ベートーヴェン 交響曲第5番 第1楽章

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提示部(1-124)

第1主題提示部(1-58)

①第1主題部分(1-21)
<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・一番の基礎となる冒頭動機AAA(|休・・・|o|)によって4小節で提示される冒頭動機部分Aは、後になって更にフェルマータを引き延ばすため1小節加えられた。ある学者は冒頭の5小節だけが第1主題(動機AAAが2回)だと定義したが、2つのフェルマータ、特に2つ目に後から付け加えられた1小節を考えると、全体を開始する冒頭動機の提示として、また悲劇の象徴としてこれから起こることを告げているのだと考えられる。従ってメロディーとしての第1主題は6小節めからとしておこう。ところでこの冒頭動機は最後の音が跳躍下降して使用されるのではなく、例えば同じ音がAAAのリズムパターンで鳴らされるような場合、それは単なる軍隊などのファンファーレの合図のリズムに他ならないから、短調内で使用場合は戦争中の暗い情熱を表す一方で、長調内で表された場合は自動的に勝利のファンファーレに立ち替わる性質を初めから持っている。つまりもちろん楽曲を規定している素材だが、その提示が常に冒頭の悲劇性の精神の混入を指すわけではない。勝利にも変る悲劇の動機であることが重要である。(あう、なんだか、どこかのいかさま著述家並になってしまった。)ついでに和声上の自己確認として、冒頭はトニックとドミナントの提示(曲全体がトニックとドミナントだけでほとんど作曲されている)を表しているのであって、わざわざ導音も解決もないドミナント和音を7にする必要はまったくもってないそうだ。ちなみに提示部124小節で、ⅣやⅡなどの純粋なサブドミナント和音が鳴らされるのは(芸大和声ではドッペルもサブドミナントに入っているが、ここでは含まない)たったの6回であるから、要するに残りの118小節は何らかの調の属和音と主和音だけで出来ていることになる。また提示部にはいるまで和音交替がただの一回も1小節に2回以上なされない、つまり小節単位である点も、この第1楽章の確信的な重いリズムを高めている。

第1主題(6-13)とその発展から終止
・冒頭動機AAAを使い第1主題が始まるが、その後半ではAAAが変形されて音階状になった音型Bが表われる。基本形の後を追いかけて、Bの反行形B’が応答して2つは楽曲を形成する重要な素材となる。第1主題部分の最後の部分は1小節ごとの和音総奏になっていて、和声を習っている人にとっては手本のようなパターン。ドッペルドミナント7の2転下方変位を通って、半終止である属3和音に行き着くと、フェルマータによって休符が引き延ばされる。この3連8分音符の後一小節ごと音が鳴らされる音型をCとでもしておこう。

②第1主題風推移(22-33)
・根音省略属9の和音(当時は第7音上の7の和音と考えられていたらしいがどっちにしろ意味的にはドミナントの提示)の中で冒頭動機AAAが一度だけ提示されると、同一和音のまま第1主題の変形が奏されて、そのまま保続主音上の推移(34-43)に入っていく。保属主音(c)上ではAAAのリズムパターンが最後に上昇する音型に置き換えられて、その音型が下降の支配的な楽曲の中を重い足取りで上っていく。ここでは和声上の変化も進行を妨げる保続主音上であることから、曲全体を支配する下降する力に必死で対抗している姿が浮かび上がる。(ほんまかいな)

③かりに雪崩パッセージ的推移(44-58)
・しかし推移の後半保続の終わったところでそれまで上ってきたより遙かに大きい幅で下降するパッセージが始まり、初め1和音上で、ついで属7の和音上で繰り返され、3度目のドッペルドミナント9の3転(離脱和音)で雪崩のようなパッセージが止ると、1小節の休符の後、同主長調(Es dur)の5の和音が打ち鳴らされ、第2主題に入っていく。確定的な和声で跳躍的に下降するこの部分は下降引力の力が遙かに勝っていることを私たちに教えてくれる。(かもね)

