ロミオとジュリエット第1幕

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1.冒頭のナレーション

(ヴェローナ。蛇行するアディジェ河に掛かるとびきり美しい橋の上から水面(みなも)を見詰めるロレンス神父。やがて手に持った薬籠から薬を川に投げ入れる。小さい粒を手にとって、種を撒くように何度も何度も放り込む。その時アディジェの水面(すいめん)は不思議に青白く輝きを放って、呼吸のように光を点滅させ、やがて静かにもとの流れに消えていった。)

ロレンス:この橋の上で
2人は初めて会った
青年は不思議な思いで水面を見詰め
少女は友達を連れて夢を膨らませ
あどけない鈴のようにほほえんだ
青年が驚いて顔を上げたとき
互いの目が深く吸い寄せられ
戻れない橋を渡ったのだ
青年の名はロミオ
少女の名はジュリエット
歳月と時を刻む無情の秒針が
2人を遠く記憶の底に追いやる前に
2人の物語を皆さんにお伝えしよう

(ロレンス退場。オープニングの音楽が始まる。)

2.ヴェローナの町中

(幕開く。サムソンとグレゴリー。後景に市民達。)

グレゴリー:おい、寒そうなサムソン。

サムソン:なんだグレゴリー、今日は気が立っているのだ。いちいちからかうな。

グレゴリー:なんでそんなに腹を立ててんだ。

サムソン:昨日、モンタギューの奴らと殴り合っただろう。

グレゴリー:お前、随分活躍してたじゃねえか。

サムソン:誰かが俺の背中に蹴りを入れたのだ。

グレゴリー:なんだ、お前だって散々殴りまくったじゃねえか。十分元は取れただろ。

サムソン:顔が分からないから、怒りが収まらない。

グレゴリー:お前の場合、相手が分かった途端に復讐に火がつくんじゃねえか。

サムソン:そんなことはない、俺はお前と違って温厚だ。

グレゴリー:そりゃ傑作だ。キャピュレット家で一番力任せの暴れん坊がよくいうぜ。

サムソン:いつも一番先に殴りかかるのはお前だろう。

グレゴリー:人は俺のことを、疾風のグレゴリーと呼ぶぜ。

サムソン:グレゴリー、お前はすこしgrey cells(グレイセルズ)を磨いた方がよさそうだ。

グレゴリー:なんだと。俺に対してそんな難しい言葉を使うとは、身内で喧嘩を始める気か。

サムソン:グレゴリー、灰色の細胞だ、灰色の細胞。

グレゴリー:名探偵お決まりの台詞か。俺も少しは頭を使えと罵(ののし)るのか。

サムソン:そうではない。剣でも、言葉でも、相手を一撃で刺し殺せるように、頭の中も鍛えておけということだ。

グレゴリー:言葉なんてまっぴらだ。今度モンタギューの奴らが現われたら、お前の復讐を兼ねて、俺が奴らの背中に蹴りを入れてやらあ。

サムソン:本当だろうな。モンタギューの奴らが来やがったぞ。

(モンターギュ家のアブラハムとバルサザー登場。)

アブラハム:これはこれは親愛なるキャピュレット家の方々。昨日はさぞお疲れで。

サムソン:これはこれは親愛なるモンタギューの方々。昨日はさぞかし小突かれて。

アブラハム:背中を小突かれたのはどこの誰だったか。いやいや、失礼しました。

サムソン:アブラハム、なぜそれを知っているのだ。さてはお前か。

アブラハム:言いがかりはやめて貰おう。俺は背中の足跡を見て大笑いしたまでのこと。

サムソン:ふざけるな、続きをやりたいのか。

アブラハム:お前達から仕掛けてくるなら相手にならないこともない。

グレゴリー:ああ、いらいらする野郎だ。卑怯な言葉遣いばかりしやがって。サムソン、面倒くせえ、約束どおり俺が剣を抜いてやる。

(グレゴリー、剣を抜く。慌てて全員剣を抜いて、乱闘が始まる。)

サムソン:さすが疾風のグレゴリー、喧嘩の早さは俺以上だ。

アブラハム:これは正当防衛だ。よって叩きのめしてやる。

グレゴリー:さすがモンタギュー、理由がなけりゃ喧嘩も出来ねえのか。

アブラハム:なんだと。

(モンタギューめ、キャピュレットの野郎などと、互いに罵り合いながら乱闘が続く。市民達、慌てて走り去る。)

(モンタギューの若頭ベンヴォーリオ登場、慌てて仲裁に入る。遅れてモンタギューの若者数名入場。)

ベンヴォーリオ:馬鹿、アブラハム、バルサザー。何をしている、やめろ。

サムソン:モンタギュー家の若頭ベンヴォーリオだな、討ち取って手柄にしてやる。

ベンヴォーリオ:よせ、市民達からエスカラス大公に陳述書が出されている。

グレゴリー:だったら、禁止を食らう前に決着を付けてやるぜ。

(キャピュレット家のティボルト入場。後ろからキャピュレット家の若者数名入場。)

