ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番 第3楽章

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提示部(1-203)

第1主題提示部分(1-40)

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・まず弦楽器だけで第1主題A(1-10)が奏されるが、これは冒頭開始音が主和音ではなく、(G dur)に対するⅣ和音で開始。これによって正統な開始ではなく、ずれた位置、つまり和声的には中途から開始するような印象を与えている。より正確に言えば、一瞬(C dur)が始まったかと思わせて、直ちに(G dur)の和声進行を行なうために、ひるがえってそのように聞えるというわけだ。主題冒頭のリズム動機は楽曲で重要な役割を果たすので、動機xとしておこう。さらに3小節目の8分音符動機を動機yとして、5小節目の8分音符と16分音符のスタッカートによる「たんたた」音型を動機zとする。
・続いてピアノによって第1主題が繰り返されるが、ここでは開始Ⅳ和音の修飾が(fis)音ではなく(f)音によってなされるため、冒頭での楽曲開始部分が、それ以上前に和音を持たないため、(C dur)であるかのように開始したのに釣り合いを取って、(C dur)風に経過音を(f)にしたものである。したがって、当然ながら冒頭主題と同様直ちに(G dur)の和声進行が行なわれる。
・続いて19小節から主題旋律に対する応答旋律を弦楽器4小節、ピアノ4小節で行ない、その最後の小節をさらに2小節繰り返すと、ピアノは休止し管弦による第1主題総奏が行なわれ、41小節からの推移に移行する。つまりここまでの第1主題提示は、[主題提示ー繰り返しー応答的逸脱ー主題総奏]というオーソドックスなスタイルになっているが、これ全体をもってロンド・ソナタ形式の主要主題の提示としている。

第2主題への推移(41-79)

・16分音符の音階パッセージ風伴奏に乗せてヴァイオリンで8分音符主体の「スタッカート順次下降型オクターヴ風味トリル付き」(・・・どんな料理だ。)が4小節行なわれ、4小節のピアノが同様進行で答える。この8小節をもう一度繰り返し、オケが一層華やかに4小節を開始する頃には、調性は(e moll)の短調で性格を変え、ピアノが短調のままこれに答えると、この4小節一組の最後の1小節の事象がオケとピアノの交替で1小節毎に繰り返され、この密度の濃い応答が起爆剤となって、ピアノが同音型進行で次々に調性を変える推移クライマックスを迎える。その先に第2主題が待っていそうな所、(D dur)の属和音領域としての(A dur)でいったん旋律的なものを誕生させ、短い逸脱領域を提示。しかし、実際は(D dur)の属和音と5度上のドッペルドミナントの交替から最後に(D dur)の属7に到達するという和声進行からも、同じ音型を繰り返しつつ次を模索するような音型パターンからも、この部分は明確に推移上の出来事として把握され、直前の転調的部分とこの部分によって、第2主題への期待が一層高められ、第2主題出現を魅力的なものにしていると考えられる。ただし、5度上のドッペルドミナント部分は(A dur)のⅣ度の準固有和音ぐらいにも聞え、(A dur)領域の出来事と、(D dur)の属和音上のエピソードがもはや分離不可能な状態でブレンドされているようだ。(ああそうですかい。)