①第2主題部分(59-94)

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・通常のソナタ形式に則って、(Es dur)で第2主題部分が開始。ホルンによって冒頭動機部分Aが変化し、第1主題部分後半の半終止のリズムパターンCに置き換えられた、第2主題部分冒頭動機Eが鳴らされる。続いてEの音(B-Eb-F-B)を元にした第2主題Esが演奏されるが、始まりが上行形に置き換えられ、旋律的になっているので、むしろAを思わせる第2冒頭動機に応答して性格の異なる第2主題Esが現れるように聞こえる。この第2冒頭動機Eによって、第2主題が第1主題部全体に対しての受け答えであることを強く聞き手に印象付けると同時に、短調長調確定要素である3度を抜くことによって、同主長調の入り部分があまりにもお目出度く長調を気取ることを避けているのかもしれない。ところで、冒頭のホルン旋律がないと、旋律断片が3回繰り返されただけのようにしか聞こえないことから、第2主題をこのように区切ることに意味があるのかという疑問も残るが、ここでは取りあえず放っておこう。

第2主題(63-74)
・第2主題の4小節からなるフレーズの後半部分にはバス上にAAAのリズムが使用され、第2主題をAの精神に引きつける。第2冒頭動機もAを指向することから、結局第2主題の部分は冒頭動機AAAの束縛からは抜け出せない。

②第2主題の応答フレーズ(75-94)
・第2主題の4小節のフレーズを3回繰り返した後、第2主題部の後半部分(第2主題のからのF音型(Es-D-Es-F)を逆行反行形にしたような)の推移的パッセージが転調しながら2回繰り返して、3回目にドッペルドミナント上に行き着く。バスで冒頭動機AAAのリズムを打ち鳴らす密度が上がって、クレッシェンドをしながら属7に辿り着くと、終結部分に入る。

終結部分(95-124)

・終結はバス音型が軍隊の勝利の行進のように4分音符でEs durを確定し、AAAのリズムも長調で提示されているため、勝利のリズムに換えられているように感じられる。しかし、繰り返して冒頭に行くにしろ、展開部に進むにしろ、束の間の勝利は悲劇性に取って代わられる。もしかしたら、1-4楽章に至る勝利への図式が激しい提示部内の中にも暗示されているのかもしれないね。


展開部(125-247)

①f mollによる第1主題部分の変形部分(125-142)

②そのままBを用いた推移で(c moll)を経て(g moll)へ(143-157)

③上行する4つの8分音符に特徴づけられた、下降音型を対位的応答に持つ部分(158-167)で、提示された第1主題部の素材が展開発展している印象を強く与えた後、同音の和音連打に至る。(168-178)

④第2主題冒頭Eが打ち鳴らされ、展開部で初めて1小節に2分音符だけの音型が使われる。しかしEの後に第2主題Esは登場せず、代りに同一和声内での推移的パッセージが4小節の間続いてから、再び第2主題冒頭Eが打ち鳴らされ同じ事を繰り返す。これまでの展開部の推進力は落ちて、重々しい足取りで再現部へとゆっくり下っていくようで、三度(ミタヴィ)第2主題冒頭Eが鳴らされると→

⑤198からは1小節1和音でさらにリズム速度を落とした部分が、弦と管の交代で演奏される。一方で転調密度は高まり、転調と音の高さの両方で不安を感じながらよじ登っていくような感じで(f moll→b moll→[Ces dur→Des dur]((転調というか、fis mollに向かう過程で現れる単一和音の通過和音))→fis moll)に行き着く。