ティボルト:何をやってるお前達。喧嘩か、喧嘩か、俺も参加だ。地上に降りた最後の悪魔、キャピュレットの突撃隊長ティボルトの血が騒ぐぜ。おい、よくも大勢でうちの若い奴らを。このティボルト様が成敗してくれる。やい貴様、そこにいるのは憎きベンヴォーリオ。俺様の剣でダンスを踊ってみろ。

(ティボルト、剣を抜く。)

ベンヴォーリオ:よせティボルト、俺は止めに入っただけだ。大公の話を知らないのか。

ティボルト:剣を抜いた平和の使者だと、そんな仲裁があってたまるか。俺のあだ名を教えてやるぜ、キャピュレットの稲妻隊長ティボルトだ。

ベンヴォーリオ:そんなこっ恥ずかしい名前が覚えられるか。

ティボルト:貴様、許さねえ。

(ティボルトとベンヴォーリオ闘う。他の者も一斉に乱闘。)

(市民自警団に先導され、キャピュレットとキャピュレット家の若者数名入場。)

キャピュレット:静まれお前達、何をやっておるのだ。

ティボルト:くそ、親父が来やがった。えい、離れろ。

ベンヴォーリオ:自警団まで来た。退け、俺達も退くんだ。

(乱闘、2手に別れる。)

市民自警団の1人:キャピュレットさん、見て下さいこのありさまを。そして考えて下さい。毎日毎日喧嘩に明け暮れ、町を破壊し、井戸をぶち壊す。奇声を発して暴れ回る。このヴェローナはいつから乱闘の都(みやこ)になり下がったのです。

キャピュレット:許せん。何たるありさまだ。

自警団の1人:お願いします、乱闘をとめて下さい。

キャピュレット:なんと憎たらしい。

自警団の1人:は?

キャピュレット:モンタギューの分際で、ワシの息子に剣を振るうとは。

自警団の1人:なんですって?

キャピュレット:ティボルト、もう少し痛い目に遭わせてやるのだ。

ティボルト:さすが親父、話が分かるぜ。

キャピュレット:みな、ワシに続くのだ。

(キャピュレット、真っ先に殴り込みをかける。一斉に乱闘になり収拾が付かなくなる。)

市民自警団達:信じられない。こんな珍事があってたまるものか。えい、俺達のヴェローナを守るんだ。皆を呼んでこい。俺達の手で決着を付けてやる。

(市民自警団達、武器を手に乱闘に迫り。数人が走り去ろうとする。)

(激しいラッパの響き。エスカラス大公、配下の兵達を従えて登場。モンタギューとその妻も共に。ラッパに驚いた乱闘の当事者達、慌てて左右に分かれる。)

大公:モンタギュー、諍(いさか)いはないと誓ったお前の言葉に裏切られ、このエスカラスの心は炎のように燃えたぎっている。キャピュレット、町を豊かにする使命を帯びたお前達が、率先して若者を拐(かどわ)かし、町を割っての乱闘騒ぎ。私が大公を務めるヴェローナを、よくぞここまで汚してくれた。

(大公、剣を抜く。)

大公:ヴェローナ大公エスカラスの名において、お前達に申し渡す。次の乱闘が執行の合図、両家共々財産を没収しヴェローナを追放するからそう思え。

モンタギュー:恐縮して頭を下げ、宣言の実行を誓いますので、どうか今回のところは穏便(おんびん)に。

大公:宣言は今後のこと、今回のことは不問に処す。キャピュレット、お前も分かったな。

キャピュレット:まったく了解しながら、平身低頭しつつ、こうして頭をさげまする。

大公:では2人には、宣誓書にサインをして貰う。市民自警団は今後十分な監視を行ない、何かあったら自分達で解決せず、すぐ詳細を報告するように。

市民達:かしこまりました。

大公:キャピュレット、お前には話が残っている。お前は先ほど、乱闘に加わっていたであろう。

キャピュレット:いえ、何をおっしゃる、滅相もない。ワシも齢(よわい)を重ねた高齢者、一家をまとめる立場なれば、乱闘などは皆目見当も。

大公:なんだその杖は、血が付いているではないか。

キャピュレット:いえ、あの、これは途中で犬に絡まれ。

大公:お撲(ぶ)ちなさったというのか。犬の都ヴェローナで、飼い主にさえ撲たれたことのない、敬虔なる犬の横顔を殴ったと。許し難い行為である。

キャピュレット:犬の都などと、それは一体何のお話で。

大公:お前はまだ反省が足りないようだ、息子のティボルトと共に一緒に私の館まで来て貰う。他の者達、市民達も、直ちに解散するのだ。

(全員解散退場。モンタギュー、その夫人、ベンヴォーリオだけが残る。)

