哀しみの夜明けに

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哀しみの夜明けに

わたしのまわりをいろんな人が過ぎました
靴の赤くて髪を束ねた軽やかな人が
帽子をかぶってスラリと伸びた背高の人が
変わった服着て髪など染めたひょうきん者が
いろんな人が過ぎたのです

ある人は私を褒めました
お前は揺るぎない意志を持って幸せだ
ある人は私を褒めました
お前は笑ってばかりで幸せだ
ある人はまたこう言いました
お前は泣いてばかりで可哀想だ

けれども誰一人
わたしの作った詩を
それが芸術だとは
言ってはくれませんでした

それどころではなく
わたしが想いの全てを
投げうったノート一枚
一言の想いもなくただ
会話の外に放り出すのです

いったいただの一度も
褒められたことも貶されたことも
存在しないみたいにして放置された
僕の言葉たちはもう死にかけているのです

そして私は今ではもはや
それらの押し黙った世界を
はるかに呪うでしょう

そして私は今ではもはや
それらの押し黙った友たちを
まるで仇のように呪うのであります

そして僕のこころにはもう誰もいない
友も居ない、家族も居ない
恋人も居ない、そして・・・

今では肝心の自分というものもきっと
なんであるのか毎日一歩ずつの
忘れていくような気さえするのです

教えて下さいわたしはいつだって
きっと詩人だったのではありませんか
誰もがなし得なかったくらいの
脈絡を懸命に歌ったのではありませんか

もう僕は神などは信じない
そして僕は誰もためにもはや
自分のためにもはや歌う声を
失って今は立ちつくすのだ

人っ子一人いない荒野の
語るべき言葉を無くした荒野の
ろれつの回らない路傍の石は
打ち砕かれなければなりません

人は私を見て言うだろう
あれは随分おしゃべりの好きな
陽気な男に違いないと

人は私を見て言うだろう
あれは随分のほほんとして
哀しみのない男だろうと

人は私を見て言うだろう
冗談ばっかりでなんとまあ
羨ましい生き方をしていると

僕は僕の唯一の信じている
僕の言葉たちと共に歩こうと思う
人でなしの荒野を歩こうと思う

誰も認めぬ人の姿のない
荒野の歌声の意味を思えば
私は何十万光年という
宇宙の途方もない暗闇と
塵芥(ちりあくた)の馬鹿らしさに打ちのめされる

主よ
もしあなたがあって
秩序が
そして無秩序さえも
共に保たれているような定まりの
世界に生まれていたらきっと
神を信じていられたらきっと
僕はどれほどか幸せを胸にして
道徳を求めて生きてきたことだろう

夕やみの赤さは哀しくて
衰えかけの想いさえも
話し掛けても答えは来ない

作られた自動レールの上を
四択の言葉を交わし合うような
不気味な世の中にもし誰か

交わすべき言葉を探している
その程度の誰かがきっと居て
共に苦しんでいたらどうしよう

僕はどうしたらいいだろう
そんな人がそっと影で
涙を流して弱っている

沢山の餌を求める
娯楽とわらいの餌を求めるだけの
その度に一つづつ言葉を忘れた
おぞましい快楽の生物に支配されて

僕はどうしたらいいだろう
馬鹿げたシステムに飲み込まれて
小さな世界で死にかけている

幾つかの誰かのために
僕はどうしたらいいだろう
世界に戦いを挑んで
僕達殺されたとしても
誰かを殺すことになったとしても
戦い抜くことが本当の
生きるというような気も
そっと心に起こるのだけれども・・・

もう十年人の言葉を知らず
もう廿年誰の言葉も理解できず
だとしたら彼の一生はもはや
不幸に帰結したみなしても
差し支えないことでありましょうや

愚かな生き物が言う
命が保たれれば幸せだと
愚かな生き物が言う
もの溢れれば幸せだと

あなた方の精神世界の
乏しさに苦しむ人が泣いている
未来の子供達がなおさらに
乏しさに育てられてまるで
虫けらみたいなみこころを
植え付けられても羽ばたいた

虫となればなるほどに
同質のものを好む彼らの
薄っぺらの辞書で澄ませた
会話の見事さを見つめている

あれが世界だとするならば
いかなる言葉も意味などあらぬ
言葉の羅列に過ぎぬのならば
これほどの世界に僕のことなど
どうか生み出さないで欲しかった

死ぬことは哀しいのです
それは私も同じなのです
だから生きてすこしでも
立派な世の中を築きたいのです
それが私の願いであり
それが私の幸せだった
だけども・・・・

享楽の園はいよいよどす黒く
笑いのみを求めて疾走する
嘲笑とそれから感情の
デフォルメに満ちて揺り動かした
娯楽に浸って一生を
人でなしの一生を
下らなく過ごすだけなのだ

だからもういさぎよく
僕は終わりを告げようと思う
だからもう美しく
生きるためにはあまりにも
世の中は狂ってしまったのだから・・・
そうでないならば私が
狂ってしまったのだから・・・

そして僕はあなたがたに言っておく
最後に言っておくことがある
僕はこの国に決して居なかった
この世に決して居なかったほどの
偉大な詩人であったと

2009/2/10

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