《ある失業詩人の歌》 「それな歌心」 誰をか憾むすべもなく 身のいたずらの哀しくて 仕事を追われた負け犬の まどろむ宵の歌ごころ さりとて経緯を記すとき 蛇足の叙述を最果ての 詩情の域を踏み外し 陥りくらむ徒労なら せめても今は捨てられし 戻るすべなき悲しみの 途方に暮れる面接と 腹減りくらいを歌おうか 「価格競争賛歌」 [一] リンゴジュース一杯の心で昼をしのび 夕暮れに落ち延びてようやく食べれるときの ちどりの目まいがてらにさ迷うあんよみたいな 栄養失調のふらふらふわふわとした感触が 近頃なんだか蛍雪(けいせつ)の肩を並べた 馴染みのマブダチの凛々しき姿にさえ 思われてならないくらいです [二] お札が自販におさらばするときの ちょっと待ちたまえ君、どこへ去るつもりか 置いていかれては切ないではないか それな恋人に捨てられ間際の 別離のもの思いにも寄り添う淋しさと 丼ぶり物にありつけるありがたみ 混合洋式のカクテールでもってして はやり歌みたいに文芸復興の 旗印にはなりやしまいか、君 思いがてらに千円札の 消えゆく先を見守るわたくし 点灯ランプは思う存分ひかるけど 明日は明日の風が吹くなんてのは 甘ったれの学生の台詞だから 明日も風なんか吹かないぜ、君 だからちゃんと計画性を持って 五百円を超えないようにしなければ 明日の食べれもんがなくなっちまうじゃないか [三] 毎日深夜は五袋百九十八円 ラーメンがお得なもやしと戯れて 幸せのひと泳ぎをワカメさえもが参加して ビタミンチックに喉もと過ぎるよ それのみ食事じゃ、いくらなんでも 生きていかれぬ侘びしさ溢れて こうしでいつものこの店に のこのこ出かけて来たものの やっこさん、熾烈な価格競争さなか いい気味ながらに、こちとら有り難いこと 年中破格のお値段が、あり続けるはこれ幸い でなけば今ごろ閑古鳥、誰も店まで入らんぜ 脅しをしつつ、金欠亡者の救世主よ 十字を掲げて、せいぜい危機感持って励みたまえ 玉子をぱかっと、生姜の紅と 牛より豚のが、安けりゃ大盛り 奮発するなら、野菜のセットは ちょいっと財布と、相談相談 労働者どもの憧れは、これなご飯も牛丼屋 けなげな今宵の我ひとり、仕事の文字さえ脱落だ 面接さえも連敗の、泣く子も黙る侘びしさに 堪えかねつつも、このいのち 消えちまったら、あんまりだ だからよく聞け牛丼屋 価格競争が、俺たちの明日を守るのだ 守れなかったら、優しい俺だって かの面接者どもを、口に出すのは控えるが 順にまわって、安息の修羅場送りと手を振って 最後は自害を果たすしか、路が無くなってしまうわい だから励めや牛丼屋 こうして、ひとくち、入れただけで ああ、目まいが遠のいて、ほっと安堵の夕まぐれ 生きる意味が、よみがえる あやしい怒りも、そっと、遠のく だって、俺は、本来が善良なんだ なんで、善良なのに、こんな毎日を 送っているのか、分からないけど 牛丼屋、お前が見捨てない限り 一日一食でさえも、お前のほほ笑みを 思い出しては、我慢しようではないか ああ、これな、生活の、惨めに籠もる、不可解な ふわふわしたような、空腹のめまいやら ひとくち入れたときの、喜びのことなんか ニワトリどもには、分かるまい、分かるまい これでも、結構、幸せの 路傍の石ころの、わずか一粒くらい 確かに、転げ落ちているものなのさ 確かに、転げ落ちているものなのさ [四] 帰りましょう、帰りましょう 近くでコーヒー飲みたいけれど お金がないから、帰りましょう 不思議なくらい、おなかが満たされると 首さえ起き直ったら、雲の合間からふっと 三日月、三日月、夕暮れの、ぶっきらぼう ああ、幼い頃は、もっと美味しいものを 食べていたような、気もするのだけれど…… まあいっか、とりあえず今日は満腹だ 「キャッシングコーナー」 臆病者のこころの麻痺を お知らせするのもなんだけど 始めの十万を落とせたら 後はいくらでも落ちるわい 失業保険のおぎないを つけるがための凌ぎさえ 癖ともならずただいのち 繋ぐがゆえの措置なのさ 重ね重ねの後始末 いつか修羅場と思うけど 今さらもどれぬ引き出しの 額こそ今日も重ねてた たとえばある日は税金の 逃れるすべもあろうかと 悩みの果てに払ったら 数万円のひとっ飛び 健康保険も支出して 年金だけは無理そうで 二年以内は追納と 信じて逃れて見たけれど 免除の手配をするでなく ただただ払わぬ月日さえ 後になっては恨めしく 思える時もあるだろか されども今さりながら まもるは日々の生活で いのちを繋ぐ明日こそ 急務の次第に違いなく 未来のかなたを夢見ても 明日のいのちは報われず その累積に朽ち果てた 破産もあろうと思うけど だからとはいえ今はなお 未来に払う金はなく ただ明日生ききる生活に お金をおろしに参るのだ おまけにほんのひと時と ずるずる借りたものだから ローンで借りるわけもなく ただただ恐怖のリボ払い 計算したら、莫大な とはいえ、それなら、相応な しぶしぶ利子の支払いを なげく元金の余分さえ いつかは払うと信じても いつまで仕事は見つからず いつかはお陀仏、命日の お花をかかげる、首っ玉 砂から満ち潮、お首のみ それな恐怖の、終末を お波のせまる、夕暮れに 眺めるくらいの、体たらく されでも今わのこのいのち お札一枚に長らえば いつかはきっと、舞のぼる 羽ばたき鳥の、夢を見つ 信じて今日もまた少し 諭吉を引き出す万札の 立派な顔してかどわかす 借りろ借りろと囃してた 「荒野の食品スーパーへ」 食品スーパーの荒野よ 労働力をむさぼる生ゴミ企業よ 時代錯誤の利潤装置よ 下劣のこころを返上しようよ 僕が面接に出かけたとき お前は言ったね各種保険が 支払いたくないから長時間は 雇用させないって確かに言ったね お前のサイトを眺めると 荒野のスーパーよ、各種保険を 認めるうえに、やがては社員への 登用さえも記しているのに