ベートーヴェン 交響曲第9番 第2楽章

[Topへ]

交響曲第9番2楽章

Molto vivace
d moll,3/4拍子

概説

これまでの交響曲では、スケルツォ楽章はもっぱら主題着想の豊かさと、その発展方法が問題とされ、形式上はスケルツォの楽曲形式を十分として当てはめていた。しかしここにいたって、スケルツォ形式にまだ発展の余地が残されていると思いつき、スケルツォにソナタ形式の枠組みを導入して、スケルツォ全体のプロポーションに奥深さと時間的長さを与えることに成功している。(一方例えば7番の長さは楽曲を拡大しただけの、9番から見れば安易な方法で時間を伸ばしている。)しかも一方で、ベートーヴェンは3/4拍子の3拍それぞれを4分音符で3回打ち続ける継続的なリズムと、主題冒頭の付点付きリズム(冒頭リズム動機)だけをもっぱら使用してスケルツォ部すべてを作曲するという、リズム細胞を動機とする楽曲形成も行ない、様々な点から見て、彼の交響曲スケルツォの中でも最も優れた作品になっている、なんて言うだけ野暮か。

スケルツォ部(1-411)

提示部(1-150)

スケルツォ主題提示部分(1-76)

スケルツォ序奏(1-8)d moll
・スケルツォの開始を告げる導入的序奏が、冒頭リズム動機である付点(タンッタタン)による弦楽器オクターヴ下行音型だけで、順に(d moll)の主和音である(d→a→f→d)を提示する。さらに(f)の部分はティンパニーで表わされ、直ちに管楽器も加わったユニゾンによって冒頭リズム動機を締めくくり、後々他の楽器に絡み合うティンパニーによる冒頭リズム動機の部分を予期する。

スケルツォ主題提示(1-32)d moll - a moll
<<<確認のためだけのへたれなmp3>>>
・序奏の(d moll)の分散和音下行型の振動とリズムが元になってスケルツォ主題が誕生する。スケルツォ主題は(9-16)小節のヴァイオリンによって提示され、オクターヴ下降する主題冒頭動機である冒頭リズム動機から、それに続く3拍を連続的に打ち付けるスケルツォリズム動機が派生し、順次上行を開始して旋律が誕生し、主題自体と共に、2つのリズム動機がスケルツォ全体を支配する重要な役割を果たす。
・まず(9)小節からヴァイオリンの主題が開始して、フゲッタ風に4小節遅れて、(a moll)でヴィオラが主題を導入、調性を交互に繰り返しながら、さらに4小節遅れてチェロが主題を開始、同様にして第1ヴァイオリン、コントラバスと導入が完了する(32)小節までをスケルツォ主題提示としておこう。旋律は主題冒頭を除き、常に小節内3拍を打ち続け、しかも常に1拍目に管楽器による補強が入り、非常にリズミカルで規律的である上に、律動的で絶えず動き回り活動的、あるいはそれ以上に躁的状態にあり、まさにスケルツォ楽曲に相応しい。(とは言っても、楽曲にスケルツォとは記入されていないが。)細かく見ると主題開始以降、1小節内の3拍自体が(Ⅰ-Ⅴ-Ⅰ)型と(Ⅴ-Ⅰ-Ⅴ)型を連続的に交代させ、小節ごとの和声構造に対して、さらに細かく(Ⅰ-Ⅴ)関係を内包しているため、このスケルツォ主題は非常に緊張感が高い状態で活動を行なっているといえる。

保続音上の推移(33-56)d moll
・冒頭リズム動機が一切消えて、主題から取られたスケルツォリズム動機の同音反復と順次進行によって形成される、スケルツォ主題に基づく推移。スケルツォ部の調性である(d moll)に対して保続Ⅴ音に当る(a)音の上で繰り広げられ、序奏を除けば始めてスケルツォにトランペットが導入される。