モンタギュー:ベンヴォーリオ、お前がいながらなんたる不覚。

ベンヴォーリオ:すいません。初めは仲裁に入ったのですが、突撃隊長ティボルトが飛び込んできてからは、すっかり喧嘩のペースに巻き込まれ。

モンタギュー:ええい、そうではい。目の前に憎きキャピュレットを控え、あと一撃の距離にありながら、とどめも刺さずに見逃すとは。

モンタギュー夫人:なんですあなた。今朝ご自分で、乱闘を起こしてはならんと忠告しておきながら。

モンタギュー:それはそう。それはそうだが、憎たらしい。今討ち果たさなければ、明日(あす)からはもっと難しくなるではないか。

(足をだんだんと踏みならす。)

モンタギュー夫人:まったく両家とも先代からの諍(いさか)いで、顔を見る度に殴り合いだ、斬り合いだと、よく飽きがこないものです。これを機会に仲直りをしたらどうです。

モンタギュー:仲直りなどあるものか。キャピュレットと抱き合うくらいなら、死体を抱き締めるほうがましだ。

夫人:はいはい、もう今日は家に戻りましょう。そうですベンヴォーリオ、ロミオはどうしたの。こんな所にいなくて本当によかった。

ベンヴォーリオ:はい奥様、太陽神ヘーリオスが東(あずま)の方角より湧(わ)け出でし頃。

夫人:なんですそれは。びっくりするじゃありませんか。珍しく本なんか読んでると思ったら、変な影響ばかり受けて。

ベンヴォーリオ:ああ、済みません。その、奥様の前では、緊張してしまい。

夫人:だらしのない。しっかりなさい。それで、どうしたの。

ベンヴォーリオ:はい、私は胸が苦しく一睡も出来ずに、夜明けを待ってスズカケの森に向かったのですが、広場にはすでに先客が一人、飛び交う兎達を遠くに涙を流していました。

夫人:ああベンヴォーリオ、もっと分かり易くお願い。とにかくスズカケの森にロミオがいたのでしょう。

ベンヴォーリオ:そうなのです。まさにロミオだったのです。

モンタギュー:スズカケの森とは軟弱な、男なら東の草原に出て、打ち込み百本でもやって見せるがいい。最近の奴はどうかしておる。お前もお前だ、胸が苦しく一睡も出来んとはいかなるまじないだ。若頭の言葉とはとても思えん。

ベンヴォーリオ:すいません。

夫人:駄目ですよあなた。2人とも、青年の美しい病ですよ。

モンタギュー:美しい病だと。

夫人:ですから。ね。

(夫人、モンタギューに耳打ちする。)

モンタギュー:なるほど。これは気付かんかった。奴もそろそろ魅惑のお嬢さんと添い寝など所望致(しょもういた)す年頃だったか。

夫人:なんですその言い方は。嫌らしい。

モンタギュー:やらしいことがあるものか。ワシは奴ぐらいの年にはとっくに添い寝生活を堪能(たんのう)しておった。

夫人:なんですって。

モンタギュー:落ち着け、お前と知り合う前の話だ。

夫人:それでベンヴォーリオ、お前は。

ベンヴォーリオ:いえ、奥様、そのような、私の添い寝の所望(しょもう)致したく所存(しょぞん)などはまだ、その、十分お聞かせできるほどの。

夫人:何を言っているの、そうじゃありません。

ベンヴォーリオ:はい?

夫人:ロミオの煩(うれ)いの元種(もとだね)がどこにあるか聞いてくれたの。

ベンヴォーリオ:ああ、すいません。つい動転しました。実は私にさえ打ち明けようとしないのですが、千載一遇(せんざいいちぐう)の好機、ロミオが歩いて来ます。再度確認を試みますから、お二人はひとまずあちらへ。

夫人:よろしく頼みますよ。ロミオの親友として頼りにしているのだから。

モンタギュー:もちろん組の若頭としても頼りにしておるぞ。

(2人退場。代わって、ロミオ入場。)

ベンヴォーリオ:ロミオ、グーテンモルゲン。《注下》

ロミオ:なんだベンヴォーリオか。まだ朝だっけ。

ベンヴォーリオ:ちょうど鐘が9時を打った所だ。

ロミオ:そうか、悲しいと時間が進まないものだね。それより今、父さんが居なかったか。

ベンヴォーリオ:もう行った。時間が進まないと困るだろう。

ロミオ:何たいして困らない。

ベンヴォーリオ:じゃあ、なぜ浮かない顔をしている。

ロミオ:留まる時間には困らないが、出来ることなら時を忘れるほど幸せになりたい。

ベンヴォーリオ:どうすれば幸せに。

ロミオ:分かってるくせに。

ベンヴォーリオ:美しいお姉さんが。

ロミオ:いや、お姉さんじゃない。

ベンヴォーリオ:優しい妹が。

ロミオ:そう、年齢だったら優しい妹。でも妹では駄目だ。妹では満たされないものが、世の中には沢山あって、僕達いつもさ迷い歩き、家族だけでは生きていけない。そんな時、血が繋がらないおかげで満たされる精神世界もまたあるのだ。

