順次上行フレーズは、副主題Bの2音目からの(Es-D-C-B)を反行形にしたもので、後のフゲッタ主題の冒頭部分である。その土台に載せて伴奏形が現われるが、これはヴァイオリンの3連符によって和音構成音上行音型を繰り返すもので、この3連符伴奏が中間部伴奏の特徴になる。この3連符は、主要主題Aの伴奏に見られた、裏拍に登場する早い32分音符の3連符から来ているが、16分音符の拍上で開始され、かつ主要主題Aでの同音連打に対して、長調による上行音型で繰り返されるために、印象はまったく異なる。そしてこの上行3連符伴奏も、主題C自体も、明確に第1楽章第1主題Aの動機Wを念頭に置いて作られているわけだ。さて、主題はオーボエからフルートに引き継がれ、続いてファゴットに移りそのまま終止パッセージに移行する。
・こうして8小節で主題Cが提示されると、続いて終止フレーズが79小節まで続くが、同音和声連打でファンファーレ的であり、第1楽章の冒頭動機を思い起こさせる。

主題C発展1(80-89)F dur

・中間部主題Cを変化させた旋律が今度は弦で一度奏されるが(80-81)、下降パッセージを持たずに2小節下行せずに引き延ばされると、木管楽器がそれに合わせて、伴奏形の3連符を元にした対旋律を加える。その後、3連符の最初の音が抜け落ちて休符になった特徴ある楽句を経て、先ほど生まれた和音構成音の3連符対旋律を元に発展させたパッセージによる部分が続く。このマジョーレの中間部全体は主題の旋律と共に、生成変化していく3連符によっても構成されていて、伴奏音型だった3連符からさきほど主題に対する対旋律が派生し、ここでさらに3連符が展開されていくことから、中間主題Cはメロディーラインの提示と共に、3連符の提示部分の意味も持っていたことが分る。そして、主題C展開1の中心は、主題Cの展開ではなく、3連符の展開になっている。

主題C発展2(90-100)C dur

・今度はオーボエとホルンで主題Bが開始され、弦楽器は伴奏形3連符を奏でるが、主題Cの3つ目の音に入るやいなや(2小節めで)フルートが直前の発展1で生まれた3連符に基づく対旋律で主題Cと絡み合い、変形され後半が修飾された主題のメロディーラインと付随する3連符伴奏に、さらに3連符の対主題が絡み合う。3連符伴奏の和音構成音上行連続は92小節にいたり初めて下行形も同時に使用され、出そろったすべての素材がクライマックスを形成、フォルテのファンファーレ的同音連打にいたる。

推移(101-104)c moll

・(c moll)に転調し、主題提示前にナポリのⅡが使用されている。葬送行進は栄光の回想の儀式を終え、遂に歩みを止め、埋葬に移行する。

提示部分に対する展開部(105-172)

主題Aの再現(105-113)c moll

・真の目的地はこの後に続くフゲッタの展開部分だが、副主題Bに基づく短調のフゲッタ展開部分に、長調部分から自然に流れるために効果的に主題Aが再現されている。ちょうど、一般的な3部形式の曲が長調の中間部から短調の主題に回帰するときに行われる、極めて自然な導入が果たされると同時に、全体テーマである葬送主題Aの全体配置においても最適な場所に主題が回帰されている。ここに主題Aが置かれないと、マジョーレ部分から続く展開的部分に至る長い時間、葬送主題Aから遠ざかるため、全体の構造が幾分あまくなるし、栄光の回想から悲劇のクライマックスへの移行の処理に苦しむことになるだろう。さらに考えると、一番最初の行進が本来のテンポに到達する前の動きを始めるような伴奏形によって始められたように、このまったく同じ伴奏形で再現された主題Aは、丁度実際の葬送行進において行進を終了する足踏み儀式としても見ることが出来る。しかし、その主題の悲壮感は、111,112小節部分が、元の主題Aに加えられることで一層高まり、同時にこの部分で(f moll)に転調、次の部分では、遂に埋葬が行われることになる。