つまりはそれは卑劣の建前で 本音は、他の店でも軒並み 短時間に切り替えているとか 長時間は雇わないとか 荒野のスーパーの面接官 狐狸の姿で、べらべらと 二十時間以下がベストさとと 言い放ったのは、大したものさ 名前を挙げたっていいけどね だけどこいつは指示を無頓着に 信じることを職務大事と 信じる鶏に、過ぎないからね かつて賃金減らそうと、阿漕を立ち回って さんざん正社員を減らしたあげく、まだもの足りず 今度は、非正規の保険分担さえ避けようと 短時間を大量にシフトで回して 安い労働力で乗り切ろうっていうんだね そうやって、安い労働力、安い賃金で 国民が総体に、貧困を極めたあかつきには お金を払ってくれるはずのお客さんはどこに いるっていうのさ、荒野のスーパーよ 企業と家計はね、相互に成り立っているんだよ 家計が崩壊すれば、最終的には、企業だって 崩壊するんだよ、そんなことも知らないの、ねえ それとも、自分たちだけが、ずるがしこく 社会の分担を、逃れようというの、ねえ荒野のスーパー それで一人利潤を確保しちゃうっていうの? だって荒野のスーパーは、はっきり明言したんだ 厚生年金は取らせないって、明言したんだよ 会社の、その方針だって、明言したんだよ でも、それは会社が勝手に考えたものなの? 会社の誰かが、よだれを流して、考え出した 立派な方針だったんじゃあ、なかったの? 企業の方針、企業の方針、それが我が社の 何言ってんのさ、企業の誰かの、方針じゃないのかよ みんなで集まれば、恐くないって訳なの? それな命令は、だから企業が出したんじゃないんだよ 不気味な生き物だね、このヘッポココメディじみた面接官は それが、当然であるばかりでなく 正統さといった表情をして、もう自信満々なのさ この不気味な生き物にとって、企業の前に掲げるべき 人としての、わずかながらの、精神っていうものは まるで存在しないんだね、そうでもなければ そんなに、企業の犬であることを、自信満々に まるで、こっちに諭すみたいに、のうのうと 述べ立てられる訳がないからね、きっと人でなしは 荒野のスーパーの鏡なんだろうね、また今日も一日 人件費を削減いたしました、そうか、それはよくやった 大いに撫でられて、評価も上がって、大満足なんだろうね まるでゴミ屑じゃないの、人件費を削ったって、それは要するに 人を削ったってことに、なるじゃないの、他人を削って 自分サイコー、なんだこのコメディーのお面みたいな 素っ頓狂なお目々は、愛くるしい、自分格好良すぎる そうやって、鏡を見つめながら、今日も叫んじゃったの? それはきっと、人でなしの表情なんだ、よく覚えておくんだね 人の顔とは、大切な何かが、違っていると、思うけどなあ それにしても、荒野のスーパーよ、お前たち企業は とても二十一世紀とは思えない、時代錯誤の後進性を まるで学校の勉強すら不要であると思わせるくらいの 稚拙の精神をお尻丸だしにして、この二十一世紀にもなって この国にはまだ、君臨し続けたことを、僕は歌い残そうと思うよ この国にはまだ、君臨し続けたことを、僕は歌い残そうと思うよ 「こんなにおなかがすいているのに」 こんなにおなかがすいているのに コンビニは食べれる弁当を捨てている こんなにおなかがすいているのに 貧しく食べて必死に生き抜いてるのに コンビニは食べれる野菜を廃棄してる スーパーのゴミ箱は野菜ごろごろ 総菜が翌日の期限のままに投げ込まれ こんなにおなかがすいているのに それを拾って食べることさえ出来ない そのまま収集車で押しつぶしちまうんだ あんなに元気そうなお魚が あんなに生き生きした牛肉が 夕市で残された立派な大根が おいしくいただける果物のパックが みんなみんな袋に詰め込まれて 虚しくこの世から消されてしまう 俺がこんなにもおなかをすかせているのに それな社会があってたまるか それな残忍な社会があってたまるか 待て、なんだその目は、人を軽蔑しきった 乞食みたいに、侮蔑(ぶべつ)するような 軽蔑の眼差しで、憐憫(れんびん)を垂れる瞳はなんだ ちきしょう、いいか、お前たち、能力の差じゃね こんな働けるのに、分厚い壁を作って どうして俺を殺そうと、していやがる ハローワークの無能野郎 せめて失業中のカードでも配って これで廃棄すべきお弁当やら 野菜やら総菜やらを自己責任で 貰える法律でも即座に作ってみせろ どだいこのスーパーやらコンビニの 平然たる職員やらアルバイトは それら野菜やら殺され動物やらの 怒りや恨みの言葉ひとつも知る由なくて 農家の皆さんが飼料を撒いたり 天候に怯えながら必死に栽培した 最愛の結晶のひとかけらくらいを 余ったからってゴミ箱にぽいだ ぽいぽいぽいぽいのぽいだ それな投げ入れ権がいったいお前たちに 存するって誰が認めてんだ、おいてめえら それがエコロジーの最先端の、先進国の行いか 恥ずかしくないか、コンビニ、スーパー なにがCO2の削減いたしますだ もっとすることが沢山あるのに パフォーマンスにリードできるところだけ 選別しておやりなさるなだ こんなにおなかがすいているのに こんなにおなかがすいている人がいるのに 余ったものすら、ゴミ箱にぽいぽいぽいぽい 投げ入れて蓋をして、それでもって すいている人には、一切分け与えないのであるか 捨てるより誰かの、栄養になった方が ぽいぽいされた報われない、食べれものにしたって どれほど幸せだか、行く末はお構いなしか 利潤にならないから、興味も失せたか おい、お前たち、この社会は、不気味であるぞ お前たちの精神は、しこたま歪んでおるぞ それな贅物主義は、その憎むべき精神は ローマ時代の、貴族の贅沢よりもはるかに悪質であるぞ それらの行為は、善良なる社会を食いつぶし もっともっと沢山の、空腹を極めたミイラども 腹減人(はらへりびと)の人だかりをいつの日か