総奏によるスケルツォ主題(57-76)d moll
・つまりフゲッタ風に開始したスケルツォ主題が保続音上で推移し、この部分で始めて、フォルテッシモ管弦総奏によるホモフォニック的にしてユニゾン的な、力強いスケルツォ主題総奏に到達する。つまり、フゲッタ風に順次導入されたスケルツォ主題が次第に密度を高めて、この管弦総奏での提示に到達するというのが、スケルツォ主題提示部分である。先ほど登場したトランペットに継いで、序奏を除いて始めてティンパニーが打ち鳴らされ、金管楽器のホルンは連続的に3拍ごとに打ち鳴らされ、また調性的に非常にユニークなことに、このスケルツォ主題再現の途中から(C dur)に移行し、スケルツォ部副主題(ソナータ形式なら第2主題)から終止に掛けては(C dur)を基調として形成されている。この(d moll)に対する第Ⅶ調は、決して近い調性関係ではないが、元調に対する増1度や2度関係にある調性領域に逸脱して、しばらく後に元調に帰るような効果は、第1楽章でのナポリ調などにも際だってみられた現象だが、ここでの併置された空間領域としての平行移動的な調性関係は、続くスケルツォ展開部に見られる、併置されて次々に移行する調性変化の予備動作も兼ねている。

副主題への推移(77-92)C dur

<<<確認のためだけのへたれなmp3>>>
・継続的に伸ばされる木管楽器によって1小節ずつ交代する和音に支えられて、弦楽器が冒頭リズム動機だけを繰り返しつつ、和声的に推移する。これまでの3拍子3拍の規則リズムが完全に破棄されて、楽曲が空宙に舞い上がるようなこの美しい推移が、8小節をひとまとまり2回繰り返されるが、和声的にも開始からずっと(Ⅰ-Ⅴ)交代で来たのが、先ほどの総奏最後の部分で(Ⅰ-Ⅳ-Ⅰの2転-Ⅴ-Ⅰ)のパターンが登場し、さらにこの部分で(Ⅰ-Ⅳ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ)という和声的色彩豊かな部分に到達し、しかも長調の推移でありながらⅤが準固有9和音の短調の響きに替えられ、スケルツォ主題の短調部分から副主題の完全な長調部分に移行するための、揺らぎを演出しているようだ。

スケルツォ部副主題(第2主題)部分(93-126)C dur

<<<確認のためだけのへたれなmp3>>>
・スケルツォ主題の開始を告げていた冒頭リズム動機によるオクターヴ跳躍伴奏を、一貫した弦楽器による伴奏音型に置きかえて誕生したスケルツォ副主題は、ソナータ形式で見れば、第2主題の役割を担っている。副主題は3拍順次進行3音を1小節ごとに打ち直すようなスケルツォ主題に対して、1小節内の2拍目に休符を挟む形で提示され、パルスリズムのようなスケルツォ主題に対し、より堂々とした輝かしい舞踏的でファンファーレ的な部分を形成している。この副主題は精神はそのまま、2回目には2拍目にも音を織り込み、スケルツォリズム動機が組み込まれ発展的に繰り返されると、その後(109-116)では、スケルツォ主題冒頭2小節(9-10)の冒頭リズム動機からスケルツォリズム動機と主題旋律が派生する部分を元にして、管楽器と弦楽器の交代によってまさにファンファーレ部分を形成、その後短い推移に移行する。

提示部終止部分(127-150)C dur

・ええ、管楽器と弦楽器の交代で、分散和音型を使用して、これまでの1小節ごとに交代する和音に対して、より細かい和音交代と、サブドミナントを使用した十全たるカデンツ形成によって、終止旋律(127-130)が弦楽器で提示され、この4小節が続いて管2小節、弦2小節で繰り返され、3回目の繰り返しで管楽器側に移行する(なんて単純にして魅力的な方法だ)。。。しかもその3回目の繰り返しで、弦楽器に冒頭リズム動機を登場させ、楽曲終止をスケルツォ主題に強く結びつければ、(139-143)では冒頭リズム動機以下のスケルツォ主題(10-13)をパラフレーズした4小節のフレーズがピアニッシモで形成され、直前の終止旋律に応答すると同時にスケルツォ主題に立ち返るような取りまとめを果たし、最後には楽曲を開始した冒頭リズム動機を管弦交代で4回奏でてスケルツォ提示部分を終える。(リピート記号があるので、繰り返す場合は再び(9)小節のスケルツォ主題に戻る。)

