あやまち

[Topへ]

あやまち

一日生き延びればそれだけ
どうしてこころは穢れるだろう
足をばたつかせるだけでどれくらい
清らな水は濁りに害されるだろう
僕はどうしてもっと空っぽのまま
屈託もなく生きていかれないだろう
世の中はどうしてもっと穏やかな
まごころを基調にしたどぎつさのない
そして安いエゴで満たされないくらいの
平明を保つことは出来なかっただろう

感情の起伏をのみ拠り所にして
立て続けにむさぼり食らうほど
さらなる刺激の強さばかりを
追い求めてなみだを目ざした人民は
シナリオもジェスチャーも話し言葉も
あらゆるものを奇妙にデフォルメさせて
この世のどこにもいらっしゃらないような
奇妙な箱庭を築きあげました
そこにはもっと生真面目な人々も
あるいはまだずいぶん生存するのでしたが
己が世界を保つための何の努力もせず
あらゆる破廉恥をのさばらしにしたあげく
それにかえって自分の方が肩をすぼめ
へらへら笑いながらの毎日をばかり
暮らしてゆくばかりのすがたなのです
破廉恥は咎めるものの無いのを好いことに
大空高くに羞恥心なく羽ばたきあがりました

毎日毎日僕らの未来図のために
あなた方はなぜノミを振るわないだろう
言葉が雄叫びに替えられたのに
あなた方はなぜそれを咎めなかったろう
ピエロみたいな奇妙な身振り手振りを
なぜ罵ってやめさせないのだろう
不釣り合いの塗りたくったお化けから
なぜ共同要因の一座を排除しないだろう
安い看板が無秩序に落書きするときに
あなたがたは自らの町のことをわずかばかりも
憂えるくらいの小さな美的センスを
こころをなぜ持ち得ないのは何故だろう

世を憂えているつもりのあいだに
こころが歪んだ鏡みたいにして
自分の心をいっそう憎たらしく
毒してゆくのを僕は感じるのです
僕はうつくしくて生真面目で
そして平穏な生活をばかり
散歩道を楽しむくらいの長閑さで
一生を送って見たかっただけなのに
すでに学校に入った途端に穢れてた
そんな思い出ばかりが降りしきるのです

それで大地が真っ白に清められたら
粉雪の仕草で僕もほっと息を吐き
どれほど安堵することでしょうか
あるいは僕ひとりが間違いであり
大合唱の皆さんばかりが正統で
破廉恥を持って次世代を育んで
原色の色塗りするのが未来だとしても
だけど僕はもう恐れはしないのだ
穢れた僕のこころでもってなおさらに
その奇妙なエゴの大合唱とやらを
糾弾だってしてはみせるけれども……

けれどもう最近疲れてしまいました
何を思っても叶うわけでもなし
誰かが答えてくれるわけでもなし
何が作用するわけでもなし
すっかり参ってしまったのです

人にとっての最低限度の希望は何か
誰かが僕に尋ねようというのであれば
僕はしっかりとお答えしましょう
それは人にとってわずかばかりの反作用が
自らの行為に対してささやき声で
答えとなって跳ね返ってくるくらいの
灯火(ともしび)じみた小さな明かりなのです
それを追い求めているうちに僕らはきっと
年ごとにもっと真っ暗なほこらへとばかり
封じ込められるような有様でしたから
てまるで鱒二氏の描く山椒魚みたいに
あきらめ切れずなお逃れられぬような
壁に遮られて尽くす始末なのですから
僕はもうただ穢れゆくことだけでしか
自らを主張できなくなっているのでした

知性のないお化けばかりが笑うでしょう
人としてのわずかばかりの考えたり苦しんだり
その行為だけが僕らを今の生活圏にまで
引き上げる原動力となったというのに
かの生き物どもはそのシステムに寄生して
システムの栄養を奪い取りながらさんざんと
食い散らかして喋り散らかして笑うでしょう
嘲笑と物欲と娯楽以外に何も存在しないみたいな
彼らはいわばオプティミストたちと表裏一体で
いつも肯定やら喜びばかりを得ることばかり
次から次へと追い求める一方で
考えべき時の狭間をわずかがっかりで
澄ましてしまい論考はまるで進まず
たちまちオプティミストのほほえみで
すべてを忘れ去ってしまうのでした
高尚なものを得ることは永遠(とわ)に叶わず
表層文化にのみ寄生しひたすら邁進する
とある大国のなれの果てのすがたとはこれまた
例の二十年代とやらのあの空っぽのお姿と
何とまあ発展せずに同平面に横たわるのだろうか

僕らはそれに尻尾を振りながら
これより先は彼らみたいにぐるぐるまわりながら
奴らと行動を共にしてすっかり不甲斐なく
そのうちによその国々にさえ追い抜かれ
相手にされぬ頃にはきっと活力も
朽ち果ててしまえばまだしも結構なのだが
こんどはその奇妙な文化で世界を毒そうと
輸出しながらなお大いばりなのです
長らくの周辺へのご迷惑ばかり
お掛けし続ける夜明けを想うにつけ
僕は近隣の皆様方にだけはひっそりと
謝罪の意を表したくなるほど悲しいのです

たぶん僕一人が永遠の間違いであって
もう人々は何の屈託もなく町の中
雄叫びみたいな笑い声で満たしながら
挙動不審の世論とやらを巻き起こし
花吹雪の中を己惚(おのぼ)れ顔して歩んでゆく
そして自分のことをばかり一方的に
互いにしゃべりまくることでしょう
なぜなら相互に会話を成り立たせるには
あまりに彼らはもう乏しくなってしまい
安っぽい自我にとっては雄叫びくらいの
単語に近い言葉ばかりを満たすことこそ
この国の喜びともなったのですから

たぶん僕は間違っているのでしょう
そうして誰一人うしろ指を差すでもなくて
はなっから存在しなかったのと
同じような無意味な路傍の石となり
僕自身の下方変位したこころでもって
僕を押しつぶしてしまうことでしょう
そうしてもう僕はどこにも幸福という名の
足跡をすら見つけ出すことが出来なくなって
真っ暗な曇天の夜道をさ迷うみたいにして
静かに河原から足を踏み外して
狂ったみたいなポカンとした口をばかりに
ぷかぷかと漂いながら流れてゆくのでしょう
そうしてその時もきっとあなたがたは
まるで僕のことなど眼中になくて
僕ははなっから存在しなかったことと
まるで同じことにさせられてしまうでしょう
そうして僕のお墓はいつも花を切らし
それでも作って貰えただけで幸せだろうと
それでも僕はなみだを流しながら
歓喜にむせばなければならないのか
そう思えばなんだかうんざりもし
同時にやりきれない悲しみなのです

2009/8/4

[上層へ] [Topへ]