ベートーヴェン 交響曲第5番 第3楽章

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楽曲の概要

 スケルツォ(S)-トリオ(T)-スケルツォ(S')の複合三部形式に、最終楽章への移行部が付いた形。ただしベートーヴェンがS-T-S-T-S'という初めのスケルツォとトリオを2回繰り返してから次ぎに行くパターンも試みた後があり、しかも作者の最終的な意図が解明できないため、最近では2回ずつ繰り返す演奏もある。調性はS(c moll)-T(C dur)-S(c moll)の形。

スケルツォS(1-140)

主題の提示部分(1-44)c moll
<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・最終楽章の第1主題を予感させるような跳躍上行は短調で提示され、さらにチェロとコントラバスで開始されるため、性格的にはむしろ最終楽章の第1主題の対極となるような暗くおどろおどろしいパッセージに換えられて曲が始まる。(正しくは最終楽章が勝利のパッセージに変化する。)この初めの8小節をスケルツォ主題Aとする。Aは8小節めで属和音上のフェルマータで半終止した後、今度は10小節に引き延ばされてもう一度繰り返す。その後、不意に運命動機に基づくスケルツォ主題Bが8小節で提示され、(es moll)の管弦総奏でもう一度繰り返される。その後に主題Bに基づく終結パッセージが続いて主題Aと主題Bの提示部分が終わる。

提示部分の展開Ⅰ(45-96)
・主題Aが(b moll)で始まりフェルマータの付いた半終止、再び主題Aが現れるが引き延ばされてそのまま(c moll)へ転調すると、主題Aの後半部分は提示部分に対して変形させられていて、半終止することなくそのまま盛り上がって主題Bが(c moll)で現れる。続いて(f moll)に転調してもう一度Bが演奏され、提示部分と同じように終結パッセージが続いて発展Ⅰが終わる。

提示部分の展開Ⅱ(97-139)
・開始部分のような主題の提示が目的なのではなく、ここでは主題を元にした完全な展開部分、スケルツォ内でのクライマックスの構成が目的になっている。(そりゃそうだ。)再び主題Aが(c moll)で始まるが、その後半4小節の部分は属音の保続低音上に引き延ばされて、形を変えて何回か繰り返された後に8分音符の動きの速いパッセージが現れて展開の速度が速まる。そのパッセージが繰り返されて次第に高まっていくと、最後に主題Bの冒頭、つまり1楽章の冒頭動機のリズムパターンが繰り返されスケルツォ部分が終わる。

トリオT(141-235)C dur

・前半トリオA(TA)と後半トリオB(TB)がそれぞれ2回ずつ繰り返されるTA-TA-TB-TB形式の替わりに、2回目のTBが変形されてスケルツォに入っていくような構成。

トリオA(141-159)
<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
トリオ主題T(141-44)を順次声部間に導入していく自由なフゲッタで、(C dur)から後半属調の(G dur)にいたる。一度リピートしてTAを繰り返した後で、TBに入っていく。

トリオB(160-195)
・2回目でTBに入ると初めはユニゾンの推移的な部分(160-169)から、(C dur)での主題の順次提示部分(170-185)にはいる。その途中から保続5音上に入り、主題の後半部分が修飾変形されて繰り返され、終止。

トリオB’(196-325)
・213小節まではまったくTBと同じように進行するが、214小節から静かな和音上にフルートがソプラノで主題を奏でる印象的な場面に入り、音の密度と推進力は減って、次第に旋律が断片化されて失われていく、音高がスケルツォの開始の部分に向かって降りながら減速して短調に落ちていく。

スケルツォS’(236-323)

・スケルツォ主題Aが低い弦で開始され、1回提示されるが、次の提示はファゴットが入って同時に弦が弱められて表される。主題Bも1回目のスケルツォ主題B提示が管と弦の総奏だったのに対して、室内楽的な音密度になり、主題Bは管のソロと弦楽器で互いに繰り返される。その薄い声部書法のまま(f moll)でもう一度主題Bが奏され、続いて再び主題Aに戻るが、初めのスケルツォにあった展開Ⅰは抜け落ちて、再び現われた主題Aの終わりの部分で、保続5音上に入って、初めのスケルツォの発展Ⅱの後半部分のような展開部分に続いていく。初めのスケルツォ同様その最後には主題Bが登場する。この展開は1回目のスケルツォのようなクレシェンドからフォルテに向かうクライマックスではなく、常にピアニッシモで声部書法も薄く、旋律も比較的断片化されてモザイクのよう。なぜなら、この部分の元テーマの展開の目的は、最終章に推移するための移行部に消えるように入っていくための準備だからである。こうしてスケルツォS'部分全体が、初めのSに対してこだまのような遠く小さくなったような印象で、移行部のもやの中に消えていく。(もやとか霧とか、そんなんばっか)

最終楽章への移行部(324-373)

・Bの最後の部分が静かに半終止の属3和音を告げると、和声上もっとも単純でかつ効果的な用法、Ⅰ度に解決する替わりにⅥ度の和音に入って、最終楽章への移行部が始まる。強弱記号PPPで低い位置の和音で弦がⅥの和音を静かに引き延ばす中に、ティンパニーのリズムが初め冒頭動機AAAのリズムで、やがて変化されて打ち鳴らされ、やがてヴァイオリンがスケルツォの主題Aを元にした音型を引き始めると霧が晴れ初め、少しずつ高い音に上りながら、次第に音密度とリズム密度も高まり始めて途切れることなくフォルテシモで最終楽章の第1主題が始まる。


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