スケルツォ部展開部(151-271)

・スケルツォ主題に基づく、ソナータ形式の展開部として作曲されている部分。甚だ簡単に見ていきましょう。

冒頭リズム動機に基づく転調部分(151-176)

・直前提示部最後に見られた冒頭リズム動機の管弦の交代でクレシェンドをしながら反復進行を重ね、4小節ごとに(d moll)→(Es dur)→(Des dur)→(Ces dur)→(A dur)と調性を変遷しつつ、それぞれの調性領域で(Ⅰ-Ⅵ-Ⅳ-Ⅱ)というドミナント型を避けた進行を繰り返し、非常に色彩的な世界に入ったような面持ちで、最後にフォルテッシモのフェルマータに休止する。

プロポルツィオ変換な部分(177-233)

・ここまでスケルツォ楽曲は大きく見ると、4小節を一つの単位として楽曲が形成されている。(スケルツォは通常1小節を一拍としてさらに大きな拍を形成するのが普通である。)つまり1小節を1拍と捕らえると、4拍子系の作曲が行なわれていたのだが、この(177)小節目で(Ritmo di tre battute)(リトモ・ディ・トレ・バットゥーテ)の記述が譜面に書き込まれ、3小節を1つの大きな拍子単位とした3拍子系で演奏しろとの指示があり、当然作曲も3小節を1つの単位として形成される。いわゆる楽曲内での拍子変換、ルネサンスならプロポルツィオ記号変換が行なわれている部分で、これまでの交響曲でのスケルツォは、速度と激情の関係から主題の着想が旨く行けば、それに則ってスケルツォ形式に楽曲を当てはめて、楽曲構成の立場から見ると全楽章中最も安易に作曲が行なわれていたのだが、スケルツォ楽曲にソナタ形式を導入する方針といい、プロポルツィオ的拍子変換の効果といい、このスケルツォにおいてはあらゆる手段を駆使して、既存の楽曲構成を乗り越え新たな高みに到達させるという冒険を開始し、そして言うまでもなく見事に成功している。

展開部主題提示部分(177-194)e moll
・(e moll)でスケルツォ主題後半部分を変形させた展開部主題(177-182)を、展開部の方法とは異なり木管楽器によって順次導入させて行くが、ピアノの音量でファゴットから開始される開始部分はゾクリとするような効果を出す。この主題は先ほど見たように3小節を基本単位として、3小節ごとに次の主題が導入されて行くと、途中から(a moll)に移行する。

展開部主題中間推移(195-224)F dur
・(a moll)の平行調なら長調に行くにしても(C dur)の登場を待ちそうなところ、順次調性進行したと云うよりは、パラレル関係にある別の調性領域に不意に移行したような効果をもって、(F dur)に移る。展開部主題冒頭3小節(そりゃつまりスケルツォ主題冒頭3小節と同じ事だ)を使用して、1小節めはティンパニーだけで冒頭リズム動機を打ち鳴らし、それに続く管楽器の応答というパターンによって、楽器同士の掛け合いよる面白い効果を演出しつつ推移。ティンパニーの打楽器の音は噪音(音の高さが明確でない複雑な振動の音)が強いため、スケルツォ主題3小節を絶えず繰り返すと云うより、むしろ管楽器の旋律を絶えずティンパニーが切断するような効果を出し、同時にティンパニーの打楽器的動機に導かれて、管楽器旋律が応答するようにも聞え、主題展開法としては譜面づらは実に簡単だが、実際は非常にインスピレーションに満ちあふれた斬新な手法であるといえる。この切断はやがて解消され、続いて3小節ごとに管楽器群と弦楽器群が交代しながら、主題の冒頭リズム動機以下の旋律的部分を交互に繰り返し応答し合う方法で推移するが、冒頭リズム動機はその基本単位3小節の真ん中に合いの手を入れる。
・ここまで3拍子系の部分は、一貫してピアノの小音量で囁きつつ進行し、展開部最後のクレシェンドから再現部のフォルテッシモに向かうまで、展開部のほとんどはフォルテの大音量を待ちわびる、いわば精神的な期待のクレシェンド(クライマックスを待ちわびる期待がどんどん高まっていくという遣り口)を引き起こしている。

