歯っ欠けじゞいの食い意地歌

歯っ欠けじゞいのうらみ歌

歯っ欠けじゃよ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじゃろうて、歯っ欠けじゃ
    歯っ欠けじゞいのうらみ唄

じゞいの歯っ欠け、台無しなって
  食うも食われぬ、ボロ切れの
    餅も食われぬみじめさよ

飲み足りなくて、また飲んで
  食い足りなくて、また食って
    食事の合間に、おやつらやら
  なにやら食って生き抜いた

戦後の報いか仏罰の
  釈迦の如来がにらめ付け
    じじいの末路か歯っ欠けの
  食うも食われぬみじめさよ

歯っ欠けじゃよ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじゃろうて、歯っ欠けじゃ
    歯っ欠けじゞいのうらみ唄

思えば汚ねえ食い維持を
  張ってはかくして孫どもに
    説教しては陰口を
  叩かれたってへっちゃらな

羞恥心さえ食い意地の
  干からびちまったじゞいなら
    増えるしわさえだらしなく
  見せびらかしてはもぐもぐと

汚らしいと罵られ
  それさえ聞かずに知らぬふり
    同僚どものいつわりの
  老いたる美などに旗振って

本当はおなじしわくちゃの
  不気味な顔にはぞっとして
    けれどもそれを認めたら
  自分ももはや化け物さ

穢れた姿に相応しい
  最果て情緒は食い意地か
    ああみじめじゃろ、みじめじゃろ
  食欲の果ての、ずたぼろの

ああ、歯っ欠けじゃ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじゃろうて、歯っ欠けじゃ
    歯っ欠けじゞいの写真など

  葬儀の席にも見とうない
    しこたま補正をしておくれ
   ああ、しておくれ、しておくれ

晩飯食ったか忘れても
  食欲だけはレーテーの
    忘却の川は飲み干せぬ

おにぎり欲しい、柿食いたい
  せんべいよこせや、まんじゅうも
    あるいはこれが最果ての
  人の感情じゃござそうろう

日本語さえも忘れかけ
  もどろな羞恥にマナーさえ
    葬儀にげほげほ咳まくり
  くしゃみ三発ひんしゅくの

食い意地だけはまんじゅうか
  まんじゅうおしくら、せんべいも
    ござそうろうな日本語も
  知るもんでなし、がさごそと

闇夜の棚をあさっては
  老いたる娘に叱られる
    かつては讃えた愛娘
  これはなんたる変わりよう

ぎょっと老いたるその姿
  みずから忘れてびっくりし
    人切りばばあかしわくちゃの
  驚くワシこそ父親じゃ

ああ、歯っ欠けじゃ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじゃろうて、歯っ欠けじゃ
    歯っ欠けしても食い意地は
  死ぬまで続くよ、どこまでも

歯っ欠け仲間に、日が落ちて
  南無阿弥陀仏と、骨焼いて
    どこじゃろ、欠けた歯の跡は
  わしが拾うてやろうかい

ああ、仏罰じゃ、仏罰じゃ
  じゃが、仏罰よりも、歯っ欠けじゃ
    歯っ欠けよりも、そうじゃ、食欲じゃ
  阿弥陀如来も、おにぎりじゃ

しどろもどろの日は移り
  やがては業火に焼かれても
    わしは死ぬまで歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けしても食欲じゃ

それが畢竟執着の
  現世定理と知ることが
    釈迦の悟りと悟りきる
  聖人大福が至福じゃろう

ああ、歯っ欠けじゃ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじゃろうて、食い意地は
    死ぬまで捨ててなるものか
  しがみついては生き甲斐じゃ

ああ、歯っ欠けじゃ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじじいの、食い地唄

ああ、歯っ欠けじゃ、歯っ欠けじゃ
  歯っ欠けじじいの、食い地唄

後書じゃて

さて、さて、
  また、鬼の居ぬ間に漁るかのう
    それにしても今夜の晩飯
  何を食ったじゃろうか?

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