副主題Bに基づくフガート的部分(114ー154)f moll

・実際の葬送行進で考えれば、おそらく棺を収めるクライマックスに当たるこの部分では、人々は歩みを止め、悲壮感に満ちたフガートが展開される。フガート主題Fは副主題Bを元に形成され、副主題Bと同様、葬送の儀式よりも感情的内面を強く表わすことによって、感情的なクライマックスを形成する。(と同時に、葬送行進の棺を収めるクライマックスでもあると、そう言いたいのですね、君は。)

フガート主題F提示部分(114-134)
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・主題Fを詳しく見ると、導入の調性は(f moll)で、主題Bの冒頭が(B)の後に(Es-D-C-B)と下降したのをリズムをそのままに反行形にして、(F-G-A-B)と上昇し、その後2度下降すると同時にトリルが感情をふるわせるような効果で使用される。続く3小節目は主題Bのソロカデンツ的な最後の部分から取られ、16分音符の音階パッセージに流れていく。この16分音符の音階パッセージは次の主題提示と重なり、主題Fに対する、対旋律FAになる。この対旋律FAもまた副主題Bの2小節目後半の早い音階上行パッセージを逆行させたものと見ることが出来るが、対旋律として形が護られているのは初めの1小節(As-B-As-GーF-Es-D-C)だけで、次の小節は主題提示の度に変化し、ただ16分音符のパッセージであるという事象によって対旋律としての役割を保っている。従って、対旋律まで含めた主題Fとして(114-147)までの4小節を考えても良いだろう。しかし実は主題Fに対する対旋律はもう一つあり、初めのヴァイオリンによる主題提示に対してファゴットで(F-Ds-E-E-F)と提示される動機が対主題FBとなっている。簡単な音ではあるが、途中増2度進行をして、主題同様のトリルを持つため、副次的で独立性が弱いものの効果的である。
・主題Fの提示は、学習フーガの冒頭実例としても活用できるほどの明快な導入を行っている。まずアルト(ヴァイオリン)で開始して、対主題に至ったところでソプラノ(ヴァイオリン)が引き継ぐ。この2回目の提示では早くも主題Fが1小節引き延ばされ発展を遂げ、情感を高める。これに続いて、テノール、バスと順に主題が現われると考えて構わないが、実際は3回目の提示がヴィオラとチェロで奏され、最終的に対主題の部分をチェロが引き継ぐ。次ぎに、チェロとコントラバスで4回目の提示がなされ、最後の対主題の部分をコントラバスが引き継ぐという遣り方で、バスに広がるに従って主題の声部が厚みを増すようになっている。もちろんそれに対して上声の密度も高められて、盛り上がったところで初めて、木管側に主題が引き渡され、それもフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが一斉に主題(あるいは主題的な)を奏でクライマックスに達する。
・こうして弦のそれぞれの声域に4回主題Fが提示され、主題Fに続いている対旋律FAも当然弦だけで提示される。その間、対旋律FBだけは楽曲形成の効果を最大に高めるように木管、弦を問わずに最適の場所に配置されていく。最後の木管4声による主題Fの提示は、丁度バッハのフーガなどで見られる全声部主題が出そろった後の、超過主題の意味を担っているのだが、純粋フーガのようにここを出発点に主題の冒険が始まるのではなく、この超過主題が主題Fの到達点であり、クライマックスになっている。こうした構成を考える時、クライマックスに向けた主題の生成と発展の様子が、譜面を眺めても分るように、非常に理に適った構成になっている。続く部分は、フーガなら、嬉遊部分として次の主題提示に向かう主題素材に基づく推移部分になるはずだが、この喜遊句的部分は、葬送行進曲の主題Aの再現に向かう推移の意味を込められている。

