毎日毎日夢を見ます

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毎日毎日夢を見ます

夢のおぞましい触覚が
現実のあまねく光を
奪い取って闇の住人に
仕立てていくのは何のため
僕を生きたまま奪うのか

毎日毎日夢を見ます
誰も居ない真っ暗な
ぽつんと探し求めて
何も見つからない
果てしなくぐるぐると
涙も流さぬ夢を見ます

わあっと声を上げて
起きあがった懐かしの
あれは遠く崩れ去った
がたがた戸口の叫ぶよな
そんなわが家でありました

僕は泣きながらしがみつき
母は優しく頭を撫でて
小さな歌を聴かせます
それは束の間幸せの
命みたいに想われて

ふっと顔を上げた時
やっぱりそこには誰一人
もはや居なくなっているのです
僕はよく知ったはずの
わが家の中を走り回る
ああけれどもそこには
みたことのない扉が
いつも控えているのでした

そうして逃げるように
他の部屋に走り込んで
泣きながら扉を惧れて
僕は走り回るのですが
いつも僕の目の前に
その錆びかけたノブの
醜いペンキの剥げ落ちた
扉が僕に手招きを
埋葬の準備するみたいな
低い鎮魂歌を歌いながら
ずっしり控えているのです

最後の部屋に逃れると
ああ目の前にまたあの扉
あっと逃れて戻ろうとして
振り返った居間への入(はい)り口
そこにあったふすまは消えうせ
灰色の壁があったのです
それからは景色も無くなって
灰色の壁に囲まれ始めて
僕はいつもあの扉の前に
弾劾裁判のようにして
震えながらに立っているのです

心に氷が鋭利な刃物みたいに
突き刺すような怖ろしい
凍てついた恐怖が込み上げて
何度もどしかけたのだろう
新鮮な悲鳴が口元に
嘔吐みたいに込み上げて
でも何一つ叫ぶことすら
僕には出来なくなるのです

震えて錆びたノブは冷たく
手を当てた僕は後ろめたそうに
誰かの名前を呼ぼうとして
でもこころの中には誰一人
人の姿が見つからない
僕の大切な人は誰だろう
ここに居る僕は誰だろう
怖ろしくて逃げ出すみたいに
僕は扉をこじ開けるのだ
するとまったく同じ部屋が
僕の心を奪い取るための
儀式みたいにして控えているのだ

振り向くたびに壁があって
開くたびに同じ部屋があって
僕は半狂乱のモルモットみたいに
髪も真っ白になっただろう
僕を封印した沢山のものたちは
この姿をはるか高くから
眺めてお茶を飲むのだろうか
人の頭を叩いて笑うような
不気味な道徳の下でもって
僕を生贄にして笑うのだろうか

壊れかけて僕は倒れ込んで
膝を打って激したような
痛みをようやく想い出して
その刹那に部屋を逃れて
ようやく目を覚ましたらしく
泣きながら母にしがみついて
母は優しそうな手で僕の頭を
撫でては歌を聴かせます
それは束の間幸せの
命みたいに想われるのでした

ふっと顔を上げた時
やっぱりそこには誰一人
もはや居なくなっているのです
僕はよく知ったはずの
わが家の中を走り回る
ああけれどもそこには
みたことのない扉が
いつも控えているのでした

そうしてまた繰り返す
永遠の循環するために作られた
おぞましい装置に閉ざされて
生きたまま埋葬される僕は
だんだん気力を奪われて
老人のようにしわ枯れて
惚けて立ち止まる暮れかけの
歪んだそのドアの目の前で
きまって僕はその夢から
驚く時みたいに逃れるのです

冷めた蒲団はまるまって
パジャマは寝汗で濡れている
枕もなぜだか遠くの方で
そして僕は怖ろしいことに
その夜明けが現実のものなのか
分からなくていつも随分
頭を抱え込んだりするのです

毎日毎日夢を見ます
誰も居ない真っ暗な
ぽつんと探し求めて
何も見つからない
果てしなくぐるぐると
涙も流さぬ夢を見ます
昨日も今日もあさっても
人のかたちを被ったままに
僕を人でないなにかに
貶めるための呪われた
儀式が繰り返されるのです
きっと待っているのでしょう
僕が頭を下げながら
僕を殺して下さいと
頼み込むように仕向けながら
お前達はその姿を餌にして
日々肥え太ってゆくのでしょう
人の命も消費と娯楽にして
僕が生きたまま棺おけの中
暴れ回るそのさまを確かめて
手の平の饅頭をむさぼるみたいに
沢山の悪魔は歓喜するはずです

窓に日の明かりが差し込んで
寒空に小鳥が鳴いている
僕はまたなんとか乗り切って
疲れた頭を枕に横たえて
そっと青空を眺めます
どんな寂しい命だって
生きているのだと思うから
僕はその日どうにか頑張って
歩んでいこうと思うのです
小さな言葉が途切れた時は
それはお別れの合図だけれども
それはまではささやかに
言葉を繰り返そうと思うのです
その言葉はきっとあの夢の
呪いに打ち勝ちはしませんか
そんな信じていないほどの
願いも記してみるのです
僕は窓をそっと開いて
それから空を見上げて
そっとお早うの挨拶をする
少し現実を想い出して
また一日が始まるのだ

2009/1/13

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