遠い空から

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遠い空から

遠き空より呼びかけれども
羊の子らはさまよい歩けり
高き雲より手を差し伸べれども
人の子らは地べたを歩けり

不意に時々寂しくなって
人と話がしてみたくって
けれどもそれは現実の
路傍の君では無いのです

心はどんどん小さくなって
丸や三角の符号みたいに
随分安っぽくなったものだから
それをがちゃがちゃ組み合わせ
言葉を使った会話だなんて
胸を殺して丸や三角を
がちゃがちゃ真似しなければ
僕は人として生きていくことが
ここでは出来ないのでしょうか

誰かと話しがしたい
馬鹿みたいに電話を握りしめ
けれども浮かぶ顔はそこかしこ
にやにや笑って娯楽の餌ばかり
啄(ついば)むと人のうわさして
唾を吐き散らすばかりでした

誰も無く偽りの笑顔を
続けるたびに封(ふう)じられて
込み上げる冷たいものはなに

怖くて付けたテレビの向こう
人の頭を叩いて笑っている
屈辱与えて大喜びすれば
罵られた本人は大はしゃぎ
気味の悪い檻の向こうから
珍妙な動物が動めいた

そんなみにくいような物は
どこにもきっと存在せず
ここだけが腫瘍みたいに
腐っているのに違いない
もしそうでなければもう
地上に住むべきところは
どこにもきっと存在せず

だからあきらめず
それだけを心の糧にして
僕はまだ明日を迎えようか

スイッチを切って受話器の先で
ツーツーと泣いているのは誰

腫瘍を受けて高き空より
膿(う)んだ傷は苦しけれ
病んだ大地をのたうち回り
朽ち果てる嘆きはいかに
そう問えども答えなど
受話器の向こうになにもない

君は泣いているのか
愚かなる小羊よ
その苦しみを彼方から
きっと見ている人がある
そんな出鱈目に騙されて
希望を抱いたのか
愚かなる小羊よ

大丈夫だよ
あなたに手を差し伸べる
者などありはしないから
だからあなたは自由にして
自分で勝手に羽ばたいて
自分で勝手にほほ笑んで
大空を仰いで見るがいい

そうして道を切り開いて
笑顔を見せてもなおのこと
僕のまわりには心に描く
友など誰も居ないのです

彼の心いと醜く
同類寄り添いし
彼の心いと狭く
それを世界と信じけり

おやすみ
小さなおろかものよ
もう遅いのだろう
そして明日(あす)とても
変わりなどないのだろう
だから小さなおろかものよ
また明日ゆっくり考えたらいい

暗い部屋の小さな小さな
オレンジ色した豆電球
チラシのうしろに沢山の
無駄な言葉を書きまして
そうして溜息ひとつだけ
それを今日の証しにして
僕はもう休んだらいい

2008/11/25

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