砂嵐

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砂嵐

僕はこれからどうしたらいい
深夜の町を荒らし回るような
暗闇の春風が枝を軋ませて
まだ咲かぬ桜の息の根を
止めんばかりに襲う時
埃まみれの黄色い砂が
窓に打ち付けて音立てる

僕はこれからどうしたらいい
轟音のうねりは掻き立てるような
暗闇の春風が心を軋ませて
逃れまわる愚か者の息の根を
止めんばかりに襲う時
埃まみれの黄色い砂音が
耳にへばり付いて離れない

明日になれば町中が
砂を積もらせ醜態を
晒してなおさら生き生きと
粗末な活気に溢れるだろう

僕はそれからどうしたらいい
粗野の生命力を分かち合えない
潔癖性の負け犬みたいにして
あらゆる動物から嘲笑され
追い立てられて尻尾も折れた
哀しい野良の犬っころみたいにして
きゃんきゃん鳴いて逃げていく

落ち延びながら池のほとりで
はっと気づけば水面にうつる
哀れなすがたに立ちすくむ
いくら理想がご立派だって
そのまるまった背中のなんと
はしたない醜態を極めたことか
しおれてもらす溜息ひとつに
とぼとぼ街灯の下を歩き去る

僕はそれからどうしたらいい
さりとて下劣の会話ばかり
懸命に模倣して誰でもない
思想を忘れた動物みたいに
退行することが人の道だなど
嘲笑することが人の道だなど
娯楽を求めることが人生だなど
商品を求めることが人生だなど
金を求めることが人生だなど
他人をやりこめることが
自己をまっとうするすべてなど
どうしてそんな馬鹿馬鹿しい
道化を演じなければならないのか

どうでもいいことばかり
沢山降り積もりましたなら
真実色した鉱物もはや
見つけ出すことなかりけり

もう疲れたでしょう
毎日毎日余計なことばかり
次から次へと拾い上げて
そのたび胸には石ころや
砂が詰まって行くばかり
君はただひとつだけ
拾うことをやめさえすれば
もっと広い空の色だけを
人混み気にせずのんびりと
歩き去ることも出来るのに
いつもいつでも目の前の
小さな粒に希望を託して
路傍の人は足下のぬかるみ
転ばぬ先に気がかりで
それが人の性だからこそ
気づけば再び瓦礫の中を
懸命に探して悩んでいる
昨日の姿の僕が居る

どんなに無気力の果てしなき
言葉でさえも未(いま)だなお
表したい最後の蝋燭みたいな
僅かの灯火の消え失せしとき
炭火は鈍く色を落としけり
記される何事も無かりけり

ぐるぐる同じことばかり
まとまらずに書き連ねて
それでもなお休むことなく
繰り返すさまは可笑しくて
不意にノートを見返した
はたしてその心は何さまを
必死になって求めるやら
途方に暮れて立ち止まる
にらめつけたる白紙の先に
もはや言葉は見つからぬ

止めようとしてまたひとつ
記してなおさら意味もなく
怠惰の呪文を唱える時
約束などは偽りのための
社交辞令に過ぎやしない
守ったことなんて今までに
一度もありはしないのだ
僕は何も誓わずにまた
何もまとめずに窓の外
打ち付ける砂のように
無意味に言葉を途切れよう

P.S.
砂嵐は
未だ冷たく
窓に打ちつけ
闇夜に轟くならば
我が心はただ
いつもながらにして
震えおののくのみ

2008/12/04

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