砂丘

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砂丘

頑張って力のある限りに手を振り出して
足を懸命に前に前に踏み出し続けました
物心ついて顔を上げたとき誰も居なかった
それが怖くて必死になって砂を蹴りました
波だけが押し寄せる砂浜の裏手にはきっと
仲間の群がう僕の居場所が広がっている
幸せな未来は誰にでも手に入るのだと
大志を抱いて震える心を抑えつつ抑えつつ
一歩ずつ砂を蹴り上げ波から逃れたのです
僕の後ろにはきっと長い足跡が連なって
誰も居ないのですから消されもせずに
僕の道のりを記して下さるのでしょう

そうやってもう何十年立つのでしょうか
目の前には砂丘が山麓のように控えている
一年365日のうちおそらく50回は乗り越えた
10年3650日のうちおそらく500回は乗り越えた
その2倍も3倍も上り詰めた生命のない山が
ぎらぎら光る太陽に照らされて凛々しく
僕の前に立ちふさがっているのでした

心が真っ暗になって涙がこぼれた
もうとっくに気が付いていたのです
いまここで振り向いたら僕の後ろに
すぐ足下に波が押し寄せて来て
僕の歩いた足跡は波に掻き消されて
初めと同じ場所に立ちつくしている

ある日堪えられなくなって首を返して
僕はメドゥーサの首を見た恐ろしさに
生きたまま魂だけが石像となって
絶叫を張り上げ精神を失うのだろう
この恐怖がいつかきっと
何も替わらない未来への恐怖に
負ける時がもうすぐ近づいて
僕はその日生きたまま
砂に埋葬されるのです

2007/3/26

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