その悪徳はきっと、この社会に生みなすことになるぞ そうならないためにだ、今すぐ食べれるものを 我らに開放しろ、なんだと「ら」抜きはいけないだと うるさい、話しを反らすなだ、こっちは食い物がねえんだ 食べれる、は、らがなくたって、食べれるんだ いいから、食べれるものを、よこしやがれ! ああ、めまいがきた つい、叫んだのがいけなかった 余分な、エネルギー、消耗しちゃった まるで、いけてない、いけてない、いけてない すっかり消沈しちゃった、なんだか、ちょっと やばいかも、くらくらする、もうおしゃべりさえ めまいがきた、めまいがきた ああ、駄目だ、今日はもう食べたんだ 後は我慢だ、悪いが、今日はもう退散だ 布団に入って、お休みなさいだ、頼むから その弁当、夢のなかで、分けてくんないかな…… 「三万部の空論」 俺は計算ははなはだ苦手だぞ かけ算と割り算が混じり合うと エックスやらワイやらが投入されると もう頭がパニックに見舞われるぞ 学生の頃はそうでもなかったぞ ずいぶん老化の極みを励んだもんぞ なにしろ、まるで計算なぞ蔑ろにして 長年の、不衛生を、極めちまったからな そんな俺の計算するところだ 浮浪者は一万から二万をうろついて 自殺者は三万の大台だというぞ 人口からすれば雑魚の負け犬だ 誰だ、そんな不届きばかりを叫ぶのは いいか、よく聞いておけ、俺のおつむによればだ 雑魚は魚だ、犬はほ乳類だ、全然別物だ それを一緒にするとは、全然なっておらんぞ いいか、仮に浮浪者と自殺者を合わせた 失業による社会敗退者を認定すればだ ええい、邪魔するな、俺の暫定措置法だ おおよそ三万人以上が、社会からの脱落するぞ いいか、三万は対した数だ、よく聞いておけ たとえば詩集を書店に並べたとからとて 三万部の詩人なんて、ほとんどこの世におらんぞ あの世の詩人だって、名前ばかりが先行だぞ もし脱落者同盟さえ築ければあるいは俺も 三万の購買を、失業者同盟の嘆きの合唱でもって 詩集にしたなら、みんなで支えてくれるから 当然かっさらえるぞ、印税だってかっさらえるんぞ ところがこれは、とんだ手違いだぞ、手違いだぞ 奴らは、失業仲間だから、財布にはもう、一銭たりとも いやまさか、そこまで空じゃ、なんぼ浮浪にしたって ないかもしれないが、俺よりはるかに、先輩だから 購買意欲も、資金さえないぞ、本の一冊なんて 買うくらいなら、明日の食事に生かすぞ、今の俺にしたって 本を買うのを、とことん控えておるぞ、実は本屋にさえ まるで、顔を出しておらんぞ、千円払うなら まだしも、二回分の、価格競争の、外食に ありついてみせるぞ、ありついてみせるんぞ だから、脱落者同盟は、詩集なんか買わんぞ すると、俺の詩集は、誰ひとりにも、読まれぬぞ とほほの、結末を迎えた、脱落者同盟の 偉大なる数を、仮に三万としたところで 完全失業を三〇〇万人としたところで 失業仲間の、百人に一人は、社会から滑り落ちて 消え失せるのは、身に迫る数値だぞ、失業仲間の 二クラスにひとりくらいは、失業社会から ドロップアウトすることは、間違いないぞ それな哀しい末路を、ぶるぶる震えながら、横たわって 冬の寒さは、虚しさばかりが、募る一方だぞ さりとてまだまだ、俺はそうは、なってはやらないぞ 俺の精神は、ぐうたらでは、あるまいぞ、脱落者筆頭は 昔からぐうたらの、専売特許であるぞ、そう信じつつも 信じつつも、もしある時、ほんのわずかに歯車が狂ったら 俺はもう、社会の俺では無くって、ほんの一歩二歩踏み外して すっかり、レールからは脱落して、戻れない橋から、転げ落ちて 流されて、どなどな、涙を流しつつ、いつのまにやら不適格者の 信任されなき者に、陥ってしまうことだって 誰にも、無いとは、いえないんぞ 誰にも、無いとは、いえないんぞ 「業務用スーパー賛歌」 偉いぞ、業務用スーパー どこに何があるか、俺にはさっぱり分からんぞ けれども、安いぞ、一キロの餅なのに 二百円ちょいとは、訳が分からんぞ 納豆だって食べてみたけど それほど、劣るとも思えんぞ 勝利をかかげたブランドの どこぞのスーパーよりごはんだって へばりつくけど真空パック 味はけっして劣らんぞ 価格は優しい仕草して ざっくばらんに食べれたぞ トマトのパックが百円で おつりが来るとは何の価格破壊だ もう他では買わんぞ俺は決して ラーメンだって、勝利をかかげた どこぞのブランドより決して不味いとは ぶっちゃけ思わんぞ、これこそ中間マージンの 無駄の流通弊害を、なくしてしまえばどこもかしこも もし、お手頃価格になるならば この国の肥大しすぎた流通形式の すべてが、間違っておると今こそは 宣言したくなるくらい、安くって けれども、こら、このラーメンの賞味期限が 過ぎ去っているのは、どうしたのことだ それはそれ、まったく、安いとは別問題だぞ ちゃんと、管理しないと、消費者は、後が恐いぞ 激安のビールだって、管理が悪ければ 飲めたもんじゃないけど、ここはひとつ 試しに買ってみようか悩みつつ いまだに手が出せないのは、あの賞味期限のせいだぞ けれども、たいしたもんだ、業務用スーパー おかげで、その辺の半額で、生きていかれるぞ それでも、最低限度しか、買わないから 俺はぜんぜん、店には利益の、寄与はしてないぞ けれども、ここにも、パートの募集がしてあるぞ どこに連絡しても、俺は面接になら出かけるぞ 出かけるけれども、何とも情けない こうやってお客さんで、挨拶されるみたいには うまくいかないぞ、業務用スーパーでは 落ちて気まずくなっては、後が来づらいから 決して雇用の面接なんか、受けにこれないぞ けれどもこのお値段はどうしたことか 汚れだって、期限間近だって、今の俺には へっちゃらだから、きっとまた買いに来るぞ サイチェン、業務用スーパー お前は、きっと、俺の親友になれそうだぞ 今では、お前のことばかり、考えている俺は