哀しき落書き帳

[Topへ]

哀しき落書き帳

どうしたら俗物じみた
安値の言葉の洪水を
逃れることが出来るだろう
どうしたら神聖輝く
孤高の言葉の配列を
見つけ出すことが出来るだろう
自分の知性では残念ながら
理解することが出来ません
ただ自分の詩の下等なだけが
はっきりと自覚せられて
それでもだらだらとして
必死に文章をとどめている
何一つものになっていない
安い文章をとどめている

ねえ教えて下さい
それならばなぜ
己の無能さだけには
はっきり自覚出来る程度の
半端な鑑識眼をこんなにまでして
身に着ける必用があったのだろう
ねえ教えて下さい
それならばなぜ
すぐれた文章までには
はっきり距離がある程度の
半端な文章力をこんなにまでして
身に着ける必用があったのだろう

努力?
気力?
学習欲?
好奇心?
違う
それは詭弁だ
どれもこれも嘘ばかりだ
そんなもので誰もが優れた
芸術家になれるくらいのものならば
それはさぞかし口先だけの
安物芸術には違いないのだ

資質?
能力?
才能?
気質?
そう
それこそすべて
どれもこれも絶対的に
芸術家を産み出す動力で
上に積み重ねるための原石
それはさぞかし生まれ持った
芸術的センスに違いないのだ

繊細なるセンスの微塵もなく
それなのに自分の無能さだけは
明確に証明できるほどの能力
持ち合わせた道化師が身ぶりにて
懸命に思いの丈を表現すれば
人々は陳腐の喜劇に大はしゃぎ
道化師の哀しみは包み隠され
陳腐の娯楽作品だけが惜しげもなく
大量生産されるばかりだった

だったらこころの鏡など無くて
哀しい道化に気が付かないほどの
まるで能力の到らないがむしゃらの
落書き名人に生まれついたのならば
どんなに幸せな毎日を笑いながら
のうのうと送ることが出来ただろう
ただそのことだけが残念で
僕は眠られずに膝を抱(いだ)くよ

自分の書いた文章
読み直すたびに不愉快で
完成された比類無き
添削出来ない作品が
どこにも存在しないのだ
大声あげてノートを千切り
腕にペンを突き立てたいほどの
激しい怒りが一瞬込み上げて
でも我慢して膝小僧に手を当てて
抱えたままぼんやりと目を開けて
真っ黒の部屋を眺めまわす時
ノートの中は沢山の
出来損ないの落書きだけが
もう何冊分溜まっただろう
そうして書き連ねるたびに
安い感情だけが消費されて
僕は少し落ち着きを戻して
やがて眠りに付くだけだった

2008/08/23

[上層へ] [Topへ]