価値

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価値

意味もなく時が流れ
動物のおまけみたいな
乏しい知性でさえも
消えたその場所から
自分を認めることが
出来なくなって
自分の記憶すべてが
自分の感情すべてが
どこにもなくなって
その頃にはどんな思いも
初めから無かったことと
何も変わらなくて
そこに居たことも
何もなかったことも
定義自体が意味を持たない
今ここに居る自分も
手に伝わる鼓動も
小さく震える心も
そしてこの言葉も
すべてに価値がなく
もう何もなくなってしまう

人は生きていくために
何も無いという真実
認識しながら生きること
実感しながら生きること
決してないように
踏み越えないように
自分達の遺伝子に
言葉では解きほぐせない
考えに壊されない
頑丈な鍵をつけて
そうして僕達は
今までのうのうと
平気な顔して生きて来ました
ときどき幾つかの失敗作が
大切な鍵をどこかに忘れて
自分をなくして心震えて
例えば動けなくなっても
大丈夫そのこと自体は
多くの人達にとって
健全な僕達にとって
どうでもよい事柄で
いつでも他人との関わり
社会の中に身を任せれば
もうきっと頭の中
日常で埋め尽くされて
ただ一部の失敗作だけが
それを遠くから眺めて
ある日下らない事実に
気付けばもう胸のうち
黒い固まりが覆い尽くして
生きていること
毎日が地獄になる

それでも結局
少し時が過ぎれば
誰にも終わりが来て
その頃になればもう
沢山の幸せの並木道も
焼けた溶岩の連なりも
同じ長い帯になって
穏やかな歩行者の喜びも
地獄の焼け付く苦しみも
どちらも続く道跡になって
違う本当は跡も残らず
みんな消えて何も残らず
ここに居たことすら
認識が消えればもう
何の証しも残らず
ただ机と椅子があって
ただいつもの部屋があって
僕の存在だけが抜け落ちて
どこを見渡しても誰も居ない

幸せも不幸も等価で
自分も他人も等価で
生きるのも死ぬのも等しく
最後には何もなくなって
本当に何もなくなって
あらゆるものが消えてしまい
その時から今を還元すれば
今も本当は何もないのだと
それに気付いた時の恐ろしさ
暗闇に覆われた心の絶望
それ以上のおぞましい苦しみを
僕は決して認めない

でもその苦しみですら
数多くの感情と等価で
何一つ意味などなく
そして僕の認証など
何一つ意味などなく
すべてが下らない
人間という同種の
感情と知性の幅の
取るに足らない
位相の違いに過ぎない

堪らなく馬鹿らしく
もういっそ今すぐに
すべてを終わりにして
今でも10年後でも
20年後でも30年後でも
まったく同じことで
こんなに苦しいのは
こんなに意味がないのは
もう嫌だと思っても
その思いにすら何も
価値がないのだから
もうみんな終わりに
たった今終わりに

思いを行為にうつせば
消える恐ろしさに
また心震える
恐くてたまらない
だって本当はまだ
今でも明日のことを
信じているのだから
明日の幸せ
そうではなくて
明日があることを
まだ信じているのだから
心がまだ日が昇るのを
夢見ているのだから
だから心の中
冷たく震えても
自分の生命を
否定できない
またきっと明日
1日生きていく
どんなに苦しくても
みすぼらしく生きていく

作成時2003/1/8

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