ベートーヴェン 交響曲第5番 第2楽章

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一般的分類A

①主題Aと主題B提示(1-49)
②主題Aと主題B変奏1(50-98)
③主題Aの32分音符での変奏の3回繰り返し(99-123)
④変化した主題AとBを使用した展開的部分(124-184)
⑤本来のA主題に基づく変奏(185-204)
⑥主題Aに基づく終止的変奏(205-247)

音楽の友社の新しいミニスコア解説

①主題Aと主題B提示(1-49)
②主題Aと主題B変奏1(50-98)
③主題A32分音符3回とAによる推移から主題Bの提示(99-157)
④主題Aによる2つの変奏(158-204)
⑤主題Aに基づく終止的変奏(205-247)

概説

 問題は2つの主題を順に提示する単純な変奏形式から離れ、形式自体が変化するような99小節以降をどう解釈するかで、この大楽曲変奏形式がどういう経過を経て最終的な形に到達したのかを解き明かさない限り、ただの変奏分類では何も語ったことにはならないが、そんなことをしているとソバがのびてしまう。
 まず、初めの2つの主題の提示と第1変奏の行われる部分は、問題なく一番単純な変奏形式のパターンとして聞こえる。さらに、一番最後のPiu mossoの部分も発展的変奏の行き着いた最終段階を提示しているのではなく、楽曲の回想と終止を担うコーダの役割を果たしている。したがって問題は(99-204)の部分で、絶えず新しい事象を求める展開的要素を持つため、楽曲の区分は確定的ではない。ただし、(99-157)の部分は小節数も提示の部分と大きくは変らず、ちょうど提示部分の内容が大幅に変更された展開部的な第2変奏(2つの主題を使った)と見ることが出来るので、音楽の友社による分類の方が正しいように思われる。その展開的な変奏の中で副主題の役割が書き換わり、最後の提示を終える。次の第4変奏は基本旋律に基づく短調と長調の主要主題Aの提示になって、さらに主要主題Aに基づくコーダ変奏で締め括る。

通常変奏部

主題の提示部分

主要主題A提示部分(1-22)
<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・(As dur)の主要主題A(1-4)が弦で提示され、9小節からはAのフレーズ終止を元にした応答が弦と管で繰り返される。

副主題B提示部分(23-49)
<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・(As dur)のまま第1楽章冒頭動機AAAのリズムを使用した副主題B(23-26)が弦とクラリネット、ファゴットで提示。フレーズの終止に向かう途中、異名同音転調により(C dur)のドッペルドミナント系の和音に変化し、カデンツに入り(C dur)でフレーズを終止。そのまま(C dur)でもう一度副主題Bを管と弦の総奏によって提示するが、これはこの交響曲全体の最終的な勝利(C dur)を予感させなくもない。その後和声だけの(和声変化の密度は高いが)声部書法の薄い部分を通って(As dur)に戻って2つの主題の提示を終える。

2つの主題の通常の変奏部分

主要主題A変奏部分(50-71)
・8分音符から16分音符に細かくされた主題Aがビオラとチェロで開始、同じような経過を経てBに入る。

副主題B変奏部分(72-98)
・伴奏が細かくなったBがクラリネット、ファゴットで開始。同じような経過を経て(C dur)でもう一度提示され、拡大された推移を経て変奏を終える。

展開された第2変奏

主要主題Aの同じ変奏の3回繰り返し(99-122)

・さらに32分音符に細かくされたAの変奏が声部と楽器を換えて、同じフレーズで3回繰り返される。(ここまでのAの提示と変奏は順次音符が細かく旋律がなだらかになる方向できれいに統一されている。)伴奏パートの音密度は繰り返しの度に順次高くなり、3回目の提示ではフォルテでの管弦総奏に達する。
1.ヴィオラ、チェロで(98-105)
2,ヴァイオリンで(106-113)
3,チェロ、コントラバスで(114-123)

属和音上でのAの断片による推移(124-147)

・通常の第2変奏のように開始した99小節からのAの変奏は、小節数は主要主題の提示部とほぼ同じだが、後半部分の終止の代りに全く同じフレーズを3回繰り返し、すでに順次提示パターンの変奏形式が幾分弛緩されている。その後直ちにBに基づく変奏が壮大に開始されれば、間違いなくより発展した第2変奏に聞こえる。そしておそらくAとBが最後まで絡み合う形で変奏が続けられただろう。しかし、ベートーヴェンは2つの主題の変奏で開始した変奏楽曲が、主要主題だけで変奏される後半部分に移行していくプロセスと、それによって生み出された後半部分の効果が、ある種の一度限りの独自形式を形成できると考えたのかもしれない。いつの間にか消えるのではなく、楽曲を規定しながらBに別れを告げるために、ベートーヴェンは面白いことを考えた。