フゲッタ嬉遊部分(135-153)
・素材は主題Fの冒頭2小節と対旋律FAから取られた音階パッセージとその反行形の重ね合わせからなり、直前に木管で築き上げられた棺を収めるクライマックスが(勝手に決めるな)、ずっと維持される。調性的には一旦(Es dur)を経過して、短調に移っていくのが印象的。やがて(g moll)の属音保続に到達すると、主題F冒頭から来る嬉遊句素材が音価を2分の1にして、密度を高めるが150小節で楽曲は切断されドッペルから属和音を通って(g moll)主和音に到達。嬉遊部分を終える。

推移(154-159)
・ヴァイオリンが名残を惜しむように、冒頭主題の断片を思い出したように奏でると、棺の安置が終了し埋葬の終了を告げる甲高い金管のファンファーレが鳴り響く。(もう、勝手にしろ)

埋葬の完了を告げる金管の甲高い響き(160-172)As dur

・金管(トランペットとホルン)が鳴り渡り、棺を収めた後の嘆きのファンファーレを響かせる。それは同時に埋葬後の後行進の開始を告げる合図でもあった。弦がエンジン音のような伴奏を奏で、機動力を高めるが、この伴奏型の16分音符の3連符からマジョーレの3連符伴奏を思い起こすことも可能かもしれない。やがて(c moll)の属音保続に到達して、主題Aの再現に向かう。

提示部に対する再現部(173-208)

・しかしただの再現ではなかった、棺を収めた後の再現は、すでに提示部分の状態ではいられなかった。

主題A再現部分(172-180)c moll

・埋葬のファンファーレから属和音保続のまま連続的に、オーボエとクラリネットが主題Aを再現、埋葬後の行進の歩みが開始される。棺を持ち、人々の思い気持ちを引きずった重い足取りの提示部分に対して、人々の行進はある種の空虚感を持ち、足早である。(・・・この路線で通すつもりらしい。)初めの行進と違い、主題再現は保続属音上でⅠの和音に解決しないまま開始され、さらに直前の3連符がそのまま行進のリズムになる。もはや初めの葬送的な重い足取りは再現されない。

主題B再現部分(181-194)Es dur

・しかし人々の弔い人への憧れにも似た思い出を噛みしめる感情は変わらない。それどころか3小節目の音階パッセージを上り詰めた音が提示部分よりさらに2度上まで到達して音階がオクターヴ上昇する所や、5小節目から木管楽器群が主題に加わってくるなどを見ると、喪失に対する思いはより強くなっているようにさえ思える。提示部分でチェロだけのカデンツ的に提示されていた部分では、伴奏は途切れず、逆に3連符が破棄され、32分音符の早い同音連打にいたり終止に向かって精神的に速度を速める。

主題A’再現部分(195-199)f moll→c moll

・足を速め急き立てるような32分音符の伴奏のまま、最後の主題Aがオーボエとクラリネットで再現され、4小節目で切断され、終止に入る。再現部が主題A-B-A’の再現になっていることから、提示部分もA-A-Bよりも、A-A-B-A'の意識が強いような気がする。つまり提示部分もA'までで、区切った方が正しいのかもしれない。

終止部分再現(200-208)

・提示部分の終止部分と同様に曲を締め括る。行進は終わった。
・提示部の同じ場所も同様だが、204小節目に、フォルテで掛留のないⅡの7の和音が現われる。この短調内でのⅡ7和音であるハーフディミニッシュ和音のいきなりの使用は、芸大和声のⅢ巻P218でも例外的に許されているから、和声学習者は覚えておいて損はない。

コーダ(209-247)

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・行進は終了し、丁度ミサの散会の言葉であるイーテ・ミッサ・エストに当たるような、解散の儀式が行われる。しかし、人々の心には諦められない思いが動めき(232-のヴァイオリン)、そして最後に忘れ去れない葬送の儀式を回想するように主題Aが変形断片化されて消えるように提示され、曲を閉じる。



2004/9/25

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