第2主題提示部分(80-109)D dur

<<<確認のためだけのへたれなmp3(第2主題前から)>>>
・通常の提示部第2主題の調性である(D dur)で開始。第1主題Aの開始が分散和音上行型でリズム的で音価が細かいという特徴に対して、音価の長い旋律的な順次進行下行型による対照的な第2主題が(←柔らかなカイアズマスを文章に使用してみたり)、ここではチェロの保続低音上のピアノで開始する。その第2主題は保続音上の上声と下声の2声で作曲され、分散和音と順次進行だけで成り立つその単純な作曲スタイルは、これほどの単純性からあれほどの叙情性が生み出せるのか、信じられないくらいだ。保続チェロ上に2声のインベンションを軽く繰り広げただけで、これほど効果的な音楽が生み出すのは、技巧性をそぎ落とした離れ業(ツアー・デ・フォース)とでも言いたくなる。その主題印象の中でも特に82小節目で使用される準固有Ⅱの7和音の美しさ、そして左手で奏される対旋律が分散和音上行した後は、(82-87)小節まで音階順次下行型を行なっているだけという、見事なまでの単純性は特筆に値する。しかもこの第2主題は、メロディーが終止する87小節までの8小節に対して、修飾的な主題前半がもう一度派生し途中で止められる(88-92)までを含んでいるが、この主題繰り返し風部分では、一貫して下行してきた左手声部が今度は一貫して順次上行していく。この左手声部の新しい対旋律は、この修飾再現風部分が、実は再現ではなく87小節目に続く新しい部分であることを示しつつ、92小節目で和音止めされ、始めてチェロの保続主和音が属和音に移行して半終止。ここまでを一区切りとして13小節という割り切れない位置で第2主題提示を終える。しかし続くオケの主題繰り返し部分の開始は96小節からであり、つまりピアノが鳴り止んだ後、3小節間オケの導入が行なわれるため、第2主題の楽句の括りとしては(80-95)までの16小節を一つの纏まりとすることが出来る。(主題自体は92小節で終わるが、主題繰り返しが開始する96小節で新たな部分に移行したように感じるため、93以降が第2主題と同じ楽句に括られているようにも感じる、ということ。)つまりこの作曲方法は、16小節のまとまりをピアノ主題提示とする代わりに、13小節でピアノを終結させる主題編成を取り、残り3小節を続くオケによる第2主題再現の導入としたところに、割り切れない美しさ、というか第2主題を一層深いものにしている秘密が隠されているようだ。
・しかし真のすばらしさは、続くオーケストラによる第2主題繰り返し部分にあるのだった。なぜならここでは[ピアノの2声+保続音]の旋律が、オーケストラの各楽器によって対位法的に多声化するという、見事な発展が行なわれるからである。その遣り方は、主題の前半8小節はクラリネットとヴァイオリンに、後半は今度は拡大されて割り切れる8小節になっているが、ファゴットとヴァイオリンに主題旋律を演奏させ、他のオーケストラ声部は順次異なる小節で導入されつつ、主題旋律と対位法的に絡み合い、声部数を拡大していくという、非常に手の込んだものである。しかもその主題以外の楽器導入は、先ほど見た92小節の第2主題最後の小節から、すでに主題再現を受け持つクラリネットとヴァイオリンが保続音から主題に向かう序奏的導入(第2主題の対旋律から取られている)を開始し、これが一見カノン風に他の声部で導入を開始しながら、第2主題自体が、導入から連続的に主題繰り返し旋律を奏で始め、さらに声部を増やしていくあたり、楽曲お百度参りを済ませても、到底酌(く)み尽くせるものではない。特に保続音付きのピアノで2声のインヴェンションが主題を奏でた後に多声化されて導入されるオーケストラは、あたかもジョスカンの声楽曲で2声の部分が続いた後に声部が増加しつつ対位法的にして十全たる響きが全声部導入されるように、ルネサンス的ポリフォニの伝統すら思い起こしたくなるような見事な音符の主(あるじ)振りである。

第1主題再提示部分への推移(110-159)

・しかし忘れてはいけないこれはピアノコンチェルトなのである。対位法の粋的部分から、コンチェルトの名に恥じない、ピアニストが活躍するための分散和音パッセージ部分に移行し推移が開始すると、途中(d moll)の主和音をわずかに経由することによって、(C dur)の属和音に至る。ここで分散和音パッセージが16分音符から、8分音符の3連符型に移行しつつ、長らく(C dur)の属和音を繰り返し繰り返し讃えれば、遂に速度を落とし一度フェルマータで止め、ピアノ右手だけの順次進行走句パッセージで大きく下行後上行し主題再提示に至る。

第1主題再提示部分(160-199)

・提示部分同様に、弦→ピアノ→応答部分→オケによる総奏で第1主題再提示が行なわれる。和声解析では主題の入りの(C dur)主和音を、冒頭第1主題に合わせて(G dur)のⅣ度で書き換えるとよいかも知れない。

