草むら広場の一丁目

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草むら広場の一丁目

その時晴れ渡って抜けるような
あの空はどこへ行ったろう
その時僕を吹き抜けて空へ消えた
あの風はどこへ行ったろう

小さな僕には果てなき広がる
草原のようにも思えた家隣り
自分より高いくらいの草むら畑が
それが世界のすべてだった

みなで踏み倒しては道を作り
袋小路を広げては住処(すみか)にしたり
木の端を立てては広場に見立てたり
随分日の暮れるまで笑っていたっけ

あの時ふと集まる草むら広場の
隣りの広くてまるいばかりの
わが家に見立てた草むらの上
気持ちよく寝そべった時の
蒼く立ちのぼる草のにおい
緑の上に広がりいつか宇宙にまで
伸びて行くかのような澄んだ青空

瞳を閉じると今でもなお
その刹那だけこころの内に
封じ込められているみたい
不意に想い出されて束の間の
幸せな想いに更けるのです

すこし風が吹き抜けた時
まわりの背高草(せいたかそう)は一斉に
サーッと音を立てつつ立てつつ
青空の方へ首を振りながらも
やはり僕の方を眺めているようで
僕は嬉しくてこっそりくすくすと
なぜだか笑ったりしていたのです

風の旅立ちを見送る間はまた
なぜかしら少し大人びたような
不思議な気持ちもしたものだけれども
その時僕の頭から笑い声が一斉に起こり
子供心を呼び起こしに掛かったせいでしょう
僕は除け者にされたお調子者みたいにして
慌てて皆の輪の中へと走って行く

後には押しつぶされた草どもが
そっと辺りを見渡してからきっと
ほんの少しだけ首をもたげつつ
ゆたかの生命力を持てあまして
やがて息を吹き返すに違いない

いつまでもいつまでも
懸命に遊びまわっては
時はいつでも自分の隣りに
のほほんとして横たわって
今が常しえに続いて行くのだと
あの頃は疑ったりもしなかった

先やら後やら何もなくて
意味なんて持ちようもなく
ただ無邪気に笑いあったりして
毎日が懸命に楽しかった

それが生きることだって
心の底から信じきっていた
そして大地に抱かれるように
まるで安心しきっていたのです

澄んだ青空に鳥は鳴く
遠くて高いところに
ゆっくり雲が散歩する
風が後押ししてやって
ほら、またひとつだけ
あの頃と同じように
はぐれて流れていくのです

2008/11/13

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