無題

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無題

ありがとう僕はなんとか
やっています僕はどうにか
なんて始めてみたけれど
どうも興がのらないのです

なんだかつまらない
みんなみんなつまらない
歩っても眠ってもさえないくらい
時計の針がカチカチ呼ぶのです

いろいろ食べたって報われない
明日になれば忘れちまうばかりで
忘れちまうばかりの累積の果てに
ずいぶん悟るくらいは生きたものです

それでもなおさら下らぬことばかり
さえずる気にはもはやなれぬのだし
飲み頃のあの瑞々しい喜びさえも
今ははやただ酔うの一辺倒で
なんの当てさえないのですから

蟻んこと同じことですよ
ぞろぞろぞろぞろ駅から溢れて
あれでまあよくも乏しい自我を
互いに自慢しあえることかしら

酒場会話の稚拙さよ
なんの思想も哲学も
どこ吹く風やら知らぬまま
娯楽を取ったら一人とて
意識の通じるものもなし

想えばずっと一人ぼっちでした
誰ひとりわたしには分からない
怖くって道化て見せるばっかりに
ずいぶん馬鹿にもされたものでした

それでひっそり誰をも恨み
されどもにこにこほほえむばかり
立派な人だと想われもしたら
おっかなびっくりの世の中です

蟻んこの密集地帯じみた
物思う蘆などまこと的を得た
言い得て妙な喩えではありませんか
蘆寄りそえば思うこと少なく
まことそれは湿地帯の総体的な
おぼろげな意見の一本一本の
意志なき者どもの集積された
愚痴やぼやきには他ならず
はぐれて眺めるぽつねんの
黙って見つめるわさわさは
まことにあたたかそうではありますが
同時にどれもが総体としての
取るに足らないひとつひとつの
群がる姿には他ならず
ただただ当惑するばかりです

どうかお笑いなさいますな
僕は本当に真面目な心持ちして
全人類分のたったひとりくらいの
いのちの意味を悩み暮らしながら
必死に歩いて来たのであります
あげくの結論がまるで空っぽの
干からびちまった散文のオチで
最後まで空箱でございましたでは
情けなくて情けなくて言葉なく
なみだばかりがこぼれる有様です

また朝が明るんでいます
そうしていま頃の酒などを
もう何年も飲み続けているやら
朝も夜もなんだか変わりなく
こころもからだもひかり求めず
まるで区別もつかないありさまです

それで何と言うこともないのです
ときおり絶望的な暗闇ぽかぽかと
こころに沸き起こっては来るのですけれども
それでも長らく付き合い続けるばかりに
クスリもなにすら必要ないくらい丈夫で
僕は恐らくそれでもきっと
誰かに手渡した途端にその相手を
メデューサの首くらいには硬直させる
真っ暗なこころをこうして保っているのですが
それとて自然のひたむきな冷たさの
氷上界のペンギンどもにはまた
スノーボールじみたる惑星やらにはまた
取るに足らない寒さではありまして
なまじっか意識を持ったばっかりに
ぬくもりくらいのあたたかさが必要で
寒さから逃れたい一方から離れられずに
ただただ苦しんでいるばかりです

そうしてだらだらとした落書きを
こうして記すうちにまた眠くなり
少しは悲しみも酔いぼかされて
こんな時にはとりわけ芋焼酎の
薄めごおりのありがたみをさえ
ちょっと想っては見るのでしたが……

幼き日々のたとえばとあるホテルで
両親に連れられてまるで屈託なく
夕食をいただいたあのテーブルの影を
不意に思い浮かべて僕はなおも今
手に取るナイフとフォークの感触すら
口つけたソーダ水のストロー加減すら
そのままに思い起こされるものですが……

さりとてえいとこころに念じたからとて
その瞬間はどうしても目の前には取り戻せず
今はただくだらない今のままでありまして
何も変わってはくれないのであります

さりとて何を望むでもなく
あの頃へ帰ったら帰ったでまた
同じ生涯をだらだら歩き出すばかりでは
果てなく苦しみの引き延ばされるばかりで
あるいは新たなるこころを切り開いたからとて
それはあまりにもくだらない非哲学的な
やる気とか自己肯定とかのなせる技に過ぎず
ほんに僕らの命の意味ばかりを極限として
追い求める無意味な精神ばかりのこの僕の
はたしてこれからどこへ向かうことやら
皆目見当も付かないありさまです

そろそろ終わりにしましょうか
どうやら意味も分からぬままに
だらだらと駄文の度を過ごしました
それはただわたしが酔いにまかせて
まだ無くならない焼酎の入れ物の
転がす氷が溶けきらないひと間の
暇つぶしくらいの出来事でありまして
なるほど他に意味すら見つからず
皆様にはただただ落書きばかりでありまして
まこと恐縮のいたりであります

ああ朝が八時を回って
ようやく羅列が馬鹿らしくなって
僕はまたしばらくここを離れて
だらだらと蒲団にもぐりこんでは
悲しく枕に慰めを求めるみたいにして
だらしない寝相を迎えることでしょう

誰もが偽りの生き方を
本物を求めるでもなく謳歌します
プラスチックの時代が到来して
おそらく崇める神さえももはや
プラスチックの仏像くらいの
あるいはブリキの十字架くらいの
ドラキュラも逃げぬ偽物じみた
模造品くらいのものになり果てました
そうして本物はもはやどこにもあらず
それなのに模造品を宝石みたいに暖めて
誰もが偽りの生き方を真剣に真剣に
本物を求めるでもなく謳歌するばかりです

ああ、私はもう眠りましょう
氷がすっかり溶けてしまいました
ずいぶん情けないことをお書きいたしました
またいつか懲りずにお会いしましょうか
僕がいてあなたがもしいるのならば
僕はまたすぐに駄文でお知らせしましょうか
さりとてこころ交じわすでもなく
誰もがすれ違うばかりなのであります

追伸

昔僕らはお前はそうかも知れないが
俺は違うとかこうでなければならないとか
それぞれの意見の総体でもって社会を築いていました
それなのにいつの間にやら、お前はそうかも知れないが
俺もやはりそう思うだとか、それはごもっともだとか
偽りの意見を全員で封じ込めようとかいう
まるで同調ばかりが世の中に溢れてしまい
それは社会総体としては末期的症状には違いなく
患者はいったいどこへ護送されてゆくことやら
これより見込みのないこの悲しい僕らの島を
生きていくのはあまりにもぶざまであるようにさえ
僕には思われるくらいにさみしいのです

2009/9/15

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