ベンヴォーリオ:いったい、いつ出会ったんだ。

ロミオ:なんだベンヴォーリオ、知ってるくせに。

ベンヴォーリオ:するとロミオが、目隠しのキューピットはひどい、と叫んでしまった3日前。

ロミオ:そうかもしれない。まあ良いじゃないか。それよりまた乱闘があったそうだね。

ベンヴォーリオ:たった今エスカラス大公が見えて、両家共にお叱りを受けたところだ。

ロミオ:だから親父がいたのか。モンタギューとキャピュレット、似たような歴史を持って、同じような商売をして、共に若者を引き連れた同業者。長年の反目を捨て、協調の握手をしたら、市民からも尊敬され、商売もうまくいき、誰も憎しみ合わずに済むのに、なぜ意味もなく罵(ののし)り合うのだろう。何だか急に馬鹿らしくなってきた。だが啀(いが)み合っている方が、苦しい恋の呪縛よりは、遙かにましなのかも知れない。

ベンヴォーリオ:だから今朝もスズカケの森に?

ロミオ:スズカケの兎はよく跳ねるね。僕もあんな自由に屈託なく飛び跳ねて見たいよ。

ベンヴォーリオ:そろそろ答えてくれよ。一体誰に恋してるんだ。

ロミオ:誰と指すと、その人の名誉に関係するから言えないよ。

ベンヴォーリオ:また判然として証拠の無いことだから、言うとこっちの落ち度になるだって。冗談はやめてくれよ。

ロミオ:失礼。本当は名前を知らないのだ。

ベンヴォーリオ:すると一目見るなりぞっこんいかれちまうという。

ロミオ:そんな言い方はやめてくれよ。そういう時には、一目惚れという台詞(せりふ)でなくちゃ。

ベンヴォーリオ:それは済まない。3日前に一目惚れに出会ったわけか。

ロミオ:そうあれは3日前。ちょうど夕闇のマントを着た夜を迎えるために、太陽神ヘーリオスが手綱(たずな)を引き締める時間だった。僕は橋の欄干にもたれながら、漂う水面(みなも)に不思議な寂しさを感じて、はっとして我に返った瞬間、美しい女神が友達を連れて、そっと微笑みながら近づいてくるのだった。その澄んだ瞳は、幼子のようにあどけなく、美しい笑顔は、咲きたての白百合のように瑞々(みずみず)しかった。そして神々の創りたもう女神が、何の準備もなく、突然現われた時の僕の動揺といったら、胸の高鳴りといったら!

ベンヴォーリオ:ロミオ、ロミオ、しっかりしろ。

ロミオ:彼女は友達を連れていた。森の妖精ほどの価値をもつ友達の魅力も、比類ない神の芸術品に従うことによって、なんと哀れで俗物であったことか!なんとみすぼらしく、取るに足らないものであったことか!

ベンヴォーリオ:分かった、もう分かったから、すこし落ち着け。

ロミオ:失敬な。僕はいつだって沈着冷静だ。

ベンヴォーリオ:そうこなくっちゃロミオじゃない。それで誰だか見当も付かないのか。

ロミオ:そうなんだ。僕はあれ以来、スズカケの兎を見ても心苦しく、面影探してヴェローナをさ迷い歩く始末だ。

ベンヴォーリオ:あてもなく町中を徘徊(はいかい)しているだって。

ロミオ:ああ。

ベンヴォーリオ:大変な情熱だ。すっかり女に打ち負かされて、モンタギューの跡取が聞いて呆れるよ。俺が夢から救い出してやる。

ロミオ:そんなことが出来るものか。

ベンヴォーリオ:大丈夫、「私馬鹿よね」と反省させてやる。そのかわり夢から覚めたら、昼飯(ひるめし)ぐらいはおごってもらうぞ。

ロミオ:馬鹿だなあ、食事ぐらい、いつでもおごってやるよ。さあ行こう、今日は淀見軒(よどみけん)か、それとも花しん亭(かしんてい)か。

ベンヴォーリオ:ここをどこだと思ってるんだ、いつものハイカラ亭でいいよ。

(2人退場。)

《注。グーテンモルゲンはドイツ語で、「おはよう」の意味。》

3.キャピュレットの家

(エスカラス大公の側近貴族であるパリス、キャピュレット、キャピュレット夫人登場。)

キャピュレット夫人:本当にありがとうねえ。パリスさんが大公の館に居てくれて本当によかった。

パリス:いえ、大したことではありません。

キャピュレット:いやいや、大助かりですぞ。あなたが居なかったらいつまで小言にさいなまれていたか。本当にワシは残念でならんのです。大公はご立派で、ヴェローナを統治されている。それはもちろんワシだって尊重しています。しかしワシらは彼が就任する前から、ヴェローナの裏も表も守ってきたのだ。ワシらのおかげで何度ヴェローナの危機が救われたか、あなたにお見せ出来んのが残念でならんのです。それに大公は年齢だってワシから見たら、ほんの「ひよっ子」、そう「ひよっ子」ですぞ。ワシの子供といって構わない若者だ。それが豊かな経験者に対して、犬をお撲(ぶ)ちなさったとはあんまりだ。まさかモンタギューに肩入れをしているのではないか。それは市民達はもう昔のこと、感謝の気持ちなど疾(と)うに忘れて、ワシらを邪魔者扱いするつもりらしいが。