展開部(200)

 ロンド・ソナタ形式で自立した主題Cの部分が登場するのではなく、第1主題の動機xを使用した文字通りの展開部になっている。
第2主題への推移と同様の推移楽句での展開部導入(200-215)
・弦楽器によって、提示部で第2主題への推移を開始した楽句が4小節行なわれると、ピアノが(g moll)でこれに応答し、これにオケが総奏的に(Es dur)でもう一度呼びかけると、ピアノもその調性(Es dur)で答えることにして、展開部への導入をすませ、調性感を幾分落ち着かせると、展開部の主要楽句が開始する。したがって、実際は200小節では提示部主題が継続されているように聞え、それが(g moll)で繰り返される204小節からが、真の展開部開始と云えるかもしれない。これもまた、第1楽章で見られた継続的に次の部分に移行する遣り方と同種の方法である。(・・・と云うか推移楽句での導入は常套手段ではあるが。)
ピアノユニゾンによる16分音符分散和音繰り返しと、オケの8分音符分散和音山なり型(216-251)
・ピアノがユニゾンで分散和音を波打つように演奏する中で、管楽器は鳴り止み、弦楽器が8分音符の分散和音で大きく上下する部分。和声的には4小節Ⅰ和音が続き、次に4小節属7和音が続く安定した楽句が開始すると、この8小節に対する応答として、ピアノが止み管楽器が導入され、弦楽器と共に第1主題の動機xと5小節目の動機zの2種類を使用した、第1主題断片で4小節応答。その応答最後に(b moll)に移行すると、ここまで見てきた全12小節を、今度は(b moll)領域で繰り返す。その最後で(f moll)に転調し、さらに12小節を繰り返すが、最後の応答4小節は(g moll)の属9の4転根音省略形を使用し、楽器もピアノによって動機xだけを使用しつつ、次の展開部分に移行する。
3連符による和音下行型とオケによる動機x、動機y部分(252-271)
・動機xを打ち鳴らしたピアノがそのまま和音下行型を3連符で修飾した音型を開始する。これが4小節行なわれる間、弦楽器は第1主題の動機yをピチカートで奏し2小節、続けて管楽器が動機xを2小節繰り返し、この部分全体を強く第1主題に結びつける。この4小節が一つの楽句単位となって、次々に繰り返されていくのだが、和声的には、②部分最後の(g moll)属和音は、4転回から3転回に落ち着きつつ属9和音のまま4小節進行し、続いて(g moll)の主和音で4小節、(C dur)の属9で4小節、答えて主和音で4小節と進行し、最後に(G dur)のドッペルドミナント7和音の中でもう4小節繰り返すと、272小節からは、保続5音上の展開部最後の離脱部分に到達する。
(G dur)保続Ⅴ音上の再現部への推移(272-279)
・ピアノが(G dur)の保続Ⅴ音上でⅤ和音とドッペルドミナント7の下方変位を細かく繰り返し進行しつつ、普通ならば第1主題が再現されるところだが・・・・。

再現部(279-434)