展開部主題繰り返し部分(225-247)d moll
・推移途中で(d moll)に調性が移行し再度管楽器によって順次主題が導入されていくが、その主題再現途中の(234)小節においてRitmo di quattro(リトモ・ディ・クァットロ)が記入され、再び4小節を一つの単位とする楽曲構成に回帰し、それと同時に1小節ごとに冒頭リズム動機が打ち鳴らされ、再現部への推移が開始し始める。4小節に戻った主題冒頭(と主題類似進行)がストレット的に1小節ごとに導入され4小節ごとに調性を変え、(d moll)から(c moll)を経て、第9番で徹底して使用される元の調性に対するナポリ調(Es dur)に至って、最後に再現部の(d moll)へと繋がっていく。
・この拍子回帰部分では、再度プロポルツィオ変換を行ないリズム動機導入法を変化させても尚かつ、管楽器旋律が直前の主題部分の後半を継続しているなど、前の精神を保ちながら次の部分に移行しているため、変化と連続性のバランスを保ちながら、そのまま展開部主題のストレット的クライマックスを築く感じであり、実際に冒頭リズム動機に基づく推移的部分を確信するのは(248)小節になってからである。そんな理由で、プロポルツィオな部分で括った小節範囲と、繰り返し部分の小節範囲は一致していないのでご了承願いたいものです。

スケルツォ部再現部への推移(248-271)Es dur→d moll

・冒頭リズム動機を繰り返し、次第にクレシェンドしながら、フォルテッシモのスケルツォ主題再現部に到達する。まず初めの4小節はティンパニーの冒頭リズム動機が導く1小節の冒頭動機に、ホルンが3小節冒頭リズム動機を繰り返す。続いて弦楽器がそれに答えてスケルツォ主題の順次進行旋律が登場する上行3音(10小節目)を、下降音型に変えて4小節提示し、続いて先ほどのティンパニーとホルンの冒頭リズム動機4小節が2回続けて繰り返され、、その間に(d moll)に転調。次第にクレシェンドし、ついにティンパパニー、ホルン、トランペットが一斉に演奏する冒頭リズム動機4小節分でフォルテに達し、最後にこの4小節が弦楽器も加わった管弦総奏によってフォルテッシモでピークを迎え、そのまま再現部の冒頭リズム動機に到達する分けだ。

スケルツォ部再現部(272-411)

スケルツォ主題再現部分(272-329)d moll

・ティンパニーがどんどこどこどこ打ち鳴らし、ホルンとトランペット、さらにベースが規則正しく冒頭動機を繰り返し続ける(d moll)の保続主音上で、旋律担当楽器がユニゾン的主題提示によってスケルツォ主題を再現する。その開始部分である再現部冒頭リズム動機の部分ではティンパニーが1拍を3連符で打ち付ける、1小節9回の同音連打を打ち鳴らし、そのまま(283)小節まで1拍ごとにティンパニーを打ち鳴らし、冒頭リズム動機の伴奏とその上で行なわれる管弦総奏のユニゾン的スケルツォ主題の再現は、第1楽章と同じ方法で作曲され、つまりこの部分が楽曲最大のクライマックスを形成している。主題はそのまま(g moll)を経由して(B dur)に転じ、推移部分である(296)まで到達。管楽器の保続和音の下で冒頭リズム動機を繰り返す薄い声部書法の和声的推移部分に到達すると、この部分は提示部より大きく2倍の長さに拡大され、その繰り返し部分でさらに(D dur)に転じ、遂にスケルツォ副主題は同主長調である(D dur)で登場する。