パリス:それはとんでもない誤解です。私達の偉大な大公も、そして市民達もまた、キャピュレット家がヴェローナの名門であることを、誇りにさえ思っているのです。だからこそ都市を守るべき両家が啀(いが)み合い、市井(しせい)の平穏が乱される時、どうして黙っていることが出来るでしょう。

キャピュレット:よくぞ言ってくれた。さすがワシの見込んだ男前だけのことはある。今日はあなたに会えて本当によかった。だがなあ。モンタギューはやはり許せんのだ。憎くて、憎くて、我慢がならんのだ。なぜこうも腹が立つのか。時々鏡に向かって聞いてみるのだが、その度に腸(はらわた)が煮えくり返り、ああ忌々(いまいま)しい、モンタギューはなぜにこうも不愉快なものか。これでも若い頃は力を合わせ、ならず者の傭兵隊長を討ち果たしたこともあったのだが。

パリス:確かその傭兵隊長の首の所有権を巡って、貴様の首ったまを隣りに並べてやると罵(ののし)り合い、たちまち剣を抜いたと聞きました。冷静を重んじる私の鋼(はがね)の心でさえも、その時ばかりは高鳴りを覚えたほどです。

夫人:でもねえパリスさん。両家の啀み合いは、もっと息が長く根が深いのです。ねえ、あなた。

キャピュレット:ワシの親父が生まれるよりずっと前から、両家は殴り合いを繰り返しておった。ワシも子供の頃には子牛を縛り付けて、モンタギュウ虐めをさえしたもんだ。最後にはバーベキューにして、これはたまらなく美味(うま)かった。美味いながらも憎たらしい。憎たらしいが、肉は美味い。もう骨の随から敵(かたき)同士なのだ。

パリス:モンタギュウ虐めですか。さては例の熊虐めを模倣して。エスカラス大公が聞いたらまた小言でしょうね。

キャピュレット:奴は動物愛好家だからな。困った癖だまったく。犬をお撲(ぶ)ちになってはならないだの、羽ばたくハトに平和の極意だのと。

パリス:でも優秀な方です。自分を重んじる私でさえも、彼の仕事には尊敬の念を抱かずにはいられません。

キャピュレット:それはもちろんだとも。ワシは決して悪口を言っているのではない。そこの所を、どうか誤解なさらないで欲しい。

パリス:私はキャピュレット家こそヴェローナを代表すべき名家だと思っているのです。だからこそ、私はお二人に対して、お嬢さんのジュリエットを嫁に欲しい、淑女達の憧れの的である、このパリスの妻になって欲しいと、ああ、自らこの頭を下げて、願い出たのです。

キャピュレット:まったくありがたい話だ。だがなあ。

パリス:このパリスのどこに不足があるのでしょうか。

キャピュレット:あなたの不足ではない。娘の年齢がまだ不足なのだ。

パリス:確か14歳に。

夫人:もうすぐなるのですが、まだ13歳。ほんの子供なんですよ。

パリス:貴族の結婚では珍しいことではありません。

キャピュレット:あれは庶民だからな。

パリス:キャピュレットほどの名門が何を言うのです。

キャピュレット:今夜は我が家(わがや)で久しぶりの舞踏会を開催するのだ。あなたもぜひ参加なさって、ご自分で娘の心を掴んでくださらんか。可愛いジュリエットの頼みとあれば、ワシも幼い娘を手放す踏ん切りもつくかもしれん。

パリス:ではさっそく準備を整え、今夜お伺いしましょう。

キャピュレット:くれぐれも大公によろしく伝えて欲しい。キャピュレットは、従順なヴェローナの盲導犬です、決してどう猛犬ではございませんとな。

パリス:一字一句あやまたずお伝えしましょう。

(パリス退場。)

キャピュレット:ジュリエットはまだ悪戯(いたずら)ばかりしておるが、結婚などはやはり早すぎるのではないか。

夫人:あら、私があなたに嫁いだ年だって、ジュリエットより少し上ぐらいでしたよ。

キャピュレット:そうかもしれんが、あれはワシの一人娘だからな。それにしても名門貴族のパリスさんと血縁関係が出来れば、キャピュレット家は貴族の仲間入り。年齢はともかくこれ以上の結婚話など2度と見つからないかもしれん。お前は舞踏会の前にジュリエットにそれとなく話をしておくのだ。

夫人:そうです、パリスさん以上の人なんて、この世にいるものですか。さっそく知らせてきましょう。

(2人、退場。)

4.ジュリエットの部屋

(キャピュレット夫人と、ジュリエットの乳母。)

キャピュレット夫人:ばあや、ばあや、ジュリエットを呼んでちょうだい。

ジュリエットの乳母:お呼びしましたよ奥様。元気の良い返事がありました。

キャピュレット夫人:返事だけなの、困った子ねえ。ジュリエット、ジュリエット。

(ジュリエット登場。)