もはや、お前の唯一の恋人かもしれんぞ もはや、お前の唯一の恋人かもしれんぞ 「面接の歌」 [一] 主よ叶いますなら 腹減り極めたるわたくしの 蹴られ面接の憎しみを 暴言の数々を今のみは ただ空腹の蒙昧として お許しくださいますよう [二] ドラックストア「まだ見ぬ文太」よ 調子に乗るのも大概にせよ なにが営業時間延長のためだ 一律定めの一日五時間 それ以上は不可能でありまして 出来れば週三日で済ませたい お前の顔にははっきりとそのように 書いてあったのを見逃しはしまいぞ お前もやはり健康保険逃れ一途の 策士の表情でにやけておったぞ そういうことは、堂々と記したらいいぞ 面接に来る方の、都合はまるで無視だぞ お前どもはまるで、人を商品みたいに 扱って、扱って、それに気づいていないぞ 接客十年、レジ打ち五年のこの俺を 初めのうちは、しごくいい調子で 雇いそうなくらい、讃えておったのに 週入りの話しが出たらひるがえした 表情の曇りを、俺は見逃さなかったぞ 生活が掛かっていると、困ることでもあるのか シフトを減らせないと、困ることでもあるのか 永続的な労働力とならない、短時間雇用ばかり かき集める仕事内容くらい、お前らの職務は稚拙なのか あるいは、そうでなく、正作業と、使い捨て作業とを区分して 安価な労働力としてのみ、俺たちをバッテリーみたいに扱って わずかな、健康保険の負担すら、避けたい一心なのか それなやり方は、もはやこの国を、滅ぼすぞ、この国を 滅ぼして、滅びたらすぐさま、よその国へ、さよならでは いくら何でも、虫がよすぎるぞ、それは日本企業の 日本企業としての、行くべき指針では、まるでないぞ グローバル企業とか、ほざいている場合ではないぞ それが指針なら、日本人である我ら一同立ちあがって 日本企業を討ち滅ぼして、まだしも結構な、外国の企業を 導入しなければ、我々の生活は改善されないぞ 導入しなければ、我々の生活は改善されないぞ [三] 出版物流通センターよ 書店と問屋を繋ぐ危機的産業よ お前の採用態度は滅茶苦茶であるぞ 雇用者に対して、失礼であるぞ こればっかりは、糾弾ではなく 呆れ果てるぞ、お前はその会社の 暇つぶしでも、しているのか 一週間に、たった二人の社員でもなく 雇用を得るために、新聞広告に 大々的に、掲載は自由にしても 出向く我らの、必死の姿を 鼻をかみながら、花粉症だなんて にやけているばやいではもはや 済まされないぞ、それでたった二人だなんて 目の前で宣言して、それも先週も二人で 今週も二人だとは、まるで面接はお遊びだぞ それなら、先週に四人分、選別すれば 済むところを、お前は、仕事にあぶれた 暇人なのか、ワゴン車を、毎日駅まで出して 先週の資料にだって、今週分の人材くらい 十分あるものを、わざわざガソリン代を消耗して 人ひとり、まるごと、面接の道具に仕立てて 恐らくは、週に百人近くは、面接をこなしつつ たった非正規二人を、選び出す作業は、こちらにとっても 屈辱的な、不愉快にしたところで、お前の作業はまるで 会社の、効率にすら、見あっていないぞ しかも、給料の説明やら、なにやらかやらと 一日中、それな面接で、ついやしているお前は あるいは、その会社の、あぶれものなのか それとも、お偉いので、遊んでおられるのか それは、こっちには、分からないけれども 頼むから、もう、そんな、無意味な、掲載は 止めたがいいぞ、危機的産業よ、お前たちの仕事は 数年のうちに、壊滅を迎えるぞ、その時お前らは 早くも路上に飛び出して、今の俺みたいに かつてのお前の立場の者から、鼻をかみながら面接されて 泣きながら帰っていくことに、なると宣言しておくぞ [四] ネットでお買い物、拾い上げ工場よ ピッキングだとか偉ぶりなさるなだ お前たちなんか、拾い上げ工場で十分だぞ おまけに、外部の派遣まかせだぞ 近頃、工場に電話を入れても まずは、雇っては貰えないぞ なぜなら、どこの工場も 派遣会社におまかせだ これなら、派遣会社は金が貰えるし 工場は、すぐに、雇用調整が利くから なあなあの、もたれ合いでもって 我が世の春を、謳歌しておるぞ だからといって、一斉面接を するなまでは、俺は言わんぞ 言わんがむしろ、週にどれほどの応募者が 押しよせてくるのか、恐ろしいくらい 今日は週の金曜なのに、面接者どもが溢れたぞ だから今は、お前たちに愚痴などはしておれんぞ ただただ、これほどの求職者が群がってきて 巷に溢れきっているならば、それはもう おいそれとは、面接にだって受からんぞ どうするんだ、この俺は、なんの手に職も 身に付けていないのは、肌身の寒さだぞ なんだか、みんな必死な面接を極めているぞ おしゃべりで、自分を認めさせようとしているぞ これなマンパワーには、俺の存在はかすむぞ おまけに、誰もが死ぬまで働けますなんて ほんのわずかの、注文すら雇用に付けないぞ これでは、ますます雇用側が図に乗るぞ ほくほくしながら、我が世の春を謳歌するぞ それでいて、俺ひとりは、大多数のなかに 埋没して、その上、若くもないものだから ピンチに立たされるぞ、今はまだ目の前の 四十路男の、なれの果ての、惨めさではないけれど この男は、いったいどうしたことだ、顔が負けておるぞ 駄目駄目顔になっておるぞ、面接に破れ抜いた証が 今では、全身から、溢れ出しておるぞ、このような もう何十件も、あるいは何百件も、右往左往のあげく 面接を落ちまくっているに、違いないぞお前たち どうするんだ、ここで落とされたら、貯金だって危ないぞ あやうく人生の、敗退者だぞ、しかも、それはまるで 未来に控える、侘びしき、自分の姿かも知れないぞ どうしようかと、俺までびびってしまうぞ すました顔で、涼んではおれないぞ こら、おのぼれ顔して、見下して質問などして 笑っている、お前らにしたって、何かあれば こんな惨めに、誰もがなるほどに、この社会は 