スケルツォ副主題再現部分(330-363)D dur→d moll

・提示部の異例の(C dur)に対して、再現部でもオーソドックスなソナータ形式の調性である短調(d moll)ではなく、同主長調(D dur)によって主題が再現。しかし2回目の主題繰り返しの所(338)で短調の(d moll)に転調し、(d moll)のまま副主題後のファンファーレ的部分(346-349)で一瞬(F dur)領域を経由して、(354)から始まる終止部分への推移と共に(d moll)に回帰する。

再現部終止部分(364-411)d moll

・分散和音による終止部分旋律が繰り返された後、提示部で順次進行的だった(139-142)の旋律的パッセージが、動きを大きくして分散和音型に置き換えられている(376-379)が提示部と異なり、その後(d moll)のまま終止を終える。(388)からは1番括弧と2番括弧に分かれ、展開部冒頭に回帰する1番括弧ではそのままナポリ調である(Es dur)に変化、再び冒頭リズム動機の展開部が開始する。一方2番括弧では(d moll)のまま冒頭リズム動機の繰り返しがフォルテッシモのフェルマータで休止して(395)、弦楽器がスケルツォ主題4小節を2回ピアニッシモで提示し始め、それに対して木管が2小節遅れて冒頭2小節を演奏。つまり2小節ごとに弦と木管交互に主題冒頭2小節が4回繰り返され、stringendo il tenpo(ストリンジェンド・イル・テンポ)つまり次第にテンポを速めての記述された所で、密度が高くなり主題冒頭2小節だけを総奏的に4回繰り返しつつクレシェンドして、(Presto)部に雪崩(なだ)れ込み、ユニゾンで(a→d)の進行が繰り返されて、この導入的2小節を持って中間部主題を開始する。

トリオ的中間部分(412-530)

トリオ主題提示部分(412-423)D dur

<<<確認のためだけのへたれなmp3>>>
・冒頭動機に基づく和音提示的な短い序奏によってスケルツォ主題が導かれたのと同様、2小節のフォルテッシモによるユニゾン(d-a)によってトリオ主題が導かれ、スケルツォのトリオ部でよくやる木管楽器のみによる主題提示が行なわれる。長く伸ばされた後に順次上行しながら次第に誕生する山なりでなだらかな主題旋律に対して、ファゴットが幾分愉快気味にスタッカートでペポパポと順次進行で主題の山に対して反行進行気味に伴奏を添えるという祝祭的な主題で、冒頭の(Ⅰ-Ⅳ-Ⅰ)の進行を特徴として、全体的にⅣ型が耳に付く色彩豊かな主題になっている。

中間推移(422-438)D dur

・主題フレーズを上行を目指すように変化させて生まれた中間部分。8小節の提示と、その発展的繰り返しによって形成される。

トリオ主題展開部分(438-474)

・実際はトリオ旋律の再現部分だが、まず第1段階として少数声部によるトリオ主題4小節がホルンで4回、ファゴットで1回繰り返され、その間他の声部がトリオ主題の4分音符伴奏を声部を替えながら演奏する発展的トリオ主題部分で、主題と伴奏の上下関係が逆になるなどの展開を見せつつ次第に和声的に進行し、続くトリオ総奏を導く。

トリオ主題総奏による再現(475-491)D dur

・管弦総奏でトリオ主題が再現されるが、この部分で始めてトロンボーンが登場し、以下トリオ部分で使用されていく。最後に中間部へ戻るリピートがあり、これを繰り返した後でコーダ的推移(491-)に向かう。

トリオ部コーダ的推移(491-530)D dur

・ここで最後にもう一度トリオ主題を提示すると、4分音符の伴奏音型が持続される和声の響きの中で推移的部分を形成、この伴奏音型は始め管楽器に登場し、途中から弦楽器側に移っていく。トリオ全体を振り返ると、トリオの主題を提示し、中間推移からトリオ主題展開部分を挟み、トリオ主題の再現が置かれるという構造になっていたが、続くこの部分は再現されたトリオ部に対するコーダの役割を演じる事によって、スケルツォ部に回帰する。

スケルツォ部再現

 スケルツォ部先頭に戻って繰り返すが、再度トリオが出現しかねない直前の(395)から、最後のコーダに飛ぶ。

スケルツォコーダ(531-559)

・要するに、譜面上はジャンプはしたものの、スケルツォ再現をトリオ部導入を告げる(Presto)の導入跳躍ユニゾン音型まで行ない、スケルツォ冒頭を再現させるフェイントで7小節スケルツォ主題を演出した後、不意に休止し、スケルツォ部導入ユニゾン音型がフォルテッシモで打ち鳴らされて、幕を閉じる。

まとめ

・全体的に楽曲のもたらすイメージは、特にスケルツォ主題に見られる規則正しいリズム、例えば主題提示の毎回1拍目を補強する規則的な管楽器の響きや、後に登場するホルンやトランペット、ティンパニーなどの規律的な1拍目の補強、第2主題部分で一貫して繰り返される冒頭動機など、非常に規律的であり、秩序を持って打ち付けるイメージが一貫して用いられている。この性質はスケルツォの持つ、激しい狂騒性、不穏性、諧謔性の精神よりも勝っていて、短調による楽曲ではあるが非常に建設的なイメージが漲(みなぎ)っているように思われる。とくにスケルツォ主題の管楽器やティンパニーの音の効果は、定期的に打ち付ける鍛冶の鋼や、石材の加工といった製作・建築つまり創造のイメージが非常に強く打ち出され、これはスケルツォ主題再現部の驚くべき冒頭動機連続とティンパニー連打でクライマックスを迎えるようだ。したがって大工交響曲という名称の由来は、恐らくここから来たものと思われる・・・というのは全くのフィクションだ。それに対して第2主題に当るスケルツォ副主題は、勝利のファンファーレ的であり、英雄的であり、この精神は事実上のファンファーレに聞える部分、つまり第2主題に続く推移部分開始を告げる(109-116)の楽句に最も強く表わされている。一方で楽器選択や調性のもたらす音の色彩、その中から生まれる短調主題のある種の闇の属性を引きずるような精神は、黄泉の国の音楽かと思わせなくも無いが、これは人間的な悲劇性や暗さと云うよりは、深海とか、宇宙とか所属空間の属性によるもので、日常的な悲劇が渦を巻いたり、それが勝利に変換したりした姿とは何の関係もないように感じられ、また、革命的な叙事詩的社会的悲劇から勝利への移行という、革命的なイメージとも異なるように思われる。したがってこのスケルツォは、人間達の、あるいは特定の人間の魂の遍歴や哲学について歌ったものではなく、フランス革命とナポレオンの出来事を表わしたものでもなく、また、人間の世界にどっぷりと足を踏み入れて、人間レヴェルの情感で騒ぎ立てる悪魔達のワルプルギスの夜を表わしたものでも決して無い。そのような精神よりも遙かに壮大で深淵としていて、同時に建設的なイメージを元にして作曲が行なわれているように考えられる。そう考えると、我々にとって深遠なる場所で何物かが形成され、祝祭が行なわれるというイメージは、むしろ第1楽章に対応して、何物かが誕生したが何もない状態が、何かを形成しその創造物が祝祭的に讃えられているようなイメージが近いかも知れない。例えばギリシア神話なら世界が形成され神々の中心であるオリンポスが形成され神々の祝祭がなされ、神々の軍隊が太鼓を叩くようなイメージが浮かんでくるが、第1楽章を旧約聖書の天地創造の「光あれ」に相当する場面だと考えた場合、この第2楽章は神が天地を創造する6日間、世界が創造される建設的にして祝祭的なイメージを表わしていると受け止めることが出来る。つまりその短調の精神は、我々の存在し得ない深遠なる場面そのものから来ているのかもしれない。もちろんこのイメージは、私が楽曲解析中に楽曲自体から導き出した個人的なイメージであり、ベートーヴェンの資料考察に基づくものでは全くないのだが。

2005/07/01
2005/07/21改訂

[上層へ] [Topへ]