・3回繰り返されて壮大な総奏に達したAに基づく変奏は最後の半終止で属和音に到達、通常の変奏形式でBを提示するならば、より壮大なBの変奏が直ちに続きクライマックス(曲全体のクライマックスではないが)がBに引き継がれなければ釣り合いが取れなそうである。しかし、楽曲は半終止の所で大きな上行パッセージを2回繰り返して、最高点を築くと同一和音のままピアニッシモで和音を奏で始める。属和音上で主和音への解決を模索する推移的なA冒頭が管楽器で静かに導入され、それはすぐにドッペルドミナントでの完全な音階パッセージに移行。3回続いたA変奏の後に、さらにAの冒頭を聞くことによって、AとBのバランスが変化し、Bの役割の書き換えがなされる。ドッペルドミナントとドミナントの交替により音階がさ迷って主和音を模索する推移は、ソナタ形式における展開部の最後の推移のような、展開が終わった後に主題が回帰するような印象を与える。

C durによる副主題Bの回帰(148-158)

・しかし実際に回帰するのは副主題Bの後半C durによる提示の変形である。変形といってもほとんどすべての音をむき出しの和音総奏に変えているため、一番基本な形が現れている印象があり、同時に壮大な印象を与える。推移にAの断片を使用し幾分主題Aへの回帰を誘って、その上でこの曲において最後の提示である副主題Bを出す。変奏曲形式の期待からまだ見ないBを待つ気持ちと、Aの断片を織り込みAを予感させるかのような直前の推移が、最高のBの提示を演出している。同時に、これまで見てきたように、このBは提示と第1変奏のようなAとBの関係とは完全に異なる発展した段階に到達。初めの併置的副次的主題に対して楽曲全体での存在意義が変化したBは、これで役割を終えて、これより後はAだけに基づく変奏に入っていく。それはまさに副主題の呼び名に相応しいものであった。(ほんとですか?)さらに、次の展開はAが回帰されなかったという点を元になされているように思われる。

主要主題Aへの回帰的な第3変奏

・推移を経てBの基本形が回帰したことが、Aの基本旋律による回帰への期待と欲求を生み出した。(ちょっと嘘くさ)ここから先の部分は、最終的にAが完全に登場する185からの楽曲クライマックスに至るAによる長い引き延ばしになっている。(かもね)

推移(159-166)

・Bによる変奏は完全に終止して、静かに3和音の分散和音によるパッセージが開始される。先ほどの推移とは異なり、新たな段階に入った印象は与えるが、和音自体はただの(Es dur)の主和音が長く繰り返されるだけの導入のための推移になっている。やがて、(as moll)による主要主題Aの変奏が始まると、初めて(Es)の和音が変奏のドミナントであったことを理解する。(前に述べたが、この部分の完全に新しい部分が開始する印象からも、変奏区分は新しい音楽の友社のミニスコアに従うのが適切であるように思われる。)

as mollによる主要主題Aの提示(167-176)

・管楽器で室内楽的に主題Aの変奏が開始されるが、初めての短調での主題変奏提示と木管楽器による印象的な響きが合わさってはっとするような効果を生み出している。今まで長調の連続で疲れた耳に、この短調の部分は限りなく癒し系である。(・・・・癒し系って、あんた。)

更に推移(177-184)

・主要主題が長調で回帰するための音階による導入的パッセージ。副主題Bの変奏が最後に登場する直前の推移部分以降、主題の前に必ず主題に繋がる推移が置かれていることも、この楽曲を特徴付けている。その効果については、時間がないのでみんなで考えてください。

基本旋律による主題Aの提示(185-210)

・遂に現れた最後を飾る主要主題Aの変奏により、壮大なクライマックスが築かれる。Aの旋律自体は基本形だが、管と弦の総奏によって提示され、影が薄いものの管と弦によってカノン風に扱われている。A部分は後半まで省略なしに拡大されて存分に期待に応えると、最終目的が果たされたかのように、締めくくりのコーダが曲を終止に導く。

コーダ

Piu mossoになりAを使用したコーダが静かに始まり、テンポを戻してひたすらクレシェンドを続け、壮大に曲が終わる。




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