 通常なら第1主題再現に向かうところ、ここでは再現部への推移から、連続的に第2主題への推移であるピアノの転調的部分に移行し、保続Ⅴ音上のⅤとドッペルの交替部分、あるいは(D dur)領域を経て、第2主題が(G dur)で再現される。この第1主題の省略は、期待を心地よく裏切る位置関係の倒置省略といったモーツァルト的閃きももちろんあるが、もっと深い意味で楽曲に関係している。まず第1に、ロンド・ソナタ形式の中間主題Cに替わって、もっぱら第1主題の動機を使用した十全展開部を置いたために、ロンド全体の第1主題の比重が重くなりすぎることを防ぐ意味がある。つまりロンド・ソナタ形式では第1主題がABACABAの基本4回登場するので、さらにC部分が第1主題で形成されるとなると、その比率がAに偏りすぎるという考え方である。そしてこれと関連して、非常に重要なことが浮かび上がってくる。つまりここでAを抜かして第2主題Bを登場させることによって、後半第2主題の比重が第1主題と同等(あるいはそれ以上)の重要性を帯びてくるのである。これは後に見るようにコーダに入った後、再度第2主題が十分に展開される事と共に、ロンド形式のAの比重に拮抗するだけの高みにBを押し上げるために、このような第1主題再現の省略が模索されたのではないかと考えられる。そしてもちろん、形式を故意に解体することによって得られるある種の自由さ、構成の枠が弛緩したような効果、そして心地よい驚きは、この種の逸脱を行なう理由の筆頭であることは、言うまでもない。
 第2主題から調性以外は大体提示部の第2主題以降と同様に推移し、第1主題の再現へ向かうが、352小節で16分音符のピアノ分散和音パッセージが、8分音符の3連符分散和音に替わるところで(Es dur)の主和音、と云うより次の(B dur)のⅣ度和音が鳴らされ、そのまま(B dur)を確定させる。この第1主題再現への推移は提示部よりもさらに引き延ばされ、続いてきた8分音符3連符分散和音が、383小節から16分音符の分散和音型に変じると、途中で(c moll)に転調し、ドッペルドミナント9和音下方変位和音が登場する所で、ピアノが止みオケ総奏によって主題冒頭リズムが打ち鳴らされ、これによって長らく遠ざかっていた第1主題再現を予感させ、効果的な導入としている。しかしこれは、ピアノが行なう分散和音の間に置かれたエピソードであり、(C dur)に移行しつつ再度ピアノの分散和音が属和音で登場すると、最後にフェルマータで留められ、右手だけのカデンツ風ソロパッセージが繰り広げられた後、第1主題が再現される。このように主題再現への推移にある種の主題導入のためのエピソードを配置することによって、提示部の時より様々な事象を経過して主題に至るようなドラマ性が演出され、もちろんこれは再現部の最初に第1主題を置かずに、ここまで保留したことによって、効果的に生かされているわけだ。

第1主題再現部分(416-442)G dur

・先ほどの調性から連続的に(C dur)の主和音で開始される第1主題だが、開始部分の主題和声と同様に、これは(G dur)のⅣ度に置き換えられる。しかしここでは、オケによる本来の第1主題再現がピアノによって行なわれ、これを引き継いでオケで第1主題が繰り返されるため、主題の圧縮が行なわれ、提示部最初で見られた[オケによる主題提示ーピアノによる繰り返しー応答的逸脱ーオケによる主題総奏]が、[ピアノによる主題提示ーオケによる主題総奏]に短縮されると同時に、ピアノのオクターヴを利用した小さな変奏と、オケ繰り返しのベースのシンコペーションリズムによる変化など、発展した形での主題再現になり、そのまま提示部と同様の遣り方で次の部分に推移する。つまり16分音符の音階パッセージ風伴奏に乗せてオケで8分音符主体のスタッカート順次下降型オクターヴ風味が4小節行なわれ、4小節のピアノが同様進行で答える楽句が登場し、主題からの離脱を図ると、443小節から楽曲コーダに突入する。この際、提示部から展開部で行なったように、この推移音型が登場する前までを主題再現部としても構わないが、443小節で提示部推移とは異なる音型が登場するところで始めて、新たな場面へ入ったことが確認できるので、443小節からをコーダとすることにする。

コーダ(443-600)

第2主題再度再現風の展開的コーダ部分(443-449)

・まるで、再現部では[A-B-A]のパターンを[B-A-B]に変えたように、この部分に第2主題領域が再度登場するが、同時に443小節から登場する終止が近いことを告げるようなピアノの分散和音パッセージが、やがて3連符に変化している間に第2主題が登場するという遣り方と、調性が(Fis dur)で第2主題冒頭を開始するとすぐに留められ、わずか6小節で半音上行して(C dur)でこれを繰り返すような遣り方、そして続くオーケストラによる第2主題の扱いなどによって、この部分から終止的な部分が開始しているように感じるだろう。いわば最後の終止に至るための第2の展開部が開始される様相だ。さて、ピアノを越えて本来の調性(G dur)で提示されるオーケストラによる第2主題(475小節から)では、ピアノが音階上行型の16分音符パッセージで第2主題進行を修飾し、華やかさと共にテンポ感を高め、その力もあって第2主題の旋律はやがて、オケによる4音ずつユニゾンで上行する力強いパッセージに至り、大いに音量をたくましゅうすると、Ⅰの2転で留められ、ピアノによるソロカデンツが開始する。つまり、このカデンツに向けたクライマックスの形成が、第2主題を使用して行なわれ、楽曲安定度が一層推移的展開的なものに置き換えられているのが、今述べた一連の部分なので、やはり443小節からコーダの開始とするのが相応しいようだ。

