ずいぶん歩いて来たけれど

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ずいぶん歩いて来たけれど

ずいぶん歩いて来たけれど
そろそろ終わりにしませんか
足もとすっかり暗くなり
靴の底さえ破けてた

人のいのちの尊さを
脅(おど)すやくざの仕草して
ヒステリックに吹聴し
生きろ生きろと殴ります

乏しきことかな楽天的
陽気さばかりを正統と
みなさんほどの空っぽで
向上心さえ失せました
元来いのちは悲観と楽観
触れ合う針の弛まぬ努力を
バランス保たれ人のこころも
総体豊かとなるが至極まっとうを

楽観ばかりが針の先
深刻と思考と発展と継承と
連鎖を断ち切る不始末を
軽薄に置き換えて謳歌する
笑いばかりを来る日も来る日も
求めるばかりがなれの果て
病んでいるのはあなたでなくて
社会総体ということもあり得ることを
わたしひとりは諭してあげたい
こころ苦しい誰かのために
宣言しておこうと思うのです

千の嘲笑をものともせずに
わずかひとりの涙のために
あるいはその人のほんのわずかの
同意とそれからこころの安らぎを
与えたいがためにこそ僕たちは
必死に歌わなければならないのでしょう

まるで大衆を動員して
売れた数さえ歓喜で満たし
強権力にでもなったみたいで
叫びまくるくらいが歌だとは
必然大衆の同意を得んがため
無難な歌詞へと陥るばかり
彼らはそれを金の亡者ばりに
遣っているならまだしも救いだが
実際は奴らと同一レベルの
個性も違いもあらざるばかり
ならばこそ彼らは大衆の支持を得て
それな歌声ばかり溢れ返ったる市中(いちなか)を
いつしか穢れた草木ばかりが満ちあふれ
恐らくもうその国の文化は末期的な
手術も叶わぬありさまであったということを
私はただただ苦しむあなたのために
そっとお話ししてみたかっただけなのです

ずいぶん歩いて来たけれど
そろそろ終わりにしませんか
足もとすっかり暗くなり
靴の底さえ破けてた

だけどわたしはこのことばかりは
あなたに口にすることは出来ません
それはただもし誰かのために伝えるべきものならば
それはただ私のためにのみあるべき言葉
いかに苦しみから逃れることとはいえども
それはただ私のためにこそあるべき言葉で
他の誰かのために呟いても良かろう筈はなく
それは今の世に倫理などあろうはずなくて
自在のたましいを夢見る芸術家どもの
自殺をばかりもついに奨励するにしたところで
それはまるで欧州十九世紀じみたる
遙かなる時代錯誤であるがごとく
人がひとに対する最低限の礼儀くらいは
守っていかなければならないと思うのであります

ずいぶん歩いて来たけれど
そろそろ終わりにしませんか
足もとすっかり暗くなり
靴の底さえ破けてた

僕はそう歌いながら泣いている
涙は床にこぼれ落ちてしんみりと
あきらめに似た乾きを待つばかり
けれども僕は知っているのだ
こころの奥にまだ潜んでいる
本当は幸せを求める小さな夢が
埋火(うずみび)みたいにして燻っているのを

僕はそろそろ終わりしようなどとは
今はまだ偽りの言葉に過ぎぬとはいえ
呟くことなどはまるで出来ない有様なのです
けれどももう一方まるで駄目な気もするし
僕はこれからいったいどうしたらいいだろう
取りあえずあなたにはただひと言だけ
僕にとってはただ滅亡を指向する末期(まつご)にさえ
あなたにだけはまだ生きろとは言いたいのです
そしてただそれだけのことなのです
お休みなさいまた小さなわがままで
僕は明日をまたなんとか生き抜こうとも想うのです
何の希望もない干からびた一本道を
また一歩踏み出そうとは考えているのです

2009/8/5

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