ジュリエット:なあに、お母様。

キャピュレット夫人:なあにではありません。大事な話があるので、わざわざ呼んだというのに。なんです、口紅なんか付けて、お化粧して遊んでたのね。

ジュリエット:遊んでなんかいないわ、私は真剣だもの。

夫人:はいはい、真剣にお化粧して、もうご婦人方の仲間入りがしたいのですか。だったらお願いだから、聞いてちょうだい。

ジュリエット:お母さん、私、アーサー・ブルック先生の授業はちゃんと受けたわ。もうさぼってないわ。

夫人:それは知っています。

ジュリエット:マドンナリリーの白い花びらに、目と鼻を描いたのは、あれは反省しているわ。

夫人:それももう聞きました。

ジュリエット:それじゃあ今朝、景徳鎮(けいとくちん)の磁器でカッフェをいただいたことを。《注下》

夫人:なんですって!あれがどんなに高価なものか分かってるのですか。まったくそんな話は初耳です。ちょっと、この耳に言って聞かせないと分からないようですね。

(夫人、ジュリエットの耳をつまむ。)

ジュリエット:痛い、痛い。お母さん、耳が、耳がもげちゃうわ。

夫人:もう、話が分からなくなったではありませんか。今日はお説教のために呼んだのではありません。もっと大事な話しに来たのです。

ジュリエット:大事なお話?

夫人:ばあや、ジュリエットも良い年齢になったでしょう。

乳母:もちろんですとも。もっとも素敵なお年頃でございます。

夫人:もうすぐ14歳の誕生日が聞えてはきませんか。

乳母:はい奥様、全く正確でございます。もうすぐ14年目の収穫祭。収穫祭の一日が終わり、星達が降り注ぐ頃には、お嬢様は乙女の花開く14歳を向かえるのでございます。

夫人:そうでした。収穫祭といえば、あの大地震があったのも収穫祭の日だったねえ。

乳母:ああ、喜びも悲しみも、11年前の大地震。私の大切な一人娘のスーザン、お嬢様と同じ年でございました。お嬢様とは仲がとてもよくって。そして私の素敵な髭モジャの亭主、私より2つ上でございました。主よ永遠のご慈悲を2人に与えたまえ。あの大地震は、私の幸せを2つも奪っていったんでございます。ああ、でもお嬢様にとっては喜ばしい日、だってお嬢様はあの日乳離れをなさったんでございますもの。

夫人:もう何度も聞いています。お乳にニガヨモギを塗って、ジュリエットに舐めさせたのでしょう。

乳母:お嬢様ったら、私のおっぱいをいつものように含んで、そうしたらニガヨモギが塗ってあるんですもの。さぞ驚いたんでございましょう、目をまん丸くして、それから急に怒り出して、私の胸に食ってかかったんでございますよ。どんどんどん。この辺りをどんどんどんって。そうしてあの日お嬢様は乳離れをなさった。

夫人:それから大地震がやってくるのでしょう。

乳母:そうでございます。地面が突然揺れだして。

夫人:もういいわ、大地震は終わりにして。私は昔話をするためにジュリエットを呼んだのではありません。未来の話をするために、わざわざお前を呼んだのです。

ジュリエット:未来の話ってなんです。

乳母:ああ、お嫁入りの話でございますよ。

夫人:そういう時だけは察しがいいね。ジュリエット、お前ももうすぐ14歳。結婚のことについて、考えたことぐらいあるでしょう。

ジュリエット:そんな夢の先にあることを言われても。

乳母:まったく夢の先ですわ。私にも経験がございます。

夫人:ばあや、話を折らないでちょうだい。ジュリエット、貴族達の婚礼では花嫁がお前ぐらいの年齢であることは、決して珍しくありません。

ジュリエット:私は貴族じゃないわ。

夫人:貴族のお嫁さんになるとしたらどうかしら。

ジュリエット:どなたの家に。

夫人:パリスさんですよ。あの若手貴族の中でも、最も大公の覚えめでたい出世頭。おまけに顔も素敵だし、知性も人一倍優れているそうじゃありませんか。そのパリスさんが、わざわざ頭を下げてお前を嫁に欲しいと、深々と頭を下げて頼むのです。どうです、夢のようなすばらしい話。

乳母:なんてすばらしい。お嬢様、お嬢様、パリス様と言ったら、あらゆる淑女達の憧れの的でございます。それがお嬢様をお選びなさった。

ジュリエット:ばあやが結婚したら。

夫人:馬鹿をおっしゃい。こんなしわくちゃの使い古し。

乳母:それはあんまりでございます。

夫人:とにかくジュリエットお前はどうなの。

ジュリエット:あまり急なので。

夫人:いいわ。ゆっくり考えなさい。今夜の舞踏会にはパリスさんも出席します。手を取り合ってダンスを踊ってみれば、瞳の奥に恋人が潜んでいるかどうか、すぐに分かってしまうものです。

ジュリエット:もし恋人がいなかったら?