一歩踏み外したら、どこにも安全装置が、整備されてないぞ 谷底まで、まっしぐらだぞ、俺にしたところで いつまでも、社会復帰が、叶わないぞ、ああ、どうしよう なんだか、威勢が、衰えてきたぞ、情けなくなって 父ちゃん、涙でそうなくらいに、落ち込んできたぞ…… 目の前の四十路は、工業系の、学校を出ておるぞ 何だか、資格も、持っているぞ、それで面接を 点々としておるぞ、いいか、可能性はふたつだ 本物の無能って事も、世の中には、あるんだぞ だがもっと多いのは、ただ人よりなお、立ち回りだけが うまくいかない、我が国特有の、善良タイプだってあるんだぞ そう言う奴らを、発掘して、育てて、守っておかないと 露出狂ばかり、採用したって、最後の、良心の瞬間に お前たちは、しっぺ返しをくらうぞ、しっぺ返しをくらうぞ けれども、俺たちどうしは、お互いに口を聞くでもなく 恐らくは、もう二度と立ち会わない、虚しい別れをとぼとぼするぞ そうして、明日になったらもう、不採用の連絡は響き渡り その四十男は、心気症のあまり、死んでしまうかも知れないぞ その四十男は、心気症のあまり、死んでしまうかも知れないぞ [五] トロピカルフルーツな居酒屋よ 俺はお前を罵るすべはないぞ 調理場の面接に、調理経験の まるでない奴は、任せられない それは至極もっともで ただ腑に落ちないことが お前とは関係なくひとつあるぞ 掲載欄には、フロアーとキッチンとあって 男女の断りもないくせに、訪れてみたら 勝手に、男子厨房、女子フロアーなどと 出向いた途端に宣言するくらいだったら 電話の時から説明しろ、いくら法律うんぬんが 建前を要求したって、これではまるで 双方にとっての、時間の無駄には過ぎないぞ おまけに、それを愚痴ろうと、したところで 電話先と、面接先が異なっていては 愚痴るすべさえ、今は、なくしたぞ ちきしょうめ、俺に、調理場をやらせてみろ 焼き肉なんて、もう黒こげさ、はっはっは 俺なんかもう………… すっかりしらけ鳥が羽ばたいたぞ もう、歌を歌うのは終わりにするぞ どうせ落ち込むばかりだから終わりにするぞ けれども明日は、また新しい面接だ 俺はいつまでも、受かるまでは受け続けてみせるぞ だって、あの四十路男の末路みたいには ビルから飛び降りたりはして、この世にお別れを 告げるのだけは、避けたいぞ、俺だって生きたいぞ だってちゃんと、心臓が付いておるんだぞ 人なみの脳みそだって、ちゃんと付いておるんだぞ サイコロの目で殺されたんじゃ、あまりにも報われんぞ だから、負けたりはしないんだ、これな社会の 無情の嵐どもめが、この無情の嵐どもめが [六] けっ、言葉遣いが悪いからって 俺が、大学生くらいに思えただなんて それはつまり、お前たちの感性が 乏しく干からびゆくばかりを、まるで成長と 履き違えているだけには違いないぞ 感情を、想起されない言葉のみを 心を動かされなき叙述のみを 新聞なみに、垂れ流した餌ばかり 信任して、思い揺さぶられないような 虚言陳述の言葉にしか、反応できないくらいに お前たちの、感性が、あまりにも乏しいものだから 感性に溢れた、憎まれ人の作品を、いつだって、学者さえもが 若者のための、幼きものだなんて、稚拙な誤認を しては、讃え合っているぞ、干からびた標本を けれども感情を、揺さぶる、歌でなかったら 誠の、欠けらさえない、がらくたの、見てくれの 美しさだったら、それは年齢いかんに関わらずの 偽物の、歌には過ぎないのだって、俺は今ひとり ここに宣言するぞ、金字塔を打ち立ててみせるぞ かようにして、俺が三十路を過ぎつつも、近頃面接における 社員はおろか、パートもアルバイトも、不思議なくらい 年の重さに打ちのめされつつも、懸命に再起を図り けれどもあるいは態度のためか、いやいやきっとそうではなしに お断りされて、お断りされて、お断りされて けれども、それが、俺の人としての資質のせいではないと 少なくとも、ここに記した、歌いつぐべき人物であると お前たちは、認めて、しかるべきだぞ、これほどの真実の 歌を歌える、詩人の魂を、採用もせず、踏みつけにして 餌どもの、虚言一途と信任し、殺しに掛かる、世の中は きっと、間違っていると、今はただ精一杯に 石を讃えることと、人を讃えることは、まるで別のことだと 岩を愛することと、言葉を愛することとは、まるで別のことだと それが同一視せられたとき、面接官は人をものと見なしつつ それが同一視せられたとき、市民は詩人を娯楽と見なしつつ まことの大切なものを踏みにじったとき、この国は滅びると はっきりと、宣言してみせるぞ はっきりと、宣言してみせるぞ 「ハローワーク」 ハローワークよ、俺に並ばせるなよ おい、後ろに立つな、兄さん血を見るぜ へっへっへ、そんな冗談のままに 進んでいったら、もっと恐そうな 連中が、あんなところに、屯しているではないか いいのか、あそこは、通路じゃないのか 誰も注意しないのか、それとも、注意しても無駄なのか おいおい、あっちの方は、もうよれよれじゃないか とにかくいろんな人がいるぞ、ここはもうなんだか 若者も、よれよれも、ちゃっかりものも、精一杯も おいこら、パソコンで検索を、時間以上するな 俺の順番を、のけ者にするな、この初老者めが でもここで、仕事を探しても、なんだか裏目に出るぞ だけど、それについては、国家権力に盾突いて 監禁されて、多喜二のジュニアにされるのは嫌だから 今は黙秘を貫くぞ、卑怯者でも結構だぞ ただ黙秘を貫きながら、失業保険の継続の 要請だってちゃんとしてみせるぞ おい、いいのか、見るからに失業を楽しんでいやがる 変な若者が、あちこち、ちゃらちゃらしているぞ くそ、こっちは、職さえ見つからないのに 奴は見つける気すら、なさそうじゃないか 俺は、くーんと負け犬の鳴き声をして 人生に、あっぷあっぷ、しているのに