ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番 第2楽章

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概説

 管楽器の使用すら中止し、弦楽器と、それから2楽章全体を弱音ペダルのまま演奏するピアノによる、靄(もや)の掛った叙情性を表わしたかのような室内楽的な短い幻想曲。わずか72小節であり、書法も非常に薄く、使用している楽句素材が限られているにも関わらず、深く豊かな変遷を辿って楽章を閉じる長編幻想曲的な印象を与えることに成功している。・・・ついでに最後まで演奏したこと以外何一つ評価出来ないへたれのmp3をどうぞ。
<<<確認のためだけのへたれなmp3>>>

主題提示部分(1-26)

主題提示(1-13)e moll

 まずオーケストラ主題(1-5)がユニゾンで提示され、これに応答するように和声付けされたピアノ主題(6-13)が導入される。このオーケストラ主題は楽曲の主要主題となるが、一貫してオーケストラ部分の呼びかけとして使用され、それにピアノがこだまのように応答主題を返しながら楽曲が進行する。しかしこの2つの主題はそれぞれの属性を守りつつ、異なるが故に互いに引かれ逢う恋人達のように、異なる応答を繰り返しつつたった一つの愛を全うするのであった。(あうっ、なんだこりゃ。最近、楽曲解析が壊れてきたな・・・・。)

主題繰り返し(14-26)D dur→e moll

 再度オーケストラ主題がユニゾンで導入されるが、2小節目で(D dur)という、第1楽章でも模索されたパラレル的な別の調性に移行し、しばらくそのまま進行。ピアノ主題の後半で(e moll)に帰っていく。

主題発展部分(26-55)

主題の発展的部分1(26-38)a moll→e moll

 主題提示を終え、主題を使用した発展的推移部分に入ると、オーケストラ主題の冒頭部分に対して、短いピアノの応答が繰り返されながら進行。その後半ではピアノの方が比重を増しオーケストラはわずか2音で応答を行ない、いわば主従関係が入れ替わると、遂にピアノに息の長い終止的メロディーが形成され発展的部分1を終える。

主題の発展的部分2(38-55)a moll→e moll

 再び発展的部分1と同じ遣り方で、オーケストラ主題冒頭が開始してピアノが応答する。しかし後半のピアノの終止的メロディーの部分に到達すると、この部分は新しく終止メロディーが登場するような自立的な部分に変えられ、ここまで発展してきた主題冒険のクライマックスに到達する。つまり冒頭の主要主題と応答主題の関係から、発展的部分を繰り返すうちに、次第に後半ピアノ応答部分の比重を増加させ、ここに至って、後半ピアノ応答部分の終止風メロディーを、自立的なクライマックス的聞かせどころに到達させたと云うわけだ。この終止風メロディーは52小節目から半音階的和声進行を行ないつつ和声密度の高い最後の見せ場を築き、55小節目から属和音上のトリルに辿り着き、フェルマータで引き延ばされる。

属和音のカデンツ風パッセージ(56-63)

 オーケストラは鳴り止み、(c)のトリルが継続する属9和音内で、細かい半音階下降音型と8分音符の2度上行が、交互に繰り返されるピアノのパッセージが登場する。これはやがて右手トリルと左手細かい半音階進行パッセージを経由して、60小節目の左手右手2重トリルに到着すると、次の小節でトリルから右手だけのソロカデンツ風パッセージが登場し、アルペジオによる和声だけで[Ⅰの2転→属7]の和声カデンツを形成する。
 ここまで見てくるとおおよそ見当が付くように、この部分全体は主題提示と主題発展が終わった後の、ピアノによるソロカデンツ風の部分として作曲されているので、実際の主題に基づく楽曲は55小節目から64小節目まで保留されていると見ることが出来る。

終止部分(64-72)

 ピアノが鳴り止み引き延ばされた弦楽器の和声の響きの下で、ベースラインが主題の残照を繰り返しつつ、これに答えてピアノの応答の残照が行なわれ、最後の(e moll)主和音で曲を閉じかける。ピアノが最後の力を振り絞るかのように美しい3連符の分散和音で上行を試みるが、ついに力尽きたように反行し、2度下行したところでフェルマータで引き延ばされ、最後に主音(e)に消えるように下行しつつ楽曲を終止する。
 このように、自由なピアノフレーズをたっぷり投入した幻想曲風に感じられるこの楽曲は、実際は完全にオケの主要主題とピアノの応答に基づいた、非常に構成感の強い楽曲だった。そして、これが実際に聞いて幻想曲風に聞える理由の一つは、主題の派生2の部分の後半終止メロディの自立性が、この部分を後半部分の開始であるかのようにまで高めつつ、続くピアノのカデンツ風部分に移行するため、つまり(47-63)までの非常に長い間、主題部分から離れて異なる領域を彷徨うように感じられるからである。楽曲全体の構成の土台が在ればこそ、この逸脱が散漫になるどころか、楽曲を深める粋として機能しているのだろう。

2005/12/10
2005/12/25改訂

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