夫人:ジュリエット、お父様ももういい年です。お父様はエスカラス大公からお叱りを受けて、すっかり落ち込んでいらっしゃいます。もしお前がパリスさんと結婚して、大公に信頼される貴族の血縁となったらどうでしょう。

ジュリエット:分かったわお母さま。恋を夢見て出会ってみるわ。でも、勝手に決めてしまうのはいや。

夫人:もちろん会ってからですよ。心配しないで、ほらお化粧の続きをしていらっしゃい。今日は手伝わなくていいから。ばあや、お前は舞踏会の準備をお願い。

乳母:はい奥様。今夜が楽しみでございます。私はなんだか、自分のことのように胸がどんどん、このあたりがどんどんどんって高鳴りますわ。

(夫人と乳母、退場。)

ジュリエット:ひどいわ。私、生け贄にされちゃうのかしら。暖かな部屋に沢山の食事、毎日なでられ育ってみたら、可哀想な牛さん今日は楽しい日、今日はあなたの首切る日。愛だと思った優しい仕草、生け贄作る儀式だったなんて。牛さん頭をぽかりとやられて、首をすっぱり切断されて、知らないあいだに食卓に並んじゃう。ひどいわ。残酷だわ。でもパリスってどんな人かしら。顔が全然浮かばない。もし私の心を奪い去る、魂の救い主だったら。でも駄目よ、私はこのあいだ会ってしまった。たった一人の恋人に出会ってしまったもの。美しい橋の上で、あの人は物思いに耽(ふけ)っていた。水面(みなも)を眺める素敵なシルエット、まるで自分の凛々(りり)しさに気付かない少年のようだった。そして彼は振り向いて、ビードロのような瞳に私は吸込まれてしまう。ああ、ジュリエット、どうしちゃったのかしら。話したこともない、名前も知らない、ただすれ違っただけで、こんな気持ちになってしまうなんて。落ち着かなくては。これからパリスという人に会って、お母様とお父様の気に障らないように、丁寧な挨拶を差し上げて、でも私の胸の中は、橋の上の王子様で心一杯、きっと上の空だわ。

(ジュリエット退場。)

《注意.実際はコーヒーがヨーロッパに流入して、コーヒーハウスなどが出来るのは17世紀。》

5.夜の街路

(松明をかざして進むバルサザーの後ろに、ロミオ、ベンヴォーリオ、そして貴族のマキューシオ登場。)

ロミオ:おいマキューシオ、なんで僕がキャピュレット家の舞踏会に行かなきゃならないんだ。

マキューシオ:それは貴族であるマキューシオの元に、招待状が届いたからだ。

ロミオ:僕達には来ていない。

マキューシオ:大丈夫、ヴェローナでは仇(かたき)の舞踏会でもよろしく出席できるのだ。

ロミオ:そんなことを聞いてるんじゃない。

マキューシオ:ロミオ、ベンヴォーリオから話は聞いたぞ。

ロミオ:何の話を。

マキューシオ:橋の女が恋しいって。

ロミオ:ベンヴォーリオは口が軽いなあ。

マキューシオ:ロミオ、水くさいじゃないか。俺達は親友同士じゃなかったのか。

ロミオ:そうだっけ。

マキューシオ:だから俺達が片思いの相手を探してやろうというのだ。

ロミオ:そんなことだろうと思った。正装して黙って付いてこいと言うから、怪しいと思ったんだ。

ベンヴォーリオ:いい考えが浮かんだんだ。ロミオは言ったじゃないか。一目惚れの相手を知らないって。でもあんな美しい女神はいないって。

ロミオ:それは、そう言ったけど。

ベンヴォーリオ:そんなに美しい女性なら、貴族の娘か裕福な家の淑女(しゅくじょ)に違いない。

ロミオ:当然だ。あんな上品な身のこなしは見たことがなかった。でもあれが貴族だろうか、貴族の気品は習って覚えるものだが、彼女の当たり前の仕草は、神々の使うマナーそのものだった。そうだ、貴族を越えて、教皇も越えて、彼女はもはや神々の領域に。

マキューシオ:ロミオ、すこしは真面目になれ。

ロミオ:失敬な、僕はいつでも真剣だ。

ベンヴォーリオ:とにかくそんな気高い女性なら、キャピュレット家の舞踏会に来るかも知れないじゃないか。

ロミオ:そんなうまい話があるだろうか。

マキューシオ:町中を徘徊(はいかい)するよりは、確率が高いはずだ。

ロミオ:それで僕を仇(かたき)の舞踏会に誘うのか。まあ家にいても、苦しいばかりだ、お前達に付き合ってやるか。

ベンヴォーリオ:そうこなくっちゃ。それにキャピュレットの舞踏会に出るなんて、武勇伝みたいで面白いじゃないか。

ロミオ:頼むから争いだけはやめてくれよ。

ベンヴォーリオ:大丈夫さ、俺はおとなしい性格だから。

ロミオ:それは初耳だ。それにしてもマキューシオ君。貴族に出された招待状でモンタギューなんかひき連れて、礼儀作法に問題はないんですか。

マキューシオ:貴族貴族と言わんでくれ。下らない肩書きのために、マナー尽くしの毎日に縛られてるんだ。優れた牛肉の取り分け方だの、名門秘伝のワインの嗜(たしなみ)みだの、朝から晩までお説教。挙げ句の果てに夜の女王は身元確認をしてから服を脱がせろだと、ふざけちゃいけない。そんな我慢が出来るものか。