カデンツ的推移(449-519)

・ピアノのカデンツが行なわれると、そのままピアノでトリルが繰り返される部分が登場し、途中に少しづつオケ楽器が和声的に導入されていくが、ピアノは再び推移的なパッセージを開始して、次の部分へ移行するため、カデンツの終わりが巧妙にぼかされて、カデンツからオケが入り込み推移する一連の部分全体が、一つの部分のように作曲され、いわばカデンツとオケ導入の融合が図られている。つまり次の部分までが、いわばカデンツとカデンツ風部分になっているわけだ。

第1主題の動機xより後ろ側を使用した部分(520-567)

・ピアノのパッセージに木管楽器が、特徴的な冒頭リズムを抜いた第1主題の後半部分を元にした旋律を繰り返しつつ進行すると、546小節からコーダ最後の部分に向けた、4分音符の和音型から次第にリズムの動きが活発化していくような推移がピアノで開始され次第にクライマックスを形成。

第1主題最終提示と終止(568-600)

・直前の推移によりリズムと響きが高まると、568小節からピアノが止み、オケ総奏のフォルテッシモで第1主題の特徴的な冒頭リズムが回帰。先ほど第1主題後半部分が使用され、さらにその後のリズムを高める推移が、この冒頭リズム動機の呼び水になって、遂に十全たる第1主題の登場となった。この第1主題は、ベースラインが8分音符3連符の伴奏音型で修飾され、1回だけ完全に提示され、直ちに終止風パッセージに移行し、最後にそのパッセージ群の中にもう一度冒頭リズム動機を打ち鳴らしながら楽曲を閉じる。

・こうして見ると、再現部では1回目の第1主題が省略され、再現部領域の圧縮と、第2主題の優位が図られる一方で、コーダ部分を拡大し楽曲終止に向けた第2の展開部のように拡張している。しかもそのコーダはまず第2主題の展開から開始することによって、再現部最後の第1主題を挟み込む形で第2主題のウェイトを高め、これは続くピアノソロカデンツでも、作曲者自身の書いた例では第2主題のメロディーが登場する一方で、第1主題の明確な登場が避けられ、カデンツ後の推移を超えてようやく520小節から第1主題の後半旋律が登場し、楽曲最後の直前に特徴的な冒頭リズムを含んだ第1主題の再現が行なわれ楽曲を閉じる構成になっている。この最後の第1主題は、本来再現部に登場する第1主題の代わりにこの部分に登場したと解釈することも可能で、展開部後に第1主題を置かないで第2主題後に登場させることによって、いわば一時[ABA]の構成を[BAB]のように置き換え、第2主題の比重を高めつつコーダの展開で第1主題の出現を期待させる方針が取られ、その行き着く先に第1主題が登場するため、改めて最後まで完了すると全体の比重は第1主題が担っているわけだ。
・簡単に書いてしまえば
[A-B-A-展開-B-A-B-A]
ということになるが、こうした楽曲配置は、それぞれの楽句部分の展開や推移や十全な再現というその場の作曲方法によって入念に形成されて始めて機能するのであって、ただ単にAの位置とBの位置を交換したり、逆転させたりしているだけでは、全くないことを余計なお世話で付け加えておこう。つまり配置を換えると同時にその楽句の意義と楽曲内での役割を変化させ、そしてそれからなんたらかんたらとご老体がくどくど説明することになるのだろうが、とても最後まで聞いては居られないので、今日はこの辺で皆さんにお別れをしましょう。

2005/12/15
2006/1/1改訂

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