やりたいことはありますか

[Topへ]

やりたいことはありますか

ねえ、あなた
やりたいことはありますか
今は夜、深夜営業のレストランの
安っぽい珈琲が味気ない

ねえ、あなた
やりたいことはありますか
車も今は、少なくなった路地には
ひなびた街灯ぽつりと照らすよ
遠くの喫煙じみた席の方から
忘れた頃にまた笑い声
侘びしさもなく謳歌する

目的なんてなくたっていい
明日(あした)なすべき事柄一つ
ねえ、あなた
定まったことはありますか
窓先にへばり付いたような
光を求めて虫の姿だけが
昼の喧騒の代理を務めている

忘れた頃にヘッドライト二つ
地上の流星みたいに過ぎるなら
車上の人は押し黙ったり
あるいは子供を眠らせたりして
またハンドルを握りしめながら
明日をも屈託なく進むのでしょうか

忘れた頃に手持ち無沙汰の
ウェイトレスが向かいの席に
メニューを並び替えたりしてみても
あまった時間の埋め合わせなど
まったく無意味な給料分ほどの
仕事をしたとでもいうのでしょうか

僕はどうしようか
これからもずっと座ったまま
さみしい夜更けの通い路を
眺め眺めして街灯どもの
揺らめきを眺めつつ暮らそうか
やりきれない不満を抱えつつ
けれども満たすべき指針さえ
立てないままに果てようか

僕はどうしようか
これからもずっと喫煙席の
笑い声が響くたび安っぽい
珈琲飲み干しては溜息など
流してまたして窓の外
眺め眺めして暮らそうか

それとも窓ガラスのうちの
店内ランプを反射した煌めきを
幾つ数えて夜を明かしたなら
味気ない朝に打ちのめされて
しどろもどろに勘定をして
とぼとぼ家にももどろうか

冷め切ったカップの中に
ミルクで薄めた酸化物がまわる
僕はそれを飲み干してみて
飲み干してはみたものの
これからどこを歩こうか
それとも朝までまどろむか
指針が立たずに途方に暮れる
呆れてはまた窓眺めるのだ

ねえ、あなた
やりたいことはありますか
今は夜、深夜営業の窓の外には
あちらとこちらと二つの筋が
交互のヘッドライトとなりまして
互いに乗り合う運転席では
他人のすれ違いの大衆喜劇も
ぼんやりぼんやり眺めている
僕は、ただそれだけのことなのだ

2009/3/11

[上層へ] [Topへ]