小さなオレンジ色の電灯

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小さなオレンジ色の電灯

作家というものは代替可能な
取るに足らない言葉の羅列
長々と書き連ねてしたり顔
なぜすでに使われた言葉
自信満々に独自の表現だと
わめき散らして得意なるかな
自らに残されたただひとつの
もっとも大切な宝物の言葉
それはもう誰でも思い付く
陳腐な表現に決まっているなら
沢山の代替物の寄せ集めに
本質的な必然性なんて
あるわけがないじゃないか

こうして思想は否定され
こうして感情も否定され
代替可能な集合としての
自分の思考配列に意味もなく
我慢して温めてきた胸の奥の
沢山の想いもみんな
僕のものでもないほどの
石ころにすぎないのだと
ずたずたに否定せられて
それでも心のがらくた棄てたら
僕はもう存在しないことと
等価になって消えてしまう

今日の怒りも夕べに薄れ
真っ赤な哀しみも夜空の星に
遠く色彩を奪われていく
星降る夜に明日が舞い降りて
昨日はどこにもなくなってしまう
そんな風に過ぎていく歳月の
何を希望として命を繋いだら
僕はもっと幸せに毎日を
楽しむことが出来るのだろう

どうせ明日も同じなのだ
今日すでに終わったはずのこと
翌日になって繰り返している
そんな歯車みたいなものが
命の実体に過ぎないのに
なぜ人は蒙昧(もうまい)の幻影に踊り
夢やら希望やらを信じていられるのか
公式を解けば誰にだって分かる
何か残したって残さなくたって
笑ったって泣き出したって
今日が消えるなら明日だって
実績だって記録だって
さらりと消えれば存在など
初めからなかったことと等価で
生き甲斐を見いだすほどのもの
哲学的に考えてみれば
何一つ存在しないのだ

ねえ、どうしたのだろう
前にノートに落書きをして
もう何日も過ぎてしまった
あの日から今日この日まで
その間はいったいどこに流れて
溶けて消えてしまったのだろう
ねえ、おかしいな
僕はいったいここで
何のためにこうやってまた
ノートに落書きをするだろう
なぜ今ここに
こうして居るのだろう
今まで何のためにしきりに
足を踏み出して来たのだろう
今まで通(かよ)った時間
今まで通(かよ)った思い出
いったい何のために
僕のこころの中に
ひどくおぼろげに
存在し続けているだろう
いったい何故
何のために

何の意味もないのに
でも命は大切で
何の意味もないのに
でも明日は大切で
今日もこの狭い部屋で
オレンジ色の電灯を小さく
灯して落書きしている
蟻の行列のような
規則正しいひたむきな
労働をしているみたいで
それが少しだけ心を
慰めるのはきっと
その中にこそ人間の
真理が籠もっているから?
それとも心が真実を
じかに見つめることを
束の間忘れさせてくれるから?

分からないけど書き連ね
でも灯りは少し暗くて
部屋は少し寒すぎて
次第にぼやけて眠くなる
僕はただそれだけを待って
束の間すべてを忘れるために
静かに横たわるのだ
ただ明日のために
本当は価値など持たない
それでも明日のために

作成時2008/08/04

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