ベンヴォーリオ:それは貴族の事情ではなく、マキューシオ君の家庭の事情だと思うけど。

マキューシオ:とにかく、マキューシオは親の意向なんてまっぴらだ。今夜はお前達と一緒に舞踏会に殴り込み、いや躍り込みを掛けてやるんだ。

ベンヴォーリオ:それじゃあまた勝負だな。

マキューシオ:もちろん。

ベンヴォーリオ:俺にはすらりと伸びた背と優れたルックスがある。

マキューシオ:生意気を言うな。俺には貴族の肩書きがある。

ベンヴォーリオ:なんだ、やっぱり肩書きを出すんじゃないか。

マキューシオ:だってそうでもしなきゃお前に勝てないじゃないか。

ロミオ:2人ともせいぜい頑張ってくれ、僕が松明を持って舞踏会を照らしてやるから、踊りながら女神を探したらいい。

ベンヴォーリオ:馬鹿を言うな。誰のために出陣したと思ってるんだ。

マキューシオ:そうだそうだ。恋人が居るかも知れないのに心を閉ざすなんて。先輩役のマキューシオが踊らせてやる。

ロミオ:駄目だ。お前達のつま先は軽いけど、僕の心は鉛より重いんだ。

マキューシオ:情けないことを言うな。恋に破れたわけでもないのに、憧れ高じて踊れませんなんて、今時小学生だって吐けない台詞だ。キューピットの羽根を借りて、こう、もそっと勢いよく、すぱっと舞い上がれ。

ロミオ:そのキューピットの矢に当たって、傷を負ってしまったのさ。心淋しく煩って、思いの丈が伸びるほど、体はますます重くなる。こうして夜の大気に触れていると、楽しみや希望も遠く手を振って、僕はそれを対岸から眺めているような気持ちだ。僕は灯台のようにお前達を見守っているよ。それに今朝(けさ)の夢が気になって落ち着かないんだ。

ベンヴォーリオ:はは。写実主義で通してきたロミオが、夢を心配するなんて、これは初耳だ。なあマキューシオ。

マキューシオ:さてはマブ女王と一緒に寝たんだろう。あらゆる夢の総元締め、手下を使って夢を操る夜の女王と。

(マキューシオ歌いだす。)


夢の精霊束ねる夜に 女王マブが舞い降りる
ノミより小さい数百万の 眠りの粉(こな)が降り注ぐ
灯りも静か星降る頃に ベットにそっとしのぶなら
ラララあなたに届ける夢を 夜(よ)が明けるまで歌いましょう

(ベンヴォーリオ、ロミオも加わる。)


想いのあの子に焦(こ)がれて眠る 若者達には恋の夢
政治の参加を憧れ願う 貴族達には世辞の夢
人を出し抜き阿漕(あこぎ)に渡る 商人達には金の夢
唇さみしと恋しく笑う 乙女達にはキスの夢


私の招きを断る者は 目覚めたままの幻覚を
私の言葉を罵(ののし)る者は 呪いの悪夢を届けよう
ラララあなたに届ける夢を 星降る拍子(ひょうし)に合わせるように
ラララあなたに届ける夢を 夜が明けるまで歌いましょう


マキューシオ:どうだ、すっかり楽しくなってきただろう。

ロミオ:マブ女王は本当に居るのだろうか。僕の見た夢では、今夜の宴会が終わる頃、喜びが津波のように僕を飲み込んで、でもその歓喜はあまりにも溢(あふ)れ過ぎて、嵐の晩の濁流のように僕を押し流す。その勢いは駆ける馬を越え、羽ばたく鳥達を追い抜き、時間さえも置き去りにして、やがて太陽の光さえも遮られ、喜びが苦しみに変わる頃、僕は星の導きすら届かない、静かな黄泉の国の楽園に辿り着いて、渡し守カロンの横を流れて行く。そして最後には嘆きの川コーキュートスに流れ込むんだ。その時水は青白く輝いて、黄泉の草原に一斉に白い花が咲いた。ああ、あの夢を思い出すとなんだかそわそわする。

マキューシオ:ロミオ、マキューシオにはそれは嬉しい夢に思えるぜ。

ロミオ:どうして。

ベンヴォーリオ:それは恋愛が成就して、結ばれて解消されるという正夢かもしれない。

マキューシオ:黄泉の国にも花咲かせましょう。幸せが成就する夢に違いない。

ロミオ:ちぇっ、お前達は脳天気でいいな。とにかく僕も踊ればいいんだろ。

2人:そうこなくっちゃ。

(全員退場。第1幕終了。)

2007/01/14
2007/01/19改訂

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