⑥そこで再現部への出発前の坂を上りきったかのようにな薄暗い静寂(なんやそれ)。転調速度と音楽密度を1楽章内で一番落として2分音符の同一和音繰り返し奏され、fis moll→G dur(要するにc mollのドミナント)に入る。さらにピアニッシモになって同一和音の繰り返しが続くが、嵐の隙間に雨が一瞬上がった空に遠く雷が鳴るように(散文で逃げる)フォルテシモで第2主題冒頭Eが鳴らされる。そしてc mollの属9の和音根音省略に入りまた静かに和音が繰り返されるが、やがて同じ属9の和音の中にフォルティシモで冒頭動機AAAが打ち鳴らされ、クレシェンド(記号はない)をしながら次第に激しさを増すと冒頭動機部分Aになだれ込み、再現部に突入。再現部の開始であると同時に、展開部の最後にも聞こえる冒頭動機の提示では、2個目のフェルマータの和音が属和音の2転になっていて、更に導音のない定まらない空虚な5度を狙って使用している。


再現部(248-373)

 第1主題部分は内声にファゴットが対旋律の修飾を少し加えて提示部と同じ進行を見せるが、第1主題の終わりの半終止の部分で、同一小節内だけではあるがAdagioのオーボエカデンツがソロを奏でられる。これにより通常のフェルマータ効果を拡張しているが、その効果と楽曲内での位置付けは、提示部には存在したフェルマータ部分の後の冒頭動機AAAの提示が再現部ではカットされていることと共に、改めて考えてみると有益かもしれない。その後は提示部と同様に進み、ソナタ形式の定型である同主長調C durによって第2主題が奏でられる。第2主題後半では同じフレーズの繰り返しが提示部の3回に対して、4回になっていて、過剰にも見えるが、実際は弦と管の交代のペアが2回行われると聞き取られるので、全くそのような印象はない。そのままC durの終結部が展開部と同様に行われる。


終止部orコーダ(374-502)

 コーダは最後の(478-482)の冒頭動機部分Aの再現に到達するのを最終目的とした推移になっている。

①374までC durの勝ち誇った終結が冒頭動機AAAのリズムを打ち鳴らしていたのだが、そのリズムのまま直ちに短調に入って悲劇性が全面に現れる。382小節に来ると冒頭リズムの最後の音がナポリの2度に変られ、それまで上声がずっと(C)音の同音連打に止まっていたこともあって、非常に効果的に鳴り渡る。冒頭動機AAAのリズムパターンは同音連打に代りナポリの2度が打ちならされ続けた後、休止が入るが、その次ぎに現れる音型は冒頭動機AAAの最後の音が上行したもので、強く印象に強く残る。(387-388)一小節完全休止の部分を経て、ドッペルドミナント9の根音省略の1転で和音連打と上行のフレーズが同じように繰り返さる。(140-397)

②冒頭Aを第2主題冒頭Eで変形した音型(推移では5度下降なので第2主題冒頭からだが、こちらは冒頭Aから)と、対旋律としての順次上行音階的パッセージの重ね合わせが2回奏される(398-406)。さらに、上声はその順次上行音階的パッセージの後半を元に続く形のまま、バスに提示部の終結部の4分音符軍隊行進的リズムでの反復進行の部分が来て下降していくが、その反復進行内にやがて第2主題の音型Fの逆行形が現れ始めると直ちに基本進行のFに換えられ次のフレーズに向けて重く上り始める。(407-422)

③その音型Fを変化させて、初めの順次2度下降を3度跳躍下降に換えた単純ではあるが効果的なフレーズが、バスに冒頭動機AAAのリズムパターンを伴って現れる。この4分音符の重厚すぎる悲劇的なフレーズは執拗に5回繰り返され、c mollの悲劇性を確定させると、その応答としての4分音符の下降音型の部分が続く。(423-468)

④やがて、しばらく4分音符が続き鳴らされることの無かった8分音符の同音連打が冒頭動機AAAのリズムで開始、fffにクレシェンドして低音上での冒頭動機部分Aの提示に至る。481の2個目のフェルマータ部分では、属和音の導音を抜き第2転回にすることによって、空虚で確定されない状態を演出。第1主題の出だしがこだまのように始まるが、直ぐに運命リズムによって遮られ、確定された短調の和音の中で曲が終わる。



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