それにしても、あの通路の汚らしい連中は あそこは、たまり場ではないんじゃないか 誰か注意しないのか、けれどもなんだか ひとり、ざくざく刺しそうなくらい凶悪の 生まれた顔から、犯罪者みたいな極悪が 奥から、なんだかこっちを睨んでおるぞ 目をつけられたら、どえらいことになるぞ 今は失業保険の、給付の申請をして とっとと、ここを逃れるぞ、逃れきってみせるぞ けれども、俺には財布の中身も すっからかんに、取るものなしさ けれども、俺には財布の中身も すっからかんに、取るものなしさ ああ、それにしても、新しい靴が欲しいなあ ああ、それにしても、新しいズボンも履きたいなあ 「おなかすいた」 おなかすいたおなかすいた れすとおらんの窓枠に 幸せそうな同年代の 屈託のない笑顔がびっしり くそ、そんなこと、どうでもいいこった どうでもいいこったけど なんで同じ世代なのに 奴らは美味しそうな表情で こっちはおなかすいたままなのか これな定理はカントも解けまい 目眩がしつつもてくてく歩く 街のあかりは宵の喧噪ばかり ああ、腹に響いてこだまするのさ なにが悪いほどのことさえなくて ある時、歯車がわずかにぶれたのさ ぶれて、職場から放り出されたら もうなにがあっても、どう足掻いても 面接にすら弾き飛ばされの連続で ある時は、はきはき答えたら 採用しそうな、興味津々の様子に 答えておきながらも、はい残念賞 出口はあちら、またどうぞなどと なぶり者にして、あざ笑っていやがる 短い採用すらすべからくお断りされて なみだ目に、家路へとぼとぼ人の おなかだって、すいてばかりなのさ それほどあいつらとの造りに 違いなんかないとは思うけど ただ歯車のせいだと思うけど あんまり惨めに落とされては なんだかちからが出せないや 礼儀正しく、年相応の口調なんて この、情感なくした、干からびどもめ 誠の言葉は、感情の赴くままに 正真正銘の、本質を突くからには おなかがすいたらおなかがすいたで それ以外の、表現なんかあってたまるか ああ、街ゆく人が避けゆくような 服さえたそがれよれよれじみて 落ちぶれ姿のくたびれ儲け 賃金あらずに心労増えるよ 誰もの瞳の軽蔑満たして いやいや、さすがに被害妄想 だけど気になるひと目の姿 きゃんきゃん吠える、力も出ない 社会のはざまに、すっぽりはまった それな恐ろしさに、ぞっとなるのさ ああ、それはそれ、それながら もう絶望なんてどうでもいい とにかく、おなかがすいたのだ すいたったら、すいたのだ 一日一膳、倹約を旨とか それな暴言許しておくか 一膳くらいの毎週、毎月 続くがうちに栄養だって 足らずて回る頭のなかを 心も体もふわふわするぞ くらくらめまいが、するような気分は それな奴らに分かってたまるか 時折質素の食事としても 調子に乗って、暴言履くな 鉄分足らずだ、亜鉛が不足だ おなかすいた、おなかすいた 生まれてくる意味は、おなかすかぬよう 誤魔化しつけて、たらふく食べて 呆けてはまた、味見する ただそれだけの、ものかしら 学校の先生とやらが、プロレタリアの 産業革命の、遠い昔の、今は精算された おなかいっぱいならざるいにしえの 過ぎ去りし日の、セレナードのことを みじめみじめと唄ってみても 韻を踏んだら、おなかも空いてくる くらくら、しながら、喜ばしいんだか 哀しいんだか、おなかすいたってのは やけのやんぱちの感情放棄みたいなもんだから 悔しいとか、歯を食いしばっている奴らは おなかの空いてないから思えるこころだ ハムレットはきっと、食べたい放題だったのさ 食べたい放題だから、口がなめらかにまわるのさ なにが、哲学だ、おなかがすいているときに そんな言葉が出てくるものか 甘ったれるな、ガキのくせに なにが生きるか死ぬかだ 生きるにきまってんじゃねえか お調子者の馬鹿野郎! ああ、ふらふらだ、叫んだりしちゃ駄目だ めまいだ、めまいだ、めまいのワルツだ ああ、それにしても、同年代が れすとおらんで美味しそうなのは これに、無差別に復讐してならんのか そんな思い詰めたって、復讐にしたってなおさら 腹が減りすぎたら、とてもじゃないけど出来ないよ いやいや、まだまだ、へっちゃらだ こうやって、てくてく歩いてみせるのさ 歩く先には、とりあえず今日一日は 黄色いハンカチがぶら下がっているには違いない だって、本日の丼ぶり代はなんとか ほら、このお財布のなかにちゃっかり かといってお札ほどでもないけれど 明日は明日でおぼつかないけれど ちゃんと確保してあったのさ それにしたっても、大変だ ハローワークもなんのその もうすぐ、給付も尽きちまう どうなっているんだ、世の中は 俺は、こんなにも、働きたいのに れすとおらんは、幸せ者で一杯だ 毎度面接を落とされ続け、実はもう借金だって 五十万円を数えちゃった、とほほの借金生活さ だって、収入がないんだぜ、なんだか、無様じゃねえか みんな百万とか二百万とか、よく大金が借りられるもんだ 随分おっかねえ橋を、へっちゃらに渡れるもんだ 職を得たとして日々の生活を、稼ぎながら返済したって 五十万円くらいの、返済だって、アルバイトにすら 雇われなくっちゃ、返せないんだぜ、はは、こりゃまたおかしいや いやいや、笑っておる、ばやいでは、なかろうよ お金が欲しいよ、どうしよう、盗んじゃ、いけない? ああ、日本人の、温厚な魂が、自分をむしばんでいる とてもじゃないけど、犯罪なんか犯せない 死ぬくらいなら、窃盗くらいの、バイタリティーへの変換も やっぱり日本人には、出来ないくらいの、善良性が 死に際さえも、犯罪よりはまだしも潔白のまま 腹切りを模索し、滅びの、美学か それは嫌だ、切腹は無意味だ、やっぱり頑張らねば それにしても、働きたいのに、誰も、働かしてくんない あんまりだ、こんなの、社会じゃない、ほっぽり出すなよ 仕事をくれよ、誰か助けてよ、ねえ、助けてよ ひもじいのやだよ、どうして自分だけ…… ちょっと、泣きそうに、なっちゃった また歩き出さなくっちゃ、こころが淀んでしまう 歩きながら、お決まりの、つぶやきさ ああ、おなかすいた 激情もポキンと折れちゃった なんだかぐったり疲れちゃった ほら、ようやく辿り着いた いのちの再生現場だ さっそく扉を潜り抜ける さあ、ここで丼ぶり物を注文だ それから、こうして、こうして 待っているのさ、待っているのさ ああ、みんな美味しそうに見える いや、そうじゃない、美味しそうなのは みんなじゃない、みんなの食べている 丼ものだ、だんだん、思想がこけてきた お願いだからはやく、持ってきておくれ ここでのたれ死んだら、新聞で笑いものじゃないか メディアが、史上最悪のドラマでもしたてて ぐへへへ、視聴率稼ぎでもしないとは 限ったものじゃないぜ、だから お願いだ、はやく、丼ものを持ってきておくれよ お願いだ、はやく、丼ものを持ってきておくれよ 「電話の来ない歌」 電話の響きを待つ人の なみだはいつしか川となり 大地を伝って海原を 生み出したのはまことかな そんな壮大な虚しさで ひたすら待っているときの 震えるような孤独さえ 今さら慣れて来たけれど さりとて電話は鳴りもせず 日にちを決めてくれとさえ おいそれ言えない立場だから また三日目の待ちぼうけ 掛け持ちだってしてるけど まさかのまさか連日を 面接で満たす訳もなし すき間はざ間の淋しさよ 近頃酒さえ買えなくて おかげで健康になったけど アルコールさえ遠のいて 侘びしい毎日となりました 思えばかれこれ半年を 酒も飲めずに生きてきた 価値観までもあの頃と 代わったような気もするよ ぼんやりしたまま電話機と となりに控える携帯と ふたつ並べて眺めてた それでどちらも鳴りもせぬ ああ、殺風景、殺風景 なにが、枯れ野だ、すすき野だ 真のワビなら、これな日の 電話の風景に勝るなし 日暮れの徒労を悲しんで 床にごろんと転がった 腹が減っては、来たけれど 立ちあがる気も今にない 虚しさばかりが、すきま風 このまま、死んだりする人の よく、いないものだと思うばかり よく、持ちこたえると思うばかり それでも、今は生き伸びる 気合いを込めて、冷蔵庫 なぜだか、すかすかすきま風 トマトと玉子を見つけては 引き出し奥のラーメンを 袋にあけて思うのだ ああ、今日も電話は鳴らなかった ああ、今日も携帯は鳴らなかった 「確率論者」 三つのサイコロを転がしたなら 確率はノートに求められるでしょう 三つのサイコロを転がしたなら 中間へと傾向の偏差を極めるでしょう けれどもあなたはいつしか 不思議な数列を見るでしょう 数値の羅列のはざまに籠もる 人の生涯を知るでしょう たとえばそれは些細なもので とりたて、お騒がせするほどの ものでもないけれど、あなたは 統計のなかに、たとえばぞろ目の 一の三並びが、何故かしら三度続けて 記されている箇所を、確かに知るでしょう たとえばそれが、人のひとりひとりは 中間的生涯へと、収斂されるからとて 幸福の、一の三並びが、不思議なことに 三度続く人もおれば、かえって不幸の 一の三並びが、脅かすよな悲しみの姿で 三度続く人も世の中には、確かに居ることを あなたは、わずかにその、実験された数列から はざまに籠もる、沢山のバリエーションから 悟りを開くに、違いありません、そうしてまた さまざまな、不可解の、確率的なら不自然なほどの 傾向を帯びた、サイコロの数値の面々を 眺めることが、出来る一方で、逆説的に 美しく確率に整えられた局所数値の移行を 滅多に見ることもないとは、思うに違いありません ああ、その時こそ、あなたは知るでしょう 努力や邁進だけでは、どうともならない不可解な 幸運と不幸の連なりの、社会に渦巻くことを あなたは、身をもって悟ることになるでしょう けれどもまた、あるサイコロを、六面ではなく たとえば仮に、一の二面あるサイコロにするという ひたむきな努力くらいでも、わずかな確率の上昇を 見出すことも、また、事実だと思うに違いありません その時あなたは、無情に打ち勝つべき、努力というものを ようやく信任するに、違いありません、なおかつそれでも 努力に関わらず、なぶり者に襲いかかる災いやら あるいは幸せの、転がす度ごとに、姿を変えるそれな姿を 眺め続けるには違いありません そうして、その時こそ、俺のおかれた環境の 立て続けに、悪い目の出るような刹那にも なんとかそれを、切り盛りしつつ、踏み足を逞しく 未来を夢見るだけの力を持つことが出来るに違いありません 未来を夢見るだけの力を持つことが出来るに違いありません [ハングリーな歌] おなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいた おなかすいた ああ、はら減った、ああ、はら減った おなかすいた、はら減った、おなかすいた だって、おなかすいた、ああ、はら減った こたへた、はらへた、こたへた、はらへた ああ、おなかすいた、ああ、はらへた こたへた、はらへた、こたへた、はらへた 目が回るくらい、おなかのすいた今宵を 起き上がれないくらい、おなかのすいた吉日を 柿ピーひと袋、それなさみしいおん姿 おなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいた おなかすいた 五袋ラーメン、ああ、おなかすいた もやし一袋、ああ、食べたい食べたい 栄養かたよる、それは、白い御飯だけに お醤油掛けて、ああ、食べたい食べたい おなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいたおなかすいた おなかすいたおなかすいた おなかすいた 「うどん屋さざ波へ」 二十代の眼鏡の細づくりよ 人の皮を被ったブリキの玩具よ へりくだって、さも採用みたいに ありがとうさえ連発した醜きカマドウマよ 米つきバッタも驚くほどの おだての面接に気をよくさせて 相手が口をすべらせるのを 身構えているとは生意気だ それでいてそのくさあれ仕草は 企業のためと、信じて疑わない お前のそのくさあれ精神は、人が人にする 企の以前の姿勢として、しこたまずるがしこく 下等でハイエナにすら申し開きの しかねるねちねち眼鏡のなれの果ての分際で よだれと、企業のためだなんて、ほざくのは 羞恥の欠けらもない、一大失態であるぞ それはいいだの、すばらしいだの、探していただの 嘘くさい事ばかり、連発するような不気味さは マニュアル時代の、モルモットを見るようで 当人ばかりは、狡猾なキツネぶっていながらも 車輪のなかを、かけずり回っている小っちゃ脳みその 醜態に満ちあふれておるぞ、おい、にこにこが技となったら それを社会が信任しても、疑う人がいなくなったとしても 最後の良心として、俺はひとりになっても糾弾してやるぞ それはもう、眼鏡、人でなしの生き方だ 歯車のためににこにこしながら、人を計らって 漫画頭の二十代、適正を図ろうとするあまりに 最低限度のマナーを知らず、まるでおだてるみたいな へらへらと、平身低頭の、その不気味さは、お前にしたって 人の道を、踏み外した、米つきバッタの、なれの果ての 腐臭を放って、君臨しておるぞ 腐臭を放って、さざ波うどん屋に 羞恥もなくて、君臨しておるぞ 「面接帰りの歌」 へとへとなって、とぼとぼなって 歩きますのは、疲れでなくて へとへとなった、こころとこころ はじけて消えた、シャボン玉かな てくてくすれば、こころは笑う とぼとぼすれば、こころは歎く それが僕らの、いのちの意味ぞ せめても今は、からの元気だ たとえ社会への信任の儀式として それを誰もがこなすものとして けれどもこれほど落とされては なんだか、勇気がくじけるばかり くじけた勇気を、なぐさめる 人さえまわりに、おらなけば さまざま悩める、どろどろの お化けみたいな、憂うつを 払えぬ風の、いくじなし 誹(そし)ってみても、むくわれぬ 暮れゆく空と、町あかり 店先満たす、照明の 下を過ぎゆく、学生の 哄笑ばかりが、懐かしく なんだかなみだが、こぼれそう それな面接、帰(がえ)りです。 「詩人気取りへ」 あなた方は嘘つきだ 人は極限まで追い込まれたとき はたしてそれを客体化して記すなど なし得ないほどに追い込まれたとき すべてはただ恐ろしいとか苦しいとか 原形質の言葉の連なりくらいなって それすら、もはやたどたどしく しどろもどろの、落書きとなって ただ、感情をごまかすためになんとか 記してみせるが関の山であって 余力のある人の心をかどわかすような ゆとりに満ちた文章なんかいずれにせよ 生み出せないのに決まっているのだ それをあなた方はさも彼らに寄り添って 自分を何様真実を語るべき詩人とほざいて 深刻ぶって頷いて見せたり、また、代弁者だなどと 図々しくも、余力ある人々をかどわかすくらいの いつわりの情感をもてあそんで真相を記すなどと ほざいてみせるのは嘘つきだ ビニールハウスのなかで生まれた感情ばかり さも喜怒哀楽の極限みたいに演出しつくして 自然のいびつさえない規格品の小ぎれいを 拍手喝采をかっさらうべき巧みと栽培して 陰にまわってはよだれをたれ流し 悲しみ二粒、喜び三粒、合わせて一冊なんて 金銭の計算なかしているから醜悪だ あなた方は嘘つきだ そうやって人を騙して ほんに未来へ伝うべき 言葉を切磋琢磨するでなく 人々に嫌われてもなお 語るべき言葉すら持たず ただ現代におもねる作品を 記し続けているから嘘つきだ 「感謝の歌」 絶望は絶望のまま滅びることさえあるけれど 突如として喜びの花開くことだってある そうして、それは、究極的にはサイコロの 転がした、目数からは、逃れ切れなくって どんなに確率を高めても、しくじることもある どんなに確率が低くても、いい目が出ることもあるけれど せめて、いい目を見たときは、確率を高めたその行為に 小さな自負と、圧倒的な、感謝の念とをもって 今日不意に、採用の連絡の来たことをのみ、今こそここに 静かに、静かに、讃えようと思うのです 穏やかな気持ちになって、今はもう、喧噪の 言葉の落書きも、さっぱり忘れてしまって 採用企業に対して、ただ、ありがとうとそれをばかり これから、なにがあるかは、分からないけれども今はただ ありがとうと、そのひと言ばかりを懸命に 一日くらいは、歌い捧げてみたいと思うばかりです さあ、これで、また収入があるのだから、さっそく 美味しいビールを買ってこよう 長らく忘れていた喜びが甦って来れば 沢山のいのちを繋いでくれた業務用スーパーやら しのぎを削る牛丼屋の有難味にはちょっとだけ 感謝の念が遠ざかるような宵だけど それでも、乾杯をして、今夜はぐっすりと 眠りに就こうと思うのです 喜びを素直に讃えてひがみなく 恨みなく呪いの言葉も忘れちまって 幸せの眠りに就こうと思うのです 酒を飲んで、眠っちまおうと思うばかりなのです 皆さま、どうか、希望を捨てないで あなたの面接にいつかきっと日の光が ぱっと差し込みますように ただそれだけを、ちょっとだけ、後ろめたいけれど 自分は受かって、真実の情感から、今はもう離れてしまうけど 小さなゆとりが、あなたへの語りかけを、いつの間にか 少しばかり、嘘くさくしてしまうには、違いないけど それでも、やはりあなたの幸運をお祈りしつつ 今は、終わりにしようと思うばかりです ぷふぁあ、旨い、ビールの喜びっていうのは こんなにも、瑞々しいものだったのか ではみなさんさようなら もうお会いすることも ハローワーク、しばらくは ございません、出来ますなら 永遠に、ハローワーク お会いしないように 出来たらと思います P.S. みなさまの、検討を祈る (おわり) [草稿、2010/5/18-23]