ありきたり

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ありきたり

幾とせ巡りて叶うこと
成し遂げしこと無かりけり
されども至宝(しほう)の情熱も
何を極める夢さえも
胸の内には無かりけり

そうして怠惰(たいだ)の毎日を
垂れ流しては繰り返しつつ
こんなにみすぼらしくてもなお
僕は生きているのだけれども

何を笑っているのだ
僕は君の台詞(せりふ)をそっと
代弁してやっただけなのに
君は気が付きもせず
軟弱者よと笑っている
君が為したと信じるもの
両手に握りしめた石ころの
何と下らない色彩どもの
がらくたの箱に満ちあふれ
レディーメイドの粗悪品の
安い素材で趣味もなく
接着させたるいびつものども

それはまるであなた
張りぼてじゃないですか
それはまるであなた
ペンキ塗りじゃないですか

安きもの悪しきもの
品性なかれば見分けなく
幸せ色に想えるほどの
人の世ならば趣味など入らぬ
人の世ならば道徳など入らぬ

餌も食事も同じなら
知性もまるで無駄となり
素材も味もぐちゃぐちゃの
穢(けが)れの帝国となりませり

そうして僕は悲しくなって
頭疲れて窓からの夜景を
こうしてぼんやり眺めているのだ

想い穢れて寂しければ
窓を放ちて夜半の星空
眺めるのベランダにすべり出そう

小さな遠くの街灯が
ぽつりと小道を照らす時
深夜帰宅の黒服が
影を足音に廻し込んで
闇の中へと消えていく
春風いまだに肌寒く
それでも時折草の香(か)を
仄かに伝えてこのこころ
優しくなだめてくれました

足音の主は影に追われて
やがてわが家のノブに手を
そっとかければ奥さんが
眠らずに待って居るのだろう

小さな暖かさは春風に
吹き込む玄関を包み込み
おかえりなさいの声がして
幸せの意味を知るのだろう

そう想うとなおさらのこと
僕はこころが揺らぐのだ
本当に大切なものは、ねえ
いったいどこにあるのだろう
本当に大切な生き方は、ねえ
いったいどこにあるのだろう

惚けたベランダの先で
手すりの冷たさに驚いて
僕は慌てて部屋の中
戻ればいつもの夜は更け
僕は怠惰に眠るのだ

2008/11/27

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