正確な日付はもう忘れたが1564年には違いない｡イギリス国教会を成立させたヘンリー8世（在位1509-1547)亡き後、カトリックと国教会を揺れ動いた王室にエリザベス1世(在位1558-1603)が登場してからほんの6年が過ぎたある日｡フランスとスペインという強国の力から逃れるための力をイギリスがようやく手にし始めた頃。一人の男がストラットフォード・アポン・エイボンに生を受けた｡4月23日であったかどうかはともかく、喜んだ父親ジョンは革製品の販売だけでは飽き足らずついに市長になるほどの喜びよう。母も喜びのあまり自分の息子を古典文法の要ラテン語とラテン文学により一流の知識人としようともくろみ、ウィリアムをグラマースクールに入れたことだろう｡いずれ多くの情報のない今となっては劇作家以前の彼について確かに言えるのは一つだけ､1582年に8歳か9歳も年上のアン・ハサウェイと結婚したぐらい。
劇作家のしての彼はまず1592年に非難の言葉を残して亡くなった作家、ロバート・グリーンによる劇場人シェイクスピアに対する恨みつらみをもって始まる｡おそらくこの年までに地元に家族を残してロンドンで劇団に加わっていたのだろう｡劇は下手だが台本は一流というキャッチフレーズからも、早くから事実上の劇作家となっていたに違いない｡現に1594年に国王の指導のもとに始まった一座に幹部として名を連ねているのが分かる｡幕など存在しない張り出し舞台は彼らの劇場「グローブ座」も1598,99頃には完成｡常設劇場の設置は16世紀になってようやく本格化したもの。この後すぐにオペラに主役の座を奪われる演劇の短い夏の時代｡では、ウィリアム・シェイクスピアの驚くほど大雑把な代表作を幾つか｡（あくまで､ある学者の推定｡詳しくは別のサイトで調べてくださいな｡）
・歴史を明らかにする事と劇である事が結びついた史劇の時代に始まり、比較的喜劇の多い文字通りの喜劇の時代へと入っていく｡
1590-92頃「ヘンリー6世三部作」（史劇）
1592「リチャード3世」（史劇）
1593-96「ロミオとジュリエット」（悲劇）(最近1596年説が人気？)
1595-96「真夏の夜の夢」（喜劇）
1596-97「ヴェニスの商人」（喜劇）
1597-98「ヘンリー4世二部作」（史劇）
1599-1600「ジュリアス・シーザー」（悲劇）「十二夜」（喜劇）
・大体1593頃から96頃にかけて書かれた「ソネット集」という詩集がこの間に挟まって､1599,1600頃から悲劇の時代に入る｡（本人の希望で次の時代に移行する訳ではないが｡）人の暗い内面をえぐり出そうとする作風が生まれた理由をとある本から抜粋すれば｡
(1)ソネット集の最後の一連の詩の相手「ダーク・レディ」との失恋｡または事件｡
(2)父親の死
(3)モンテーニュを読んで懐疑に目覚めた
(4)社会情勢が1588年にスペインの艦隊を破った頃の明るさを忘れ、1603年には親愛なる女王までも亡くなられてしまうなど暗みを帯びてきたから｡（‥‥念のために、抜粋した本ではこんな書き方はされていません｡）
1600-01「ハムレット」（四大悲劇）
1604-05「オセロ」（四大悲劇）
1605-06「リア王」（四大悲劇）マクベス（四大悲劇）
1606-07「アントニーとクレオパトラ」（悲劇）
・晩年の喜劇群はロマンス劇と言われる
1610-11「冬物語」（喜劇）
1611-12「テンペスト（あらし）」（喜劇）
1612-13「ヘンリー8世」（史劇）
豊かな余生を送るためか、劇場界の転換期を見て取ったかは分からない。1610頃には生まれ故郷の町に引退し、徐々に演劇界との関係を断っていったらしい。大きな邸宅に住まいながら、誰もが羨む余生を楽しんだ｡その人柄はロバート・グリーンの愚痴を除けば「上品」「優しい人」「正直な人」「正義の人」と出来すぎた形容詞が並んでいる｡1623年になると初めての全集と言えるもの、今日では第一フォリオ版と言われるものが出版までされた。ざっとそんな所｡
やあ、ワンポイントのジョスカンだよ。みんな元気でやっているかい。今日はＷ・シェイクスピア（１５６４～１６１６）の年号の覚え方さ｡「以後無視（１５６４）される事なく､いろいろ（１６１６）な国で読み次がれる｡偉大な劇作家ウィリアム・シェイクスピア。」それじゃあまた｡
2002年春