偽りの心

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偽りの心

お酒を飲んだら眠れなくて
暁始める空の色さえも味気なく
ぽつねんとして寂しさの中に
引き出しからカッターなどを
取り出してからそっと手の首に
あてては心を落ち着かせるのです

ほんの簡単なことなのに
すっと引いては布団の中に
いつしか僕は冷たくなって
静かになれるというほどの
たわいなきほどのことなのに

瞳が熱くなるのはなぜ
すっと豆腐を切るみたいに
僕にでも出来るはずのことが
なぜこんなにも苦しくて
難しいことに想われるだろう

だって左手をもっと左に
引いてみさえすればきっと
もう後戻りは出来なくて
さすれば後の祭りみたいに
もう取り返すこともないのだし
僕の刹那の叫び声だって
消えればなにもなくなって
僕は路傍の石となるだろうに

それだけのことがこんなにも
瞳が熱くなるのはなぜでしょう
自分でもまるで分からないまま
おずおずと取り出したカッターの
芯を味気なく引っ込めながら
そっと引き出しに戻す時
夜更けのしんとした響きには
誰ひとり居ない部屋なのです

久しぶりに飲み過ぎたのだ
ふらふらとノートに走り書き
すませて気持ちを落ち着けて
平然として布団などを
味気なく床に敷きながら
僕は穏やかに眠るのだ
目覚めるためにのみ眠るのだ

きっとまだ自分はきっと
死ぬつもりなどないらしい
大丈夫きっと明日になれば
とりあえず朝を寝過ごして
でも何時か瞳は開くのだ
卑怯な下等な生き物のような
気がして僕は笑うのだ
ひとりでそっと笑うのだ

2009/1/9

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