月は今だに

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月は今だに

あるひと時をさりとて何もせず
月は今だに空に残れり
いよいよ別れとならばこそ
白む世界へと失せてゆく

また本日一日が
何をなし得たか
皆目見当も付かず
ずるずる流れて
想い出そうにも
頭はぼやけるばかり
本当に大切なこと
ひとつあっただろうか
まるで考えるばかり
時計の針が動いてる

狭き部屋の灯り落とせば
橙色した豆電球の乏しさ
カーテンが薄明かりして
呼ばれて開けば窓一面
月の光が澄んでいた

幸せの魔法みたいにして
辺りの清められるような
すがすがしい幸福なども
小さき頃のようにそっと
感じたものでした

それが今日のすべてで
この感覚は朽ちかけの
感性の名残みたいにして
寝てしまえばまた明日
記憶の片隅に消えて行く

こんな淡い気持ちだけ
取り残された私の
干からびた心が哀しい
月はまだ静かに青く
部屋を照らしておりました

そうして果てなく夜が更け
瞼を閉じればその輝き
かすかに伝わる冷え冷えと
凍えるようにくしゃみする

はっとして窓を開けて
大きくベランダ乗り出して
冷え切った空の中に
夜明けの白色が流れ込んで
朝を呼び込もうとしているのでした

そんなに長いひとときを
月をあびて費やしてしまい
それが今一番の幸せなど
思っているのも馬鹿らしく
大きく大気を吸い込んで
それから眠りに就くのです

せめてばらばらの気持ち
休む前に書き記したならば
このおもいの僅かばかり
とどめ置くこと出来るだろうか

記し疲れて横になり
随分白けたような窓を
そっと開いて眺めれば
鳥のさえずる姿もくっきり
色を戻した大空の中に
月は今だに空に残れり
はなはだはかなく淡ゆくて
いよいよ別れとならばこそ
白む世界へと失せてゆく

2008/11/9

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