長歌にすらなれなくて

[Topへ]

長歌にすらなれなくて

綱渡りしてたピエロの
糸さえも切れて身振りを
ひとびとの笑いするなか
絶望の叫びあげれば
網もなく床のかたさに
打ちのめす頭ひとつと
もう楽に何も無くして
考えることも忘れて
眠れればよいのだけれど

振り返るいまひとたびの
長らくの時の流れも
今さらの意味をなくして
どれこれも鮮やかなるまま
瞳閉じ指をかざせば
触れられる気配もするのに
こんなにも今の惨めを
慰めるなにものもなし

それもなを僕のあかしを
立てるのは名前ばかりで
なにもない生きるあかしも
歩きゆく夜更けの町に
今そっと粉雪舞い散り
清らかにこころ宥めよ

だってさあ、万葉の世じゃあるまいし
いつまでもどこまでも七五調ばかりで
やっていけるものかと思うわけだし
こうやって律するものが破られたって
今では誰も咎めるものすらありゃしない
それは自由のように見えてその実本当は
空っぽみたいになっちまうばかりでして
僕らのいのちの豊かさを奪うばかりの
すっからかんのなれの果てかもしれません

だとしても
歩かなあかん
そう思い
生きてはきたけど
明日また
繰り返されてく
怠惰なら
怠惰だったら
怠惰のままだったら
僕はどうしたらいいのだろう

時の鐘が鳴り響くリンゴンと
その音に怯えながら僕らはきっと
歩いて行くのは不幸でも何でもなく
その音すら知らずに享楽ばかりの
世の中はきっと穢れるばかりで
本当の不幸はその汚れた中に
放り込まれてなおかつくるしみを
こらえて生きるほんのわずかの
人々の心にあるような気持ちも
するのではありますが……

ほらねいままたリズム来て
閉ざされる自由だけれども
かといって不幸でもなく
かといって虐げられもせず
字余りも字の足りなさも
手拍子のわずかのずれを
優しさにつつむくらいの
逸脱は詩情なるかな

君は今分からないのだ
僕だけのこのまとまりを
つかめずに朽ちたポエムと
ののしりを上げるばかりだ
馬鹿だなあもっとひたむきに
繰り返し、近づいてみれば
全体の、この全体の
意味なんて、すぐにつかめるのに
君はもう、もっとたやすい
娯楽へと、立ち去るばかり
そうやって、軽いものだけ
溢れてた、この今の世に
僕はもう、最後の思い
重ねつつ、眠れないまま
書き記す、駄文ばかりを
酔いもすれ、酔いもすれども
あながちは、この構成を
ひたむきに、思い遣るかも

だから言ったじゃないか、これは長歌では
ありませんって、間接的に僕はきっと
もう詩の中で言っているのになんでまた
こんな戯れ言のなかに真実の欠けらくらい
籠もることを見破れないのはなんたることだろうか
だから言ったじゃないか、僕はまっさらなままで
僕のこころの営みをつかの間に羅列して
何の責任もなき一筆書きのままで
逃げ出すばかりのこころであろうと

もすこしお酒飲みたいのです
もいちど韻を踏みたいものです
漏れ出すひかりの並大抵の
見たい想いもあるでもなしを
ここのところはわずかばかりに
戯れまさって、真実かげろう

一つの情念もどかしく
一つの願望得難くて
一人で夜明けの鐘を打つ
ひなびた曇の空の灰色

お休み皆さんまたいつものひと言で
お休みなさい皆さんお決まりの挨拶で
今日だけ生きた辛うじての意味さえも
提示しながら僕は眠ろうと思うのです
布団くらいの暖かみでもって秋の朝を
酒と共に過ごしてはいるのです
ある愚か者がきっと言うでしょう
アルコールに溺れているなんて
いえいえそれはまるで違います
ソレハトンダゴカイデアリマス
ボクハマッタクヨッテモイナイシ
カトイエバマルキリサケナドナクテモ
ハジメカラ、ヨッテイル、ダケナノデ、アリマス
サヨナラ、サヨナラ、マタアシタニ、アイマショウ
ボク、ズイブン、コンナイタズラ、バッカリオボエテ
ホントウノ、コトハ、ドコヘ、イッタノヤラ、
ソレトモ、コレダケノコトガ、ホントウノ、シンジツデ
ハナカラ、ネガイハ、ココニ、アッタモノカ
ボクハケッシテ、ハジメノナガウタノ
リズム、ワスレタ、ワケデハ、ナイノデス

まだ終われない歌ならば
始めに戻って韻ばかり
辛うじて踏んでは見せましょう
崩れ崩れてたちかけの
案山子みたいな侘びしさと
切れそうな糸一本の
風にあおられた危うさを
乗り切った今日を終えるため
お休みなさい、また会う日まで

2009/10/02

[上層へ] [Topへ]