中世スコットランドの虚像
(シェイクスピアのマクベスでもほぼ適用可能)
ダンカン………スコットランドの国王
マルカム………ダンカン国王の息子
ドナルベイン………ダンカン国王の息子
マクベス………勇将として名の高いスコットランドの将軍
メアリー………マクベスの妻
バンクォー………スコットランドの将軍、マクベスの友人
フリーアンス………バンクォーの息子
ロス………スコットランドの古将
マグダフ………スコットランドの将軍、ロスの若い友人
その他将軍や部下たち
………アンガス、レノックス、メンティス、ケイスネス、シーワード、小シーワード、シートン
(そのほか兵士など多くの者たち)
大まかなあらすじは原作を読んで二度楽しめるようにかなりの部分を踏襲していますが、マクベスの本来のプロットの要である三人の魔女がいなくなっています。この三人の魔女を仮面の男に置き換える事が、管理人作マクベスの存在理由の一つになっています。シェイクスピアファンの人々は大騒ぎするかもしれませんが‥‥。後はマクベス婦人の名前が勝手にメアリーになっていますが、シェイクスピアのマクベスでは名前はありません。(シェイクスピアがマクベスにおいて史実にない名前を捏造したくなかったためだとか。あるいは名前のある女性を登場させない意図があったとか。)他にも細かい所は相当違っていますが、そうでなかったらわざわざ書く意味がないので、あしからず。
スコットランドの領土を拡大した偉大な国王マルコム2世(在位1005~1034)亡き後、孫のダンカン1世が国を治めることとなった時。これに異議を唱えたマクベスは、ダンカン1世を毒殺、ではなく戦場で打ち破り自らが国王となった。その後マクベスは1040~1057年の17年もの間スコットランド国王として治めたが、1054年イングランド軍に援助を求めたかつてのダンカン国王の息子マルコム(マルカム)によって国王の座を追われた。マルコムは即位するとマルコム3世として国を治めた。1066年、ノルマンディー公ウィリアムがイングランドに上陸するほんの少し前の、スコットランドの物語。
シェイクスピアはラファエル・ホリンシェッドの書いた年代記を元にこの話を脚色、マクベスの劇とした。(ただしマクベスには共同制作説もあるらしいのだけれど。)ちなみに管理人のマクベスの中にホリンシェッドという貴族が登場しますが、ただの偶然の一致です。(‥‥嘘を付くな。)
かつてローマ人がカレドニアと呼んだグレートブリテン島(イギリスの一番でかい中心島)のローマ城壁の北側には、ケルト系の民族ピクト人が生活していた。395年にローマ人が撤退する頃、アイルランドからケルト系のスコット人がやってきて島の西側に植民地を築いたり、別のケルト系ブリトン人が住み着いていたり、ゲルマン族のアングル人が勢力を持っていたりして、抗争を繰り広げていたが、次第にキリスト教が広まり、9世紀半ばスコット人がピクト人を破って連合王国が誕生。首都をスクーンに置いた。
さらに1018年にはマルカム2世(在位1005-1034)がアングル人を平定、孫のダンカンをブリトン人の国王継承者に就任させ、この頃から勝利民族だったスコット人から名前を取ってスコウシア(Scotia)王国と呼ばれるようになっていった。マルカム2世はまた、タニストリーと呼ばれる選定による国王決定を、長子相続に変えたが、以後しばらくは定着せず血みどろの争いが繰り広げられることになる。
ダンカンは1018年からブリトン人の王位を継承していたが、1034年にグラームズの砦付近でマルカム2世が殺害されると、スコットランド国王(在位1034-1040)となり、これによってブリトン人の領土と合わせて、現在のスコットランドとほぼ同じ領域になった。しかし、1039年戦争に失敗して信頼を失い、それが元でか1040年にマクベスに殺害された。
マクベスはマルカム2世の次女ドウナダの子供で、王家の血筋だったが、国王就任すると1043年に旧王家の血を引くバンクォウを始め多くのものを粛正しつつ、ローマに出かけ国内統一に努めた。最後は1054年、イングランドに逃れていたダンカン1世の息子であるマルカム・カンモーに破れ、続く1057年の戦いで戦死したそうだ。
その後マクベスの子供が4ヶ月王位についた後、あっさり蹴落とされ、目出度くマルカム・カンモーがマルカム3世(在位1058-1093)として国王就任を果たすのである。云うまでもなく?イングランドにノルマンディー公ウィリアムが上陸してきたときのスコットランド国王である。ウィリアム1世とは大いに険悪で互いに攻め合って、最後にはイングランドとの戦の最中に戦死したのだった。
その後国王はその弟であるドナルド3世(在位1093-97)に移るから、つまり「マクベス」に出てくるドナルベインのことだ。ドナルド・ベインと云うのだそうだ。
ちくま文庫の松岡和子訳のマクベスを勧めます。シェイクスピアを日本語で読みたい人は彼女の訳に走るしかないのです。(本当ですか?)またシェイクスピアを読んでみたい人、あるいは「ハムレット」や「2人共に死を!(ロミオとジュリエット)」を読んであまり好きでなくなった人には「十二夜」を読